第一四幕 魔女と一緒に風呂
ミラさんと別れてから、俺は屋敷に戻った……のだが。
「……それで、これはどういうつもりなんですか?」
「んん? 聞くぅ? それ」
クロウ邸は廃墟に近いが、風呂場と台所、彼女自身の寝室に関してはしっかりしている。
俺の部屋は自分で工夫し始めたばっかりだから、夜風が寒かったりもするが、「金を稼げるようになったらお前の部屋のこと考えてやる」……と言われたので、もう少しの辛抱だと思って耐えている……が。
オービスは頭を泡だらけにしながら後ろで笑っている彼女に苦言を呈す。
「なんで、師匠と一緒にお風呂入らなくちゃいけないんですか」
「えー? だって汚い弟子をクーちゃんたちに洗わせるのは忍びないしぃ? ……よかったのかなぁ?」
「……ありがとうございます」
認めたくないがオービスは不服そうにしながらも素直にアーテルに感謝する。
流石にクーさんに頼むのは、不可能だ。使い魔が人間になるならあり得ない話じゃないけど……虫に体を這われると思うと寒気がする。師匠にそれ言うのは、ちょっと難しい。
というか、絶対ににやにやとしたり顔でからかいに来るに決まってる。
「クーちゃんは素直にお前の全身を這い回ってくれるだろうにぃ」
「……やっぱそういう魂胆ですね?」
「にゃんのことかにゃあ? わからんにゃぁ」
「うわっ」
唐突に頭にお湯が流れてくるのを感じて咄嗟だったため目に水が入った。
うぅ、見えない。師匠、絶対にやにやしてるのが余裕で浮かぶっ……くぅ。
「……言ってからお湯かけてくださいよっ!!」
「あー? 文句あんのかお前。せっかく師匠であるアタシが洗ってやってるのに」
「頭と後ろしか洗ってないじゃないですか」
「……前の方まで、丁寧に洗ってほしいのかぁ、そうかそうか……遠慮しなくていいんだな?」
アーテルはオービスの背中に自分の胸をあてがう。
ふんわりと柔らかい感触にオービスは顔を赤らめる。
「な、なに、してるんですかっ!?」
「師匠権限を行使する、お前が言ったんだぜ? ……体の隅々まで洗ってやるよぉ」
「や、やめてくださいっ……俺の精神面は成人男性なんですよ!?」
「アタシに謝ってくれたら考えてやってもいいぜぇ? ……どうする?」
オービスは慌てて縮こまりながら声を荒げる。
「……っ、すいませんでしたっ!! 自分で体を洗うので出てってくださいっ!!」
「はぁ? アタシはアタシの体を洗うんだ。お前がさっさと体洗って風呂使ってから出ろや」
「わ、わかりましたよっ!! ……?」
師匠に面と向かって抗議しようと思ったら、泡で大事な所を隠れているのを確認してから、師匠の胸元、心臓の一に当たる場所に傷跡があった。
「師匠、その胸の傷って」
「ん? ……ああ、大っ嫌いな奴に強引につけられた傷だ。消えないキスマーク、なんて言ってな……お前はどう思う?」
「……好きな人に対するこうとは思えません。体に傷を残すとか、最低ですよ」
「お前はそう感じるんだぁ? 初心だねぇ」
「初心ですかそれ? ……好きな人を傷モノにしたくなる精神の方を疑いますよ」
「……へぇ」
以外そうに囁くアーテルにオービスは違和感を覚える。
……? なんだ? 普段の師匠ならもっと弄りに来ると思うのに。
「まぁ、そういうことは惚れた奴にでもいいなぁ? アタシみたいな奴を捕まえたら、ろくなことないぜぇ?」
「師匠を捕まえたい気持ちなんてありませんよ」
「言ったなぁ? おらっ!!」
「うわぁ!! 頭わしゃわしゃしないでくださいっ、せっかく洗ったのに!!」
「はっはっは! いい気味だわぁ」
師匠の反応がおかしいのを感じながらも、問題なく風呂場を後にした。
「師匠の裸体はどうだったぁ? 弟子ぃ」
「うるさいです!!」