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転生者の御伽噺世界(フェアリーテイル)  作者: 絵之色
第二章 海色の青頁
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第一一幕 魔力を巡らせる練習

「……すぅ」


 オービスは掌の上に魔力を通す感覚を身につける訓練を自主的に行っていた。

 今日も今日とて、その練習である。今の自分には難しい感覚で、自分の心臓の熱を感じ取る感覚に近いらしいが自分にはなんの違いなのかよくわかっていない。

 既存作品なりなんなりと、異世界物の主人公たちの理解力が長けていると思いざるを得ない……どうやってこの感覚を彼らは習得していたのだろう。


「……難しいな」


 要はインスピレーション、意識的な問題だと彼女は言っていた。

 転生者……基、転移者である自分にとっては感覚的に転生者の方が実感しやすいそうだが、転移者である自分にはなかなか習得ができないでいた。


「……お前ぇ、学習能力が低いな」


 師匠は外に置かれた椅子に座ってテーブルに頬杖つきながら呆れていた。

 師匠の言葉にイラついて、声を荒げる。


「転移者なら、習得は転生者よりも低いって言ったの師匠ですよね!?」

「当たり前じゃん、お前一日にあった出来事を忘れる猿か何か?」

「ひどい!!」

「当然、転移者は転移者でも他人の死体の中に入ったパターンは特に自分の体を認知するのに時間がかかる。それは転移の仕方の違いも関係してるんだ」

「……わかってますよ、そんなの」


 オービスは自分の手のひらを見つめる。

 物語の中で軽々と理解していく主人公たちよりも自分には彼らと大きな差があるのも事実。

 世の中の大人たちが子供に聞かせる、「人生は自分が主役」という言葉は転生前の自分でも納得できたためしがない。なぜって? なら、俺は作家の夢に諦観を抱くようにならないはずだからだ。

 本当に自分の人生が主役ならば他人と生きるのに、脇役を選ぶ人間なんて早々いない。


「……諦めるか?」

「……きれるなら、こんなに葛藤するわけないじゃないですか」

「そうかよ……そうじゃなきゃ、アタシがお前を弟子にした意味がない」

「え?」

「お前の自我がある限り、お前が焦がれる夢に挑めるのはお前以外ない。他の誰かは、他の誰かの夢でしかないんだよ」

「……何かっこつけてるんですか?」

「せっかく師匠が助言してやれば、その反応かぁ!? いいねぇいいねぇ、ナマイキだぁ」


 師匠は椅子から立ち上がると、俺のおでこをつんとついてきた。

 額から体が熱くなってくるのを感じる。

 それが全身に広がる感覚で、頭の中が冴えてくるのを感じる。

 視界が、いつもと違う感じがする。


「……今感じた感覚を忘れるなよ、弟子」

「え? こ、これって……?」

「あくまで一時的なものだよ、その感覚に慣れれば自然と魔力を日常的に使えるようになる。そのためにも魔力を巡らせる訓練は魔力が常時巡らせられるようになるまで常日頃習慣化させろよ、弟子」

「……は、はいっ」


 師匠の気遣いに感謝して、オービスは強く頷いた。

 この感覚を忘れないようにすれば、俺は魔力を使ってホロウガーランドで溶け込めるんだ。


「お前の努力次第で、ユニークスキルどころか、ユニーク魔法も叶わないことになりたくないなら励みな」

「わかりました、ユニーク魔法もでき、ユニーク魔法……ユニーク魔法!?」


 ユニークスキルならまだしも、この世界にユニーク魔法なんてものも存在するのか!?


「何素っ頓狂な顔してんの?」

「いや、転移者っていうか、転生者がユニークスキルを持つのは以前教えてもらいましたけど、ユニーク魔法については言ってませんでしたよね!?」

「当たり前だろ、この世界に転移してきた物でも自分自身のユニーク魔法は必ず持つ。この世界、ホロウガーランドで持たない者は存在しない。つまり、転移者であるお前も自分だけのユニーク魔法は得られる」

「……俺だけの、ユニーク魔法」


 オービスは自分の両方の掌を見つめる。

 このまま、魔力を掌に集める練習を欠かさずすれば、自然と身につくのか。

 ……頑張ろう。

 自分のユニークスキルと、ユニーク魔法を得るために。

 オービスは固く、練習を欠かさずにやることを固く誓った。


「それまでの間は反復練習だなぁ、まぁ? できないままアタシの屋敷の中にいるのもダメじゃないけど」

「お断りします」

「はぁ? 師匠がせっかく気を遣ってやったのに何その反応、殺されたいの?」

「師匠は、新人の芽を摘むなら徹底的に絶望させるところで摘む方がいいのでは?」

「……一理あるかなぁ」


 一理あるじゃないだろ師匠。

 アンタのそういうところ、ホント魔女らしいな。


「あん? なんだその顔はぁ。そんな悪い顔するのはこの顔かぁ? この顔面かぁ?」

痛いです(いふぁいれふ)! 痛いです(いふぁいれふ)師匠(ふぃふぉふ)!!」


 師匠に全力でほっぺを引っ張られる。

 痛い、今まで友人たちにされてきた引っ張り具合と全然違う。

 これ、全力だ。全力だ。ほっぺ元に戻らないレベルで痛い。


「なら、アタシの命令、聞けるな? 弟ー子?」

聞きます(ふぃふぃはふ)!!」

「よし」

「……っぷは! 頬、垂れるかと思った」


 師匠は俺の返事に満足したのか、頬から手を放す。


「んじゃ、反復練習忘れるなよぉ? それ見ながら練習欠かすようなら、お前を今日の晩飯にするからなぁ」

「……き、気を付けます」


 師匠が去る中、紙切れが地面に落ちる。

 書かれてある項目をわかりやすく言うなら基本的にストレッチで体に魔力循環を行う、という内容だった。ストレッチで魔力が体を循環させる、って……なんだか大変だと思うが、やるしかない。


「よし、頑張るぞ!」


 オービスは固く決意を声高に青空へと響かせた。

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