【お礼小話】出会い:クライド・フェロウの場合
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よろしくお願いします。
紹介するよ、ぼくの妹だ。
魔術学院の高等課程で仲良くなった友人が、知り合ってから初めての長期休暇の折に屋敷に招待してくれた。よその屋敷に呼ばれたのは初めてで、舞い上がりつつも喜んで受けた。
もちろん、相手にそれがばれぬよう、顔に出さないように細心の注意を払ってだったけれど。
約束したその日、訪れた最初の出迎えの中から紹介されたのが、彼女だった。
案内された客室にあったのは、足元から天井近くまでの大きな窓。そこから差し込む日差しは柔らかで、きっと外は陽気のあまり暑いだろうけれど、その熱はここまでは届かない。
ただ、その差し込む光の中へ、兄によって促されて飛び込んだ小さな少女がいた。
「ローズ。兄様のお友達だ。ご挨拶できるか」
はい、おにいさま。と微笑む少女は、きっと五歳にも満たない。くるくると輪を描く金の髪を愛らしいリボンで結い、精一杯整えた身なりで、覚えたばかりの貴族令嬢の礼を披露した。
微笑ましく見守る伯爵夫人と、自慢げに胸を張る友人を見て、つい、一歩足を踏み出す。片膝をついて、おい、と声をかけた。
「過保護な兄を持つと苦労するだろうね。困った時は、俺が助けてあげよう」
助けてくれる。その言葉尻を繰り返して、小さなローズはキョトンと瞬く。澄んだ大きな瞳は、空を映したかのような青さで俺を見つめ返した。
「はい、クライドさま。わたしがこまったら、ぜひ、たすけてくださいな」
情けない友人の悲鳴と、母親の笑み。遠くで赤子の泣き声が聞こえて、「たいへん、あかちゃんがないているわ」とローズが血相を変えて走っていった。乳母がいるから平気なのにね、と友人は肩をすくめて、もう一人も妹なんだ、とだらしなく笑う。
同じ伯爵家とは思えぬほどの暖かな一家に、俺は小さく息を吸って、この家に濁った何かを吐き出さぬよう気をつけた。
「フォルア伯爵夫人、この度は、母を魔術教師として雇っていただけると伺いました。失礼ながら、この場を借りてお礼申し上げます」
「あら、あらあら。いいのよ。まぁ、ご丁寧に。クライド様はもう立派な紳士ね。ふふ。お母様によろしくと伝えて。ローズもいずれ魔術学院に行くだろうけれど、制御を覚えるのは早いに越したことはないでしょう? あなたも苦労したものね、もちろん、お兄様も大変でしたよ」
ねぇ、と友人と言葉を交わすフォルア伯爵夫人は、コロコロと笑いながら、
「ローズが入学する頃には、あなたたちは卒業ね。もう進路は決めていて? あぁ、まだ専攻もこれからですものね。素敵な未来を選び取りなさいね」
強張った表情がバレていただろうか。顔に出さないように気を張り詰めていたのが見抜かれたのかもしれない。伯爵夫人は、俺の頰に優しく触れた。もう片方の手では、髪を撫でてくれる。小さなローズの金髪も、青い瞳も、全部がこの人似なのだった。それでも髪はまっすぐで、結い上げていないひと房がさらさらと揺れている。
「うつむかないで」
美しい人が言う。
貴族にあって、疑いたくなるほど優しげな声と、手で、祈るようにして言った。
「あなたたち子どもの未来というのは、いく筋もの道があるのですから」
もっと需要がありそうな騎士か魔法使いにするつもりでしたが、本編に響きそうなエピソードしか出てこず。
クライドさんとローズの実家まわりの補強もかねての小話です。