ボカ沈組
日本海軍には、「ボカ沈組」と呼ばれる人間がいた。
「ボカ沈組」とは、乗っていた艦船が、付近の海域で沈められた者の事を指す。
日本海軍は、日本近海での戦闘をほとんど経験していない。主戦場は太平洋の広い海域であり、当然、無傷でいつも戦いを終えていた訳ではない。
艦船が、一隻沈む事などざらにあったし、ミッドウェー海戦では、空母4隻を沈められる大失態を犯した。
当然乗り組む人間は、生き残れる人間もいれば、溺れ死んだ者もいる。生き残っても、また別の艦船で戦いに戻される。一度失った艦船は戻らない。でも戦争は続く。
「ボカ沈組」であろうと、なかろうと。
日本海軍の人材不足は深刻だった。
だが、彼らは艦船を変えて戦いに臨む。兵員を輸送する任務では、戦闘と同じくらい労力を使う。ならば、現地に残っている人間を使う方が、効率が良い。
もちろん、「ボカ沈組」である彼らを全て乗せることは、物理的に無理である。
最も、戦局の悪化に兵員の補充が間に合わなくなるので、焼け石に水であるのだが。
艦船が沈められた人間は、さぞ肩身の狭い想いをしてきたのかもしれない。
だが、そんなことは、敵を前にしては何の意味もなさない。沈められた艦船で全力を尽くそうという、気持ちは大切である。
だが、そんな気持ちがあっても、近代兵器の前では無力である。そのくらい、兵器というものは無情であり、非情である。死ぬ時は死ぬし、生き残る時は生き残るものである。戦いは、剣から銃へ、銃からミサイルへどんどん進化していく。




