ホゾ繋ぎ
散々何の働きもしていなかったと、批判されてきた大和ではあったが、もし実際に１つの作品として戦艦大和に接していたら、人間にこのような物を造れるのかという、畏敬の念に打たれていた事だろう。
大和で何が一番凄いかと聞かれれば、それはあれだけのモノを具体的に造り上げる事が出来た「現場力」であろう。
大和の技術そのものは、日本でオリジナルに開発したものというよりも、イギリスやアメリカなどの先進国が生み出した成果を、着実に組み上げたという要素が強いだろう。
しかし、個々にいくら素晴らしい技術力があっても、それを具体的な船としてまとめあげるのは、全く別の力が必要とされてくる。
ことに大和は、まさに誰も造った事の無い巨大戦艦であったから、現場は常に未知の領域と格闘し続けなければならなかった。
防御甲板だけをとっても、最大41㎝もある。こんな厚い鉄板をどうやってくっつけるのか？それだけでも大きな問題である。
まず、そんな厚さの鉄板を止めるリベットなど存在しない。しかも、甲板というのは、焼入れして硬くした鉄板であるため、溶接する事も出来ない。
熱を加えると、そこだけ弱くなってしまうからである。大和を造った職人達は、厚い鉄板を二枚つき合わせて、逆八の字型の溝を掘る。そこに八の字型の留め金を叩き込んで、固定していく。いわゆるホゾ繋ぎである。
しかも、文字通り水も漏らさぬ仕上がりでなければ、艦船が沈んでしまう。まさに船大工の職人芸である。
この職人芸という名の現場力があったからこそ、大和は図面から現実の世界に誕生する事が出来たと言っても過言ではない。
いくら図面上において優秀なスペックを持っていても、それを具現化する事が出来なければ、その図面は子供のお絵描きでしかない。日本の優秀な職人の力があったからこそ、当時世界最大を誇った、超ド級大型戦艦大和は誕生したのである。
最近海中で見つかった戦艦武蔵は、そんな職人技の結合体であることを、感じさせた。
