セントエルモの火
「セントエルモの火」なるものがあるのをご存じであろうか?
雷雲が近づいた時に、尖った物体の端から発する薄青い光の事なのだが、その昔地中海を行き来する船乗り達が、舟の帆桁の尖端に灯った火を見て、守護聖者の聖地エルモが現れたと信じた事に由来している。
(尖端放電現象)理論的には、単なる尖端放電現象でしかない。
しかし、船乗りという者はおかしな者で、少しでも現実的ではない出来事に遭遇すると、何か神がかった現象として見てしまう生き物なのである。
海は広く我々人類の知らない謎がたくさん詰まっている。だからこそ、どんな事が起こっても冷静に対処する力が求められる。船乗りとはそうあるべきである。
少なくとも海軍が存在し続ける限りは変わらない。もちろん、そういった冷静さの中にあっても、好奇心を失わない事は大切である。
海軍軍人だからと言って、己の好奇心にストッパーをかける必要はもちろんない。ちょっとしたことであっても、好奇心を失わない事は大切な事だ。
そして何よりも、戦場という非日常を体験する軍人にとっては、日常に戻ってくる為のトリガーなのである。
そのトリガーを必要以上にありがたがる必要はないが、トリガーがあるからこそ軍人は日常に戻って来られるのであろう。
そして、軍人が築いてきたものの中には、この「セントエルモの火」のような超常現象もある。
しかし、現代の高度な科学技術を持ってしても、解明することの出来ないものもある。海という我々がまだまだ知らないものがあるフィールドにあって、これからもそういった発見はあるだろう。
それが悪いという訳ではない。そういった現象の一つ一つに心を奪われて、本来なすすべき任務を疎かにしてはならないという事である。
全てを振り返るのは、その航海が無事に終わってからであろう。




