伊佐野勝男3等兵曹と土井太一郎大尉
大和配属になった伊佐野3等兵曹が、親友と再会したのはそれから2週間後の事であった。折しも直属の上官として、再会を果たす。
土井太一郎大尉は、副砲である15.5㎝砲を管理する砲術中堅士官であった。部下である伊佐野から、声をかけた。あくまでも公私混同しないように。
「土井大尉、お時間よろしいでしょうか?」
すると土井は笑顔で答えた。
「伊佐野お前も大和配属か!同級生が部下だとやりにくいが、よろしく頼む。近々大和も出撃する事になるだろうから、気合いを入れて事に当たってくれ。」
伊佐野は、敬礼をしてその場から去った。ここは帝国海軍である。たとえ旧知の仲であっても、下の階級の者が上の階級の者に、無礼を働くことはできない。ましてやこちらは一兵卒の叩き上げ下士官で、一方は海軍大学校出のエリート士官では、雲よりも遥かに高い存在だった。
いかんともし難い壁がそこに存在することは事実である。二人とも口にはしなかったが、本来ならば抱き合って久しぶりの再会を祝いたいたかったに違いない。
だが、今は有事の時期である。くだらぬ情に流される事は、死に直結する事にもなりかねない。伊佐野も土井もその事は、よく分かっていた。海軍生活はお互い長くはなかったが、それでも危険な目にあった事もないわけではない。
伊佐野には、ノンキャリのプライドが、土井にはキャリアエリートのプライドがあった。それは両者とも大切にすべきであろう。プライドも何もかも無くしてしまえば、それは単なる戦闘マシーンでしかない。
何よりも日本海軍の軍人として、誇りを持つことは士気にも直接関わるものである。こうして伊佐野は、親友である土井太一郎大尉と再会した。土井は、エリートとして直接部隊を指揮し、伊佐野はそれを支える下士官として戦争の災禍に巻き込まれていく。




