軍令承行令
日本海軍の人事序列には、「軍令承行令」というものがあった。
兵科将校を、主計、機関など他の兵種将校の上位に置き、また兵科将校でも序列がきちんと決められていた。
特別な人事は仮にあっても、大佐止まりで将官は、先任序列に従うというルールがある。つまり、これは人物よりも成績。つまりは現在の実力よりも過去の成績や軍歴がものをいう制度であった。
早く言えば、海軍兵学校の卒業成績順である。この軍令承行令の成立は、明治建軍以来の長州陸軍、薩摩海軍と言われたように、鹿児島県出身の者が海軍の中心派閥として、勢威をふるった事に起因していた。
明治時代の終わり頃までは、同郷意識による薩閥の人事の横暴がまかり通っていた。こうした情実をなくす為に、緻密な考課表システムと、海軍兵学校卒業時成績に基づくきちんとした序列制度が考案された。
この制度は平時の海軍にとっては、誠に有効だった。派閥の専横はなくなり、独特の海軍家族主義によって良き伝統を築く事になった。
しかし同時に、事務能力と上官のお覚えいかんによって出世が決まるという形式主義が、根を張る事になる。この軍令承行令は、現在の官僚に通ずるものがある。日本型エリートの近代的原点であったとも言える。
現在のその人間の持つ実力ではなく、過去の筆記試験の成績で、全てを決めるとともにそれが半永久的に続いてしまう。確かに平時の人事序列制度としては、一定の効力を発するモノかもしれない。
しかしながら、このやり方では緊急時の対応どころか、足の引っ張り合いをしてしまいかねない。それだけではなく、いくら有能であっても試験の成績で人事を決めてしまう以上、適材適所に人間を配置することもままならない。
日本海軍のように緊急時の対応がミソとなるような組織では、これはあまりにも効率的過ぎて、現場を見ていないシステマチニズムで適合したモノではないと言えた。
