鉄拳制裁
日本海軍には、鉄拳制裁という悪しき伝統が存在していた。陸軍の場合はビンタであるが、あまりやり過ぎると戦闘中に背後から、部下に狙撃される可能性があった為、制裁があっても適度なところでやめていたが、海軍は違う。
海兵は銃を持っていない為に、上官は気にくわない事があれば、鉄拳どころかバッタという海軍伝統の制裁に用いる、一メートル程の長さの木棒で、これまでかと殴り続ける。
しかも、この鉄拳制裁には、不文律のルールがあった。
まず、鉄拳制裁をする場合には、拳のみを用いる。そして拳の形は親指を掌の中に包み込んで、拳骨の内側を使用する。親指を掌の外に出した状態て叩いた場合、親指の先が相手の目先を突く可能性がある為である。
突然に殴るな!という鉄則もある。「足を開け。歯を食いしばれ。」とこれから殴る相手に対して体勢と心の準備をするだけの余裕を与えなければならない。
そうした上で殴る方は、相手の頬に狙いを定めて、拳の内側で正確な一撃を送る。一方、殴られる方にも要領が必要である。下手に避けたりすると、耳などに当たって怪我をしかねないので、瞬間的に全身に力を入れて、拳を顔で受け止める。すると、どういうわけかあまり痛みを感じずに、殴った方も自分の拳を痛めない。双方の阿吽の呼吸によって修正という日本海軍伝統の鉄拳制裁という、一種の暴力が上官と部下との間で成立するのである。
まるで、ボクシングのようなルールかとみまがうが、そもそもこういう引き締めのような事をやらないと、徴兵制のある軍隊は、一つにまとまれなかったのかもしれない。
上官から部下への暴力は、本来ならばあってはならない事であり、逆を返すならば暴力でしかまとまる事の出来ない軍隊では、勝ち進んで行けないとも言える。このような事が、当時は飯を食べるのと同じように当たり前に行われていた。
ちなみに海軍兵学校や、海軍士官を養成する海軍3学校では、制裁とは呼ばす修正と称していた。(鉄拳修正)




