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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔法少女すーぱーまりん 〜まったく!ショーナンの海は地獄だぜ!〜

作者: Taylor raw

久しぶりの投稿です。


季節外れですが夏の風情を懐かしんで書いてみました。


一応剣と魔法のファンタジーの世界です。


少しでも楽しんでいただければ幸いです。

『青いウェーブがわたしのレーゾンテートルなの♩真夏のアッイドル‼︎わたしはま・り・ん♫』


「せーーのっ!まーりーんっ‼︎」


どーもこんにちは!

こんばんはの方はこんばんは!

えっ⁉︎そこの一段高いステージで白い妖精みたいな可愛い服を着て歌ってる超可愛いお前は誰かって?


いっけな〜〜い!自己紹介まだでしたね!

私はスーパーアイドルまりん13さいです!

13に見えないって?

それはね、魔法で変身してるの。

詳しくは後でお話するね。

そこのステージの下で合いの手を入れてる100人くらいいる男の人はみんな私のぶ……ファンなんです。すごいでしょ!


連日暑いですね〜

え、寒くなってきた?

私の暮らしているここショーナンランドは常夏の国で1年中夏なんです。

そして私の家がやってる海の家のビーチには何も無いんですけどこの超可愛い私目当てで来てくれるお客さんが多いんですよ〜。

ライブチケット一枚1万イェンとか言ってたかな?

私子どもだからよくわかんないや。

じゃあ歌い終わったらお話進めるからあなたも少し私の歌を聴いていってね♡



私は更にダンスのテンションを上げ歌の締めに入る。

私の代表曲「ラブリーサマータイムまりんちゃん」(作詞作曲 コナツ)のサビはライブでも最も盛り上がるところなんです。


『びーなす!びーなす!わったしはま・り・ん♩あいたくて!あいたくて!あいにきてくれてありがとーー‼︎♫』


「まりんちゃーん‼︎さいこぉーーー‼︎」


「プラチナの髪がまぶしいぜぇぇぇぇー‼︎いや!まぶしすぎぃるぅーー‼︎」


ぶ……有難いファンの方たちは拳を握りしめて泣きながらオタダンスを踊っている人たちもいます。

き……本当に熱心なファンの方ってありがたいですね!


『びーちのしせんはひとりじめ!スーパーアイドルま・り・んだよ♬ふるえるこころはおっくせんまん♩おっくせんまんっ♬おっくせんまん♬』


「まーーりーーん‼︎まーーりーーん‼︎」


「うっぎゃああああーー‼︎まぁりぃんちゃぁぁぁあああーーー‼︎」


ふう……歌い終わった。

うわあ……感激のあまり失神してる人もいるよ……

どんび……心配ですね!


『じゃあね〜みんな!今日はありがとーー‼︎あんこーるとかうけつけないから!じゃっ‼︎あでぃおす‼︎』


「うわぁーー‼︎まりんちゃーーん‼︎」


「そんなぁーー‼︎まりぃんちゃぁぁぁぁぁーーーー‼︎」


「まりんちゃん‼︎まりんちゃん‼︎まりんちゃん‼︎まりんちゃん‼︎まりんちゃん‼︎」


私は手を振って歓喜とも悲鳴ともとれるまりんコールを背にステージを後にする。


「地獄かよ……」


ステージからの通路口でマネージャー(姉)からタオルとドリンクを受け取りながら私はため息をつく。







◇ ◆ ◇ ◆







「ダメじゃない。ファンにはもうちょっと愛想よくしなきゃ。アンコールくらいやってあげるのが常識よ?」


四輪駆動車を運転して私にお小言を言ってる黒髪短髪の長身の女性は私の姉コナツです。

21歳くらいだったかな?

私のマネージャー兼プロデューサーでもあります。

そしてとっても変わり者なの。

天才エンジニアでもありセ◯ールに憧れた姉は海兵隊マリーンにこないだまで2年ほど入隊してました。

とにかくいろいろなことをやりたがるのこの人。

私をアイドルにしたのもこの姉。

本当にろくなことをかんがえな……

家計の為に頑張る私って健気で素敵でしょ?

ね?


「だって暑いんだもん……これ以上炎天下にいたら倒れちゃうわ」


ぐびぐびと用意してくれたドリンクを飲みながら私は手元の仔カピバラを弄る。


「あんたにはまだまだポテンシャルがあるのよ。もっと頑張ってもらわなきゃ。そう!あんたなら王都のアイドルフェーケービーを超えられるわ!」


「知らないわよ……誰よそれ。私べつにアイドルなんかやりたくないしぃ」


私の姉は商売上手です。

っていうかえげつない。

「アイドルまりん」のライブチケットはウチの海の家限定販売でしかも1万イェン以上ウチの食べ物を注文したお客さんだけにしか売らないんです。つまりライブチケットの料金は占めて正味2万イェン以上。

エッグいでしょ。


「……もう!あんたは自分の価値をわかってない!もっとアイドルであることを自覚するべきよ!」


「はあ〜めんどくさいな〜……」


何度も繰り返してきた会話。

私は手元の仔カピバラに話し掛ける。


「そろそろ元に戻ろっと。ちょっと降りててねプンちゃん」


「あ、まだ話は終わってないのよ?もう〜〜……」


姉はため息をつくが私は構わず白い丸っこい仔カピバラに話しかけながら膝の上から降ろす。


「戻るプンか?わかったプン」


仔カピバラがシャベッタァァァァァァーー‼︎とか思いました?

驚かせてごめんね?

このぶっさいくな……造詣のよろしくない仔カピバラは妖精カピバラのプンちゃん。

この姿は仮の姿で1ヶ月位前にボロボロになって道端に倒れてた小さな男の子を拾ったらこんな姿になってウチで暮らすことになったんです。

お礼と称して「契約して魔法少女になるプン!」とか言い出した時は怪しさプンプンだったので木箱に閉じ込めながら慎重に処理しようとしたら「ごめん!ごめんプン!冗談プン!別に契約とか要らないプン!だって〜〜?こういうシチュで言ってみなきゃいつゆうプン?いまでしょ⁈」とか逆ギレ気味の泣きを入れてきたので洗濯機でぐるぐる洗った後で物干し竿に干して反省させてから許してあげたの。優しいでしょ?

しかし魔法少女勧誘にそのジョークは洒落にならんぜ?プンべえさんや。

とにかくこの子が私にくれた魔法石は私にすごい魔力を与えてくれたので最近この辺でよく人を襲っているというモンスター退治の役に立ててます。


「オーバーエイジ解除!」


私は魔法石に手を当て念じながら唱える。

こうして身体が淡い光に包まれ私はいつもの13歳の姿に戻ります。

私が魔法石を使ってアイドルや魔法少女やってることを知ってるのは私とプンちゃんの他には姉のコナツだけ。

いくら剣と魔法の世界だからと言って魔法少女に変身した私の魔力は強大で周りにこのことがバレたら今まで通りの生活が送れなくなるの。あなたも黙っててね♡


「はい、終わったよプンちゃん〜さあおいで」


私は若干ダボダボになった服を気にしながらプンちゃんを再び膝へと引き寄せる。

アイドル時の年齢は17にまで引き上げてるから元に戻ると服のサイズが合わなくなるのが面倒なんですよね。


「……やっぱり肉付きが違うプン……アイドル時のほうが……」


膝に乗ったプンちゃんがぼそりと呟いたのを聞き逃さなかった私はがしりとその小さい頭を掴む。

柔らかい。魔法を使わなくても簡単に割れそうだね♡


「ぶっ‼︎わっ悪かったプン!今のはなし!今のはなしプン!だからやめてやめてまりんちゃんやめてギャァァァァァァァーーーー‼︎」


でぇじぉぶだ。頭がつぶれても魔法の力で蘇れる。







◇ ◆ ◇ ◆






「たっだいま〜〜……お客さんいっぱいだね〜」


「はぁ〜……混んでるなあ。しゃあねえ、やるか」


私とお姉ちゃんは海の家に帰ってきました。

簡単に挨拶を済ませ奥へと急ぐ。


「おっせえぞマリン!コナツ!帰ったらさっさと手伝え!くっ!邪気眼が……!」


「あっきたきた。2人とも〜〜手伝ってね〜」


家に帰ってくると今日もうちの海の家サンズは盛況です。

だいたい30人くらい入るお店はビーチのお客さんでいっぱいいっぱいでした。

ん?出迎えてくれた2人は誰かって?

そうそう!紹介するね!


こっちの右目だけ赤目をした態度の大きい男の子はハル。

近所の家の子で私と同じ歳の幼馴染。今でもこうしてお店の手伝いに来てくれるの。

なんでオッドアイなのかって?

それはね、片目だけカラーコンタクトしてるからなの。かっこいいからですって。アホでしょ。

時々よくわからない厨二発作を起こしたりします。

厨二まっさかり只今黒歴史街道爆進中の13歳。


もう1人のゆるふわ系女子はお姉ちゃんのお友達コトネちゃん。

抜群のプロポーションで夏のビーチの女王として君臨してるの。

ほらどのお客さんの視線もコトネちゃんに釘付けでしょ?

言ってみればコトネちゃんはこのお店のお色気担当の看板娘なの。

ちなみにプリティ担当は私ね?


青いビキニに白いエプロンで給仕するスタイルはお客さんの目線を捉えて離しません。

困ったことに本人にはその自覚はないらしくたちの悪いお客さんからは私たち姉妹とハルで対処する必要があります。


「はいはーい、ごめんね〜すぐ用意するから」


私たちは急いで店の奥で準備に入る。

厨房から不機嫌そうな声でお父さんが声をかけてきた。


「……おう帰ったか手伝え」


このぶっきらぼうなのは私たち姉妹のお父さん。

この海の家のオーナー兼シェフなの。

ま、この無愛想さじゃ接客は無理よね。


「ごめんね〜ライブ長引いちゃったから」


「うそプン!ぼくの治療に時間とられたプン……イッギャアアアア‼︎」


もうプンちゃんたら。

カピバラの声は普通の人には聞こえないからいいけど。

この掻き入れ時でも私たちがお店を離れてたのは「スーパーアイドルまりん」のライブコンサートのお手伝いをしに行ったから、ということになってるの。

私たち姉妹の知り合いであるまりんとこの店がコラボして儲けさせてもらっている(ということになってます)以上仕方ないな、ということでまりんのライブの時はお父さんも別行動を許してくれてます。

お父さんも店員さんもわたしが「まりん」だってことは知らないんだ。内緒だよ⁉︎


さて、私もお姉ちゃんも急いでお店のエプロンをつけて注文聞きに入ります。


「コナツちゃん!こっちこっち!焼きそばと生中追加!」


「マリンちゃん!塩ラーとお好み焼きとフランクフルトちょうだい!」


忙しなく私たちは注文を取って配膳していきます。

ふう……全く忙しいなあ……



小一時間ほどしてお客さんがはけ始めた頃でした。


──ガッシャアアアン!


お皿が割れる音と怒号が聞こえてきました。


「おいぃぃぃぃ!俺たち相手にイキってんじゃねえぞ!コラァァァァァーー‼︎」


見るとガラの悪い男たちが如何にも弱そうな細身の男の人に絡んでいた。


「う、うるさい!エマさんとミルさんから離れろ!このカスども!」


震えながらも細い男の人はガラの悪い男たちに立ち向かう。

1、2、3、4、5……5人かあ……ちょっとこのお兄さんでは無謀かな……?


席の方を見ると困ったような顔をした女の人2人が落ち着かない様子だった。


「どうやら女の連れ2人がガラの悪いのに絡まれてるところを仲間の細い男が止めに入ったみたいプンね……」


バキッ!


激昂したスキンヘッドの男が細い男の人を殴る。


「ううっ……!」


「すっこんでろや!クソガキがよ!この女の子は俺たちが借りてくからよ!」


「このっ……!やめろっ!」


倒れた男の人を尻目に男たちは女の人たちに近づいていく。


……ふうやれやれだわ

余計な仕事を増やさないでほしいわ


どうやらこいつらはこの店がショーナン1危険な店だということを知らないモグリらしいです。

私たち・・・店員が臨戦態勢に入ったその時だった。


「やめとけ……悪党よ僕が来た以上はそんな悪事は見逃さないぞ」


キザな感じで店の入り口から闖入してきた男がいた。

ブロンドの長い髪にイケメンフェイスと整えられた装備は如何にも強者の貫禄を醸し出していた。


「うわあ……ベタベタな登場プンね……」


プンちゃんがちゅうちゅうとコップのカルピスを飲みながらため息をつく。


「なんやこの仔カピバラ」


ちなみにプンちゃんの言葉は私とお姉ちゃんにしかわからないの。気をつけてるけどたまーにこの子と喋ってるところを他の人に見られると変な子扱いされるのが最近の私の悩みです。

こないだなんかお父さんに心配されて病院に行くように言われちゃったよ……

あれ?わたしミツ◯ちゃん級のヒロイン⁈

あ、空きカン投げないで!



とりあえず私たちは闖入者と男たちの出方を伺うことにした。


「なんだぁ⁉︎てめぇ⁈さっさと失せろ!ころされてえのか⁉︎」


「ふん、威勢だけはいいな。雑魚の特権だよははは」


「て、てめぇ‼︎」


そのイケメンは爽やかな笑顔で男たちを煽る。


「店に迷惑をかけちゃダメだ。表出ようか。そのブサイクな顔をさらに刻んであげるよ」


「「「……な、なんだとコラァーー‼︎」」」


おっいいこと言うじゃんイケメン。

有無を言わさず店を退場したイケメンに続いて激昂した男たちも顔に青筋を立てながら追うように店を出る。

やれやれこれで喧嘩でお店が潰される

心配は無くなったね。


「フンッ……」


包丁を握っていたお父さんはガチャリと包丁入れにその刃物を納める。こわいよパパ。



「さて……と。準備は出来たかい?ボコボコにされる準備は」


「……てっめえ……ふざけやがって……」


「舐めてんじゃねえぞコラァ!」


「……そうだ!思い出したぞ!こいつ最近イキってる『伊達男』オクトだ!この辺の女をとっかえひっかえしては泣かしてるクズと聞きましたぜ!兄貴!」


「なぁに〜〜!ますます気に入らねえ‼︎」


男たちが刃物を取り出し構える。

イケメンがバカにしたようにフッと息を吐くと遅れて抜刀した。

それはやはり質の良さそうな剣でした。


「やれやれ。構えをみればわかるよ。君たちがクソザコだってね。わからないかい?力の差ってやつが。それにね、君たちがブサイクでもてないのは僕のせいじゃないんだよ?」


「てっめえええええ‼︎調子こきやがって!しねやあああ!」


挑発に乗った男たちが刃物を構えてイケメンに突っ込む。

あまりにイケメンが余裕の表情を崩さないので傍観を決め込んでいたんだけどさすがに危ないかなって思ったの。

でも


──シュイン


何か風切り音がしたかと思った瞬間、男たちの刃物がバラバラと宙を舞い浜辺の地面へと落ちちゃった。

男たちは慌てて地面の刃物を拾いに行くけどイケメンはその隙を見逃してくれなかったみたい。


「グアッ‼︎」


「うおっ!まてよグアッ‼︎」


「ボエエエ‼︎」


イケメンの攻撃は容赦なくて、男たちは次々と顔面を殴り飛ばされ、また足に斬撃を食らわされバタバタと倒れていった。

そして倒れた男たちはイケメンの宣言通り顔に大きな切り傷を入れられていく。

──つよいなあ


「うっうう……」


「ちくしょう……顔おぼえたからなあ!てめぇ‼︎おぼえてやがれ!」




「うっわあ……クソザコムーブプンねえ……」


「言ってて恥ずかしくないのかなあ……」


私とプンちゃんはポテチを齧りながら店の中から喧嘩を見物していました。


イケメンはやれやれ、と頭を振りながら男たちに近づいていく。


「まったくしょうがない低脳どもだねえ……ここで始末しといたほうがいいのかな?」


「ひ、ひいい‼︎」


イケメンは男の1人の頭を掴むと口に剣の先を突っ込む。

今にも刃を突き入れて殺しそうな感じだった。


「……どうしようもない奴らプンねえ……出番プンよ、マリン」


プンちゃんが私の方を向く。

えぇ……私が行けってこと?


「……えーーなんかやだぁ……あいつらダサダサすぎて助けるのもめんどいわ……それにあんなゴミ居なくなったほうが世のためじゃないのー?」


ポテチを齧りながら私はだるそうに答える。


「魔法少女がゴミとかいっちゃダメプン!ラジカルすぎるプンよ!」


と、外を見ると私たちが少し目を離した隙に状況が変わっていた。


「──ニイちゃんもうそこまでにしときな。殺しはやめとけ。この浜辺を血で穢すことはオレが許さん」


「お父さん⁈」


私のお父さんがいつの間にか男たちの争いに割って入りいつもの低い声で宥めるように収めようとしていた。

うんうん、このくらい肝が座ってないとここショーナンランドで海の家なんてやってらんないよねかっこいいわお父さん。


振り向いたイケメンとお父さんが向き合い少しの間沈黙の時が訪れました。


お店に残っていた僅かばかりのお客さんもその雰囲気に固唾を飲んでます。


やがてイケメンがニカッと笑うと剣を鞘に納めました。


「臆病なタチなもんでね。やりすぎちゃいましたよ。いやいやお恥ずかしい。おい君たち、君たちが悪いんだから復讐なんて考えないでくれたまえよ?僕と君らはこれっきりだ」


そう言って倒れている男たちに向き直る。

男たちからは小さく悲鳴が上がりました。

……ほんとダッサイなあ


「それはその通りだ。お前らも女や弱いもんをいじめてんじゃねえよ。出禁だ。いいな?次この浜辺でそのツラみたらタダじゃおかねえぞ」


お父さんも男たちに鋭い目線をくれる。

さらに男たちの身は縮みあがりまた小さな悲鳴があがりました。


「わ、わかった……わかったよう」


「ちっ……ずらかるぞお前ら!」


流石に2人の強者に睨まれた男たちはフラつきながら浜辺を後にしました。

浜辺に残ったのはお父さんとイケメンの2人。


「……あんた新顔だな。なんか食ってくかい?」


お父さんがイケメンに食事を勧めたけどイケメンは首を横に振った。


「いえせっかくですが先ほど食べたばかりでして。ではそろそろお暇します」


「そうか」


お父さんはたった一言そう言ってお店の中に戻ってきました。うん超クール。


そして入れ替わるように先ほど男たちに絡まれていた2人の女の人がイケメンの元に駆け寄っていきました。

それがにとっての悲劇の始まりだったのです……


「お待ちになってください!あの、ありがとうございました!私たち旅の途中でして、あの何かお礼を……」


追いすがるように女の人たちがイケメンに近づき顔を見た瞬間でした。

私からは女の人たちの表情から力が抜けたように見えたのです。


「へえ……君たち可愛いね。どこから来たの?ちょっとそこら辺散歩しようか?」


イケメンは女の人たちを見て嬉しそうに笑いながらデートに誘いました。


「は、はい……」


「よろこんで……」


女の人たちの目には力が無くなんだか自分の意志が宿っていないような感じでした。


「プンちゃん……!」


「うん、多分あれ・・プンね」


「まあ強いイケメンに惹かれるのは女の常なんだけどね」


「だからそういうこと言っちゃダメプン!」


おっと私はそんなこと無いですからね?

結構一途なんですよ?

ちらっと横に座ったハルを見る。


「……くっ!古傷が痛むぜ……古龍と戦った時の怪我さえなければオレが……くっ……」


「あんたのはせいぜいモンハンでしょ」


ハルが怪我をしていない右腕にぐるぐる巻きにした包帯を押さえながら何故だか悔しそうに呟く。

だいたいお父さんが店の揉め事を収めた後はこんな感じなの。

そんなハルを見て私は呆れたようにため息をついた。



喧嘩が終わった彼らの様子を見てお姉ちゃんの治療を受けていた細い男の人が駆けてきた。


「エマさん!ミルさん!これ以上の寄り道はダメだよ!早く行こう?」


男の人は必死に呼び掛けるけど女の人たちは一向に反応を見せず、ぼうっとイケメンの顔を見つめるばかりでした。


「エマさん!ミルさん!」


焦れた男の人が彼女たちの袖を引っ張ると拒絶するようにその手を振り払われました。


「……どうしたんだよ⁈急がないと!わかってるでしょ?」


うーむなんかワケありですねえ。

更に必死に呼び掛けるけど女の人たちはイケメンの腕を掴んでその背に隠れちゃいました。


「ははは!悪いね。事情は知らないけどしばらくこの子たちは借りてくよ。彼女たちも僕から離れたく無いみたいだしね」


イケメンは勝ち誇ったような笑みを浮かべ男の人を見下す。

縋るように男の人はエマさんとミルさんを見つめました。


「……ごめんなさい。ケイ。王都にはあなた1人で行って?」


「私たちこの人についていくわ。ごめんなさい」


3人はじっと見つめ合った。

女の子たちの拒絶の意思を悟るとそれから耐えかねたようにケイさんは走ってその場を離れました。


「はははははははは‼︎情けない奴だ!出会ったばかりの男に女を取られるなんてね!」


イケメンは高らかに笑ってました。

うるさいなあ……


「「ケイ……」」


女の人たちは光の無い瞳から涙を流していた。


「マリン……」


「はいはい、調査開始ね。お姉ちゃーーん、ちょっと出てくる」


「わかった。あいつ・・・そう・・なの?」


「多分ね。お店はお願い」









◇ ◆ ◇ ◆







「エマさん、ミルさん……!くそっ……!いったいどうしてこんなことに……」


僕の村は山奥の小さな寒村だ。

貧しくとも家族が居て友達が居て肩を寄せ合いながら慎ましい生活を送りながら僕らなりに生きてきたんだ。


それがいったいどうしてこんなことに……

どれもこれもあの男のせいだ……チクショウ……


「あのー大丈夫ですか?」


道端で座り込みながら項垂れる僕に女の子の呼び掛けがあった。

ふと声の方を向くと銀色の髪をリボンで結んだ女の子だった。見覚えがある。たしか先ほどの海の家の店員さんだ。


「……いえ、おかまいなく」


心配してくれるのはありがたいけど話してもわかってもらえる事情ではないと思ったのでやり過ごすことにした。

それにこんな女の子に話したところでどうなるものでもない。

その時はそう思っていた。


「えーと……失礼ですけどあなたここ数日、魔族とか魔獣に会いませんでしたか?私わかるんです」


驚いて顔を上げて女の子を見る。

気遣わしげな笑みを浮かべたその可愛い女の子はよく観察すると何か不思議な雰囲気を醸し出していた。


「たとえばー……よっと」


女の子が懐から手帳とペンを取り出しなにやらさらさらと描きだす。


「こういう、怪しいおっさんに会ったりとかしてないかな、って」


ぼさっとした白髪に角付きメガネに狷介な表情。

女の子が描いた似顔絵はまさに僕らを苦しめている張本人だった。


「……!こいつは!」


「やっぱり」


僕が反応を見せると女の子はやれやれといった感じでため息をつく。


「知ってるのか⁈こいつのことを?教えてくれ!こいつはいったい何者なんだ⁉︎なぜ僕らを苦しめる?」


「ちょっ……落ち着いて下さい。私もあなたの事情は知らないから情報を整理しましょうね」


思わず前のめりになって女の子の肩を掴んでいたので慌てて離れる。


「ご、ごめんなさい……僕はケイ……かなり遠くの……グレイ村からやってきました」


「ううん、仕方ないわ。大変だったわね。なんか店の中でもあなた達だけ観光って感じじゃなかったもの。私はマリン。海の家サンズの娘よ。先ほどはお買い上げありがとう」


「いいえ……」


よく見ると目鼻立ちの整った可愛い女の子だ。

田舎者の自分は女性に免疫がない。

かなり年下の女の子とはいえ内心緊張を催した。


「こいつはね、Dr.ワルー。天才科学者の癖にアホでドスケベでどうしようもないジジイよ」


「……アホでドスケベ」


結構口の悪い子だな……


「あなたの事情を聞かせてくれる?」


「……わかりました」


それから僕は女の子に村の事情を話し始めた。

10日ほど前、ふらっと訪れたこの男が村の古い民家に住み着いたかと思うとあっという間に従えていた魔物や魔獣に自分たちの小さな村が占拠されたこと。

僕たち3人だけが命からがら村を脱出して王都へ助けを求める旅を続けていること。


「エマさんとミルさんはあの男の強さに助けを求めるつもりなんだと思う……自分の身体と引き換えに……でもそんなのって……」


言ってて気づく。

こんな年端もいかない女の子にこんなこと話してもどうにかなるんだろうか……


でも目の前の女の子は不思議と何かをやってくれるような雰囲気を醸し出していた。

たまに何もない虚空に向かって呟いてるのは怖いけど。

まあ、そんなお年頃なんだろう、うん。


「んん、わかった。村の件は私がワルーのジジイをしばき倒せば終わりね。あとエマさんとミルさんだけどあれは『魅了』って呪文をかけられているだけよ。あの男に」


「え、なんだって……」


驚いて女の子を見返す。

嘘を言っているようには見えない。


「あの男からも魔族の匂いがしたわ。多分ワルーの手下ね。女の人だけ捉えにきたのかもしれないわね。なんにせよ魔族は見つけ次第滅殺と決まってるわ」


何やら物騒なことを言って女の子はよっ、と掛け声を出して座っていた石から立ち上がる。


「ただ、あなたももう少し鍛えなさい。いい人だってことはわかるけどあなたにもっと魅力があればもう少しあの人たちも魅了の魔力に抵抗できたはずよ。魅了が解けた後は仲直りしてね」


「……えっいったいなにを」


女の子が元来た道を歩き出す。


「海の家で待ってなさい。あの人たちを連れ帰ってきてあげるから」


僕は去りゆく女の子の背に向かって声を振り絞った。


「待って──待ってください!」









◇ ◆ ◇ ◆







沈みかけた夕陽が緋く街を染める。

ここショーナンでは多少浜から離れていても潮騒の音が聞こえてくる。


「よーし、魔力レーダーは東を指してるわ」


「了解、了解」


私たちは今ギリースーツを着たお姉ちゃんが運転する車に乗って魔族の男と連れ去られた2人を追ってます。私はナビ役。

お姉ちゃんの開発した魔力レーダーで相手の位置は把握できました。


「気をつけるプン。相手はそろそろ上級魔族を出してくるプン」


「へーき、へーき。今までワンパンだったでしょ?」


「そういう油断が1番危ないプン!」


もう、プンちゃんてば心配性なんだから。


「はいはい、わかってるって。だからこそ私たちの戦いかたは徹底してるでしょ?」


「……まあ相手が気の毒になるくらいプン」


プンちゃんがやれやれ、と頭を振る。

もう何よ、プンちゃんが巻き込んだ癖に。


「っと、目標発見!目視できるよ!お姉ちゃん!」


「おっ、追いついた?」


ちらほらと行き交う人の中に先ほど見た男と女の人の姿が見えました。

先ほど浜辺でゴロツキどもを占めたイケメン男の腕に女の人が2人しがみついている。

エマさんとミルさんだ。間違いない。


「このままでは肉体的にも物理的にも食われちまいますぜ?アネキ!さっそくやっちゃいますか?」


「下品すぎるプン!どんな魔法少女プン!」


おっとスイッチが入っちゃいましたね〜いっけなーい☆私ったら!


「よし!我がチームのモットーはサーチアンドデストロイ!まずは私がぶち込もう!」


「よし!よし!GO!GO!」


「ほんとお前らのノリ怖いプン!」


そうしてお姉ちゃんはアクセルを踏み込み男たちを追い越すと急ブレーキをかけて進路に割り込む。

3人が驚いたように立ち止まる。

さすがのあの男も呆気に取られているようでした。


「マリン!」


「はいよっ!」


「ぶわああああ!プン!」


そうして私は隙をついてプンちゃんを男に向けて投げつけました。

プンちゃんは弧を描きながら見事男に命中!やった!わたしえらい!


「ぐあっ!ううっ……!なぜこんなところにカピバラがぁ……!」


プンちゃんにぶつかった男はもがきながら光を発し変形していきました。

そして男は見る間に見上げるほどの大きなタコへと変貌を遂げたのです。


通行人たちは悲鳴をあげ逃げていき、エマさんとミルさんも驚いて尻餅をついています。


ちなみに魔族はなぜかカピバラが苦手らしく人型に化けていてもぶつけられると苦しみながら正体を現します。


「いつものことだけどお前ら乱暴すぎるプン!動物愛護の精神はないプン⁈」


いつの間にか戻ってきたプンちゃんが足元でジタバタと抗議してる。

もー……ケツの穴が小さいなあ……


「ごっめーーん!だってぇ?誤認で魔法少女が一般人を襲うとか洒落にならないしぃ?プンちゃんの使い道ってこれくらいしかないじゃない?」


「オニ!悪魔!地獄の使者!冷血非道プン!」


「はい、プンちゃんの晩ごはん野菜定食決定!」


「うそプン!まりんちゃん世界一かわいいプン!」


「うん知ってる」


カピバラって本来草食なんだけどこのカピバラは肉を好んで食べます。


そうこうしてるうちにお姉ちゃんが銃を構えタコに狙いを定めます。


「よっしゃ〜!往生せいやー‼︎」


──ガィィン!ガィィン!ガィィン!


お姉ちゃんの開発した小銃「Mk5(Majiでkillする5秒前)」の銃口が火を噴きます。

大概の魔物はこの攻撃で沈むの。便利だね文明の利器☆


銃撃が命中した部分からバスッバスッと心地よい音を立ててタコの頭には大きな穴が空きました。


「やったかな?」


「これで毎回終わりならニチアサを楽しみにしてる女の子たち泣くプンね……」


でもタコに空いた穴は見る間に塞がって足元のエマさんとミルさんをその触手のような脚で掴み上げました。


「くそっ……!お前たち何者だ!いきなり僕の正体を見破るとは只者ではないな……」


ちなみに私たちにはあらかじめ認識阻害の魔法をかけていて男には私たちの正体が認識できません。

(あれっ?さっきの店の店員じゃん?という記憶の擦り合わせもできません)


「ちっ仕方ないわね。選手交代よ、まりん!」


小銃を肩に担ぎお姉ちゃんは私に手を差し出す。

そしてハイタッチ。


「はーーいっ!じゃっいきまーーすっ!マジカルッ!ディメンション!モードまりん‼︎」


首からかけている魔石が光り出しやがて私の全身が青白い光に包まれる。

白銀の私の髪色が青緑色サファイアに輝く色に変わり魔力が迸る。

魔力の粒子によって魔装が組み立てられ頭にはティアラ、手には肘までかかる白い手袋、服は青と白を基調としたヒラヒラとした魔装服が装着されます。

足元には青いブーツと白いニーソックスが装着されました。


最後に私が空中に浮きながらバック転5回転して決めポーズで変身終了です!(ここは必要ないんですけどね♡)


「ビーチの守護天使!天界の使者!魔法少女すーぱーまりん君臨‼︎」


そして掌を敵に向けるまでがルーティーンです。(ねっ簡単でしょ⁈)

(ここまでの変身シーンは約1.2秒で完了します)


「私に出逢ったのが運の尽き!魔族はサーチアンドデストロイと決まってるわ!覚悟しなさいタコ野郎!」



タコが私の姿を見咎めると触手を伸ばし叫ぶ。(発声器官どこなんだろう?)


「すーぱーまりん!こんなところに現れたか!魔族に仇なす目障りな奴と聞いているぞ!ワルー様も貴様を殺したがっている!同胞の仇め!この僕、オクトパースが滅してやる!」


「えーー⁉︎だっさーい!もっと捻りが無かったの?その名前?」


そう、私たちはプンちゃんと出会ってからの1ヶ月多くの魔物や魔獣を滅してきました。

どいつもこいつも小さいものは窃盗から大きいものは殺人までとにかく悪事を働く奴らだったので残さず殲滅してきたの。

そろそろ魔族サイドにも私たちの存在は伝わったみたい。

だいたい出逢った魔族は滅してきたのになあ〜

やはり目撃した生き残りってのはいるものね。


タコはますます顔を赤くして8本の触手のうち2本を私に向かって勢いよく伸ばしてきました。

弾丸のような速度だったけど私はそれを余裕で跳んで躱し右手を前方にかざします。


「まりんストリームキャノン!」


私の右掌が淡く光り水流がマッハ1で撃ち放たれる。

こいつを喰らえば大抵の魔物はバラバラになります。決まったかな?


「ふんっ!蛸墨憤激!」


でもタコはその尖った口からタコ墨を勢いよく吐き出して相殺します。

私の攻撃を防ぐとはなかなか強力な魔族のようです。


その隙に私はタコの死角に回り込み加速をつけて飛びかかった。


「まりんシャイニングウィザード!」


加速と魔力が乗った私の飛び膝蹴りは大概の魔物の骨という骨を砕いてきました。これで終わりかな?



──ブゥイイィィィン!


「うわっ!と!」


でも私の膝から伝わる衝撃はゴムのような手ごたえしかなく逆に私は弾き返され危うく地面に衝突しそうになりますが受け身をとりノーダメージで着地します。


「バカめ!僕の身体に骨はない!そんな攻撃は通じないぞ!」


タコはまた触手を4本私に向けて殴ってきた。

態勢を立て直した私は跳んでその攻撃をかわしタコの攻撃で道に凹みが出来ました。


着地した私はタコと向き合う。


「そう……じゃあ奥の手を使うしかないわね。見てちびんなよ!タコ野郎!」


「……おのれ!どこまでも生意気な魔法少女め!」



──ズガガガガガガン‼︎



その時お姉ちゃんの銃撃が再びタコを襲い、触手の何本かを吹き飛ばしました。


「くそっ‼︎本当に頭にくる奴らだ!」


タコはお姉ちゃんの方を振り向く。


「ほらっ!さっさとやりな!まりん!」


私は瞳を潤ませながらお姉ちゃんに感謝する。


「ありがとう‼︎お姉ちゃん!わたしお姉ちゃんのことぜったいわすれないから‼︎」


「勝手に死亡フラグたてんな!……うおっと‼︎はやくしてよまりん!」


お姉ちゃんは持ち前の身体能力で器用にタコの触手を次々と躱します。

タコの触手はあっという間に回復していました。


「まりん!急ぐプン!いくら『爆熱コナツ』でもソロで上級魔族相手はきついプン!」


「……んー、もうちょいお姉ちゃんのタコ踊りみてたいかなーって?てへぺろ☆」


「ふっざけんな‼︎愚妹!……うおっ!」


お姉ちゃんは鬼の形相で怒鳴りながらもタコの攻撃を次々とかわす。


何回も見たことあるけどやっぱり海兵隊仕込みの軍隊格闘術マーシャルアーツはすごいな〜。


「うんうん。見惚れるような動きですわ」


「ちょっ!はやくするプン!ほんっと、性格最悪プンな!まりんは史上最悪の魔法少女プン‼︎」


プンちゃんが慌てて私を急かす。


……えーっ……躱せてんじゃん……


「わかった、わかったって。そろそろ終わらせよっか」


やれやれ、とひと息つくと私は魔石を握りしめ呪文を唱える。


「聖霊たちよ……魔を憎み幽世の果てまで戦いつづける軍神よ……我に貴公の力の一部を貸し与え顕現したまえ!出でよ!『聖棍バルディリス』‼︎」


魔石を中心に嵐のように魔力の奔流が吹き荒れ青白く輝き始める。

魔力が魔石に集まりやがて変形を始めた。


「⁈な、なんだ!なんて魔力だ!いったい何をしようとしている⁉︎」


魔力の異常な凝縮量は大気を震わせ金属が砕けるような音が鳴り響く。

異変に気付いたタコがお姉ちゃんへの攻撃を中止し私の方を振り向いた。


「なんだ⁉︎あれはなにをしてやがるんだ‼︎……くそっ!まぶしい!えーい!まどろっこしい!なんか知らんが術式が終わる前に仕留めてやる!くらえっ!」


タコが女の人2人を握った触手以外の腕全てで眩いまでの魔力光を放つ私の方に向けて攻撃を仕掛けてきた。

弾丸のようなパンチが私に向かって迫ってきました。



──バキーンッ‼︎ドグシャッ‼︎



タコの触手が潰れたように虚空でバラバラになる。


光が晴れ魔力の奔流が止まった後には長物を手にした私が立っていました。

武器の精製は終わったのです。


「……⁈また僕の触手が!くそっ!なんだそれは!おまえっ‼︎」


タコが更に顔を真っ赤にして叫びました。


「うーん、ここまで頑張ったのはあなたが初めてかな?これはなんか伝説の武器の破片とか聖鋼とかその他エトセトラエトセトラを詰め込んで出来上がったチート武器らしいからもう降参したほうがいいよ?」


「なんだそのゆるふわっとした詳細は!なめやがって!」


えー……だってよくわかんないんだもん。私にも


私は手にした伝説の釘バット「バルディリス」を目の前に掲げ見つめます。

長さ101㎝、重さ約2tのこの武器は魔法少女である私にしか到底扱える代物じゃありません。

金属バットに更に釘を打ち込んであるという凶々しい武器。本当に魔法少女らしくない意匠だわ。

それにしてもこれを見てると小さい頃、近所のガキ大将どもをしばき倒したことを思い出すなあ……


少しの間、釘バットを見ながらうっとりとしているとタコが触手を再生させて再び攻撃態勢に入りました。

あら、今度の触手は先が槍のような形をしているわ。


「ええい!僕も大海獣クラーケンの遺伝子を組み込まれた改造人間だ!ならばポセイドンの槍と渡り合ったというクラーケンの技をくらえっ‼︎」


そうして一斉に槍の触手を私に突き出してきました。


大蛸刺殺拳クラーケンスティング!」


「愚妹!避けなさい‼︎」


お姉ちゃんが私に大声で助言する。


「大丈夫、多分よゆう」


そう言って私はバットを手に敢えて槍に向かって突っ込みます。


「はははははは!バカめ!死ね魔法少女すーぱーまりん‼︎僕もワルー様にいい報告ができるよ!」


──あーあフラグ立てちゃった。


私は向かってくる槍を見つめ分析しながらニヤリと笑う。

弾丸くらいのスピードだけど魔法少女となった私にとってこんなのはまったくもってスローに見えるのです。


魔鋼で出来た素材、致死毒が仕込んである、破壊されても素早く再生する性質……


魔法少女アイで敵の武器を一瞬で分析した情報を統合して私は攻撃態勢に入ります。


バットを振りかぶって……

私は秒間1000発の打撃スイングを槍に向かって食らわせます。


──バキィ!バギィ‼︎ベキベキィ‼︎


私の打撃が再生スピードを上回る速度で触手を攻撃する。

バットが気持ちいい音を立てて触手を次々と粉砕していきます。

しかし相変わらず手に馴染むわぁ……


そうして私は飛び交いながら再生を繰り返す即死級の槍6本を全て破壊しました。



タコを見ると今度は真っ青になっていました。


「……うがっ‼︎なにいっ!僕の最後の武器が……動きも全然視認できなかったぞ⁈どうなってやがるこの化け物め!」


「失礼ね!こんな美少女に向かって!」


本当失礼なヤツだわ。タコの化け物のくせに。

お刺身にしてやろうかな?


まあ、驚くのも無理はないか。

このバルディリスを手にした私は魔法少女の力に加えて更に神に準じる力を手にするのです。

こんなタコごときでは相手にならないかな。


私はバットを持った腕をグルグルと回す。


「さて、と。そろそろドタマかち割ろっか?遺言とかある?」


「どんな魔法少女プン……」


タコはガチガチと震え出しました。

そして気付いたように手元の女の人2人を見つめました。

あーあ……もう


「う、動くな!この女たちの命はないぞ!」


人質をとってタコはジリジリと後退を始めました。


「ちょっと!その子達は関係ないでしょ!離しなさい!」


「うるさい!こんなヤツとまともに戦ってられるかっ!僕はどんな手を使ってでも逃げ切ってみせるっ‼︎」


お姉ちゃんが拳を振り上げ怒りますがこんなヤツに何を言ってもムダでしょうね。やれやれ。


「……ねえ、あなた知ってる?女の子を人質にした悪者って大抵悲惨な末路を辿るのよ?あなたごときがその運命から逃れられると思う?」


「く、来るな!」


青いタコが触手に掴まれ苦しそうな女の人たちを見せ私を威嚇します。

再生の限界を超えたのか6本の触手は失ったままです。


「一歩も動いてないって。大丈夫。とりあえず今ここであなたを始末するのは止めたから。安心して?」


私はにっこりと笑いかける。

タコは少し安心したように後退スピードを下げました。


「本当に?本当だな⁈嘘ついたら魔法少女失格だぞ!」


「本当だって。ほら行きなさい」


タコがジリジリと後退をします。

女の人たちが小さく悲鳴をあげる。


「んー……と。あともう1メートル右かなあ?タコ、もうちょい右に動いてくれる?」


「……?はあ……?なにを言って……ぐべぇ‼︎」


突然タコの残っていた触手が吹っ飛びます。

密かに魔力で飛ばしていたバルディリスの釘がタコの触手を攻撃したのです。


そしてタコが握っていた女の人が触手と共に地面に叩きつけられようとした時でした。


「エマさん、ミルさん!あぶないっ!」


女の人たちの連れ、細っこい男の人、ケイさんが落下する2人をスライディングして受け止めたのです。


「「ケイ!」」


エマさんとミルさんは落下の衝撃で伸びきったケイさんを抱き抱えます。


「うんうん、弱くても頑張るヒーローに駆け寄るヒロイン。これこそラブコメよね」


「ふう……薄氷を踏むような脚本だったけどね」


お姉ちゃんが汗を拭う。


余りにも必死で2人の心配をするもんだから気絶させて車のトランクに詰め込んできてあげたの。

今お姉ちゃんに起こされたばかり見たいだけど本当に根性あるわねこの人。


美味しいところをあげて3人の仲を取り持ってあげる、というのも今回の私たちの作戦のうちに入っていました。

うーん、私たちってほんとぐう聖!


「……さてと、逃げられると思った?」


「ひ!ひいいい!」


今度は人間に擬態して逃げようとしたタコの襟をがしりと捕まえ私はにっこりと優しく微笑みます。


そのタコを見ると昼間のイケメンの容姿ではなくて冴えない男の姿でした。

化け物の魔力でイケメンに擬態して女を漁ってたみたいね。


「……ふーん、本当はこんな顔してたんだ。なんというか普通だね」


「ひいっ!たっ頼む!助けてくれ!僕はワルーに改造されただけなんだ!僕も犠牲者だ!助けてくれるって言ったじゃないか⁈」


男は必死で私に哀願する。

その力を悪用してたのは誰だっけ?

答えなんか始めから決まってた。


「だから言ってるじゃない。ここでは・・・・殺さないって。じゃあそろそろ寝よっか?」


「ひ、ひいいイィィィィィィ!」


私はタコに向けてバットを振りかぶります。

──せーのっ……


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァ‼︎」


「ぶべっ!ぐべっ!はぐっ!ブグッ‼︎ぼうすずじで!クボァ‼︎」



──ドグシャッァァァァ‼︎


秒間2000発の打撃を受けて心地よい音と共にタコ男は肉塊ミンチへと成り果てたのでした。








◇ ◆ ◇ ◆







『波しぶきと血が舞うビーチのエーンジェール♬』


「フゥ!フゥ!エンジェー!」


「まーりーんーー‼︎」


『うみとだいちに生まれて♩私たちはおともだちだよ♬』


「まりんちゃーーん!」


「こっち!こっちむいて!まりんちゃーん!」


今日も私は「アイドルまりん」としてのお仕事中のライブです。


詰めかけたファンたちが私の歌に合いの手を入れ今日もこのビーチは一層暑苦しくなっています。

ふう、まだまだ夏は終わりそうにないなあ……

常夏の国だけど。



「あの、ありがとうございました。倒れてたところを助けていただいた上に路銀や食事まで……」


「あー気にしないで?ワルー関係の面倒ごとは私たちが処理することになってるから」


「……?はいそれにしてもありがとうございました」


ステージの裏ではお姉ちゃんと例の被害者3人とがお話してます。


昨日タコをしばき上げてから、道端に疲れ果てて倒れた3人を介抱して一晩うちに泊めてあげました。


認識阻害のために私たちがタコと戦っていた本人とは気づいておらず、たまたま通りかかった私たちに介抱されて運ばれたと説明してあります。


因みに肉塊になったタコは冷凍保存してあります。

再生力を鑑みるにお姉ちゃんの技術なら回復は可能とのこと。

このライブが済んだらタコとはいろいろお話する予定です。


「とりあえず何日か泊まってきなよ。あんたらの村の問題はそのうち片付くと思うから」


「え……そうですか?そうだといいですけど」


女の人たちは怪訝そうに曖昧な返事をしました。


『はげしいサンシャイン♬いつまでつづくの?そろそろ終わってほしいわ〜♩』


「まりんまりんまりんまりんまりんまりん!」


「俺だぁ!まりぃん!サインくれ!」


暑苦しいなあ……でも一回200万とかいうライブはなかなか止められません。

何に使うのかって?溜め込んでるわけじゃないですよ?対ワルー用の貴重な資金源になるのです。

本当に……マジで……

お姉ちゃんに黙ってソシャゲで課金とかしてないよ?



さてと、タコも退治したし3人の仲直りもできたみたいだしライブも忙しいので今日はこの辺でお話は終わりますね!


じゃあね!バイバイ!またね☆

マリン

海の家サンズの娘。13歳。

肩まで伸びた白銀の髪に紺のリボンを付けている。

元来は白い肌だが夏の太陽でほんのり灼けている。

幼い頃はショーナンの海のガキ大将で暴君として君臨していた。

生来の荒々しい性格である彼女にここまでついてこられたのは幼馴染のハルだけなのでその点については『少しだけ』感謝している。

ひと月前にプンを拾ってからは海の家の手伝い、アイドル活動、魔法少女と三足の草鞋をこなすことになる。

アイドル活動中は猫をかぶっている。


コナツ

海の家サンズの娘。21歳。

マリンの実の姉。

数年前、セ◯ールに憧れて海兵隊に入隊。

その卓越した戦闘技術は所属部隊でも『爆熱コナツ』と怖れられる。

その一方で兵器開発のエンジニアとしての顔も持つ。

最近実家に帰ってきてハセダ大学に通っているJD

今回、まりんのアイドル活動でキレッキレッの作詞センスも発揮した。


ハル

海の家サンズのご近所さん。13歳。

マリンの幼馴染。

現在厨二病を患っている。


プン

妖精の国の元王子。

ひと月前、全裸で道端に倒れていたところをマリンに拾われる。

普段は仔カピバラの姿で生活している。

いつかコーベビーフを食べたいと思っている。


お父さん

海の家サンズのオーナー兼シェフ。

黙して語らぬ謎の多い男。


コトネ

コナツと同じ大学の友達。21歳。

栗毛の髪を腰まで伸ばす美人さん。

海の家サンズでアルバイトをしている。その時給は破格の5000イェン。

ビキニにエプロン姿で給仕する姿は海の家サンズに通う男たちを悩殺している。

巨乳JD。


オクトパース

元々は凡庸な男。

その邪悪な心根を見込んだDr.ワルーの手によって上級魔族へと改造される。

ここ数ヶ月、力を悪用して女漁りをしたりワルーに女を捧げたりしていた。



釘バット『バルディリス』

神槌ミョルニルや神剣レーヴァテインの欠片やゴッドライトやアルケライトなどの希少金属で精製された伝説の釘バット。

長さ101㎝ 重さ約2t

重量がすごいことになっている。

魔法少女すーぱーまりんにしか扱えない超常武器。

まりん的には手へのフィット感が心地良いらしい。


特殊小銃『Mk5』

コナツの開発した対魔族用の特殊兵器。

神銀や聖鋼で調合された特殊な弾丸を撃ち出すことが出来る。

口径7.2mm

銃身長530mm

重量4800g

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