テイマー、連携
「私達、このままじゃ駄目だと思います」
「急にどうした?」
いつものように冒険者として金を稼ごうとギルドに赴いた矢先にメイフルがそんなことを言い出した。
「これまで私達はロウちゃん達に頼り過ぎていると思うんです」
「いや、俺、テイマーだし。魔物を使役して戦わせる職業だしな」
自分の職業に沿った戦い方をしているはずだが?
「そうですけど、いざという時は自分の力で戦えるようにはなった方がいいと思います」
………………………確かに一理ある。
今のままでもレベルとステイタスは上がるだろう。だが、”経験”は違う。
経験は積み重ねて上げるもので、レベルやステイタスのように簡単には獲得できない。
この世界で生きていく以上は何かしらの”力”と”強さ”は必要だ。
強さを得る為にもロウ達に任せた戦い方だけじゃなく自分自身も戦える強さも必要になってくる。
少なくともこれからも冒険を続けるのなら、だけど。
「………………………………それにフォーティさんとパーティーメンバーになってから私、魔導の能力が少しも上がってませんし」
「まぁ、そうだな」
俺もお前が魔法を使っている姿なんて見てないし、見る前にロウ達が倒しちまうからな。
「わかった。じゃ、今日はロウ達に頼らずに俺達で魔物を討伐でいいか? ついでにロウ達のように連携も取れるようになっておいた方がいいな」
「はい!」
「だとしたら受ける依頼は………………これだな」
ロスファング。猪狩りだ。
ロスファング。日本と同じ猪の姿をした魔物。雑食で食欲旺盛の為に畑を食い散らかすせいで困り果てた農家の人達は定期的に冒険者ギルドに依頼を出す。
ロスファングで最も脅威なのはその突進力。直撃すれば最悪死に至ることだってある。
逆にその突進力にさえ注意すれば簡単だ。刃物は通りやすいし、炎の魔法にも弱いと聞く。
そして、ロスファングの肉は美味らしくギルドに渡せば金になる。
新人向けのいい依頼だ。
「ん?」
依頼を出した農家まで向かっている道中。俺はステイタスを見てみると―――
名前:フォーティ・ラーブル。
種族:人間。
職業:テイマー。
Lv.18
体力:59
攻撃力:41
防御力:39
敏捷性:48
魔力:47
《魔法》
治癒魔法3/10 火魔法3/10 付与魔法2/10 闇魔法4/10
《能力》
苦痛耐性8/10 物理耐性7/10 鑑定2/10 調教3/10 鞭術2/10 剣術5/10 槍術2/10 索敵4/10 暗視2/10 気配遮断3/10 異常耐性1/10
魔法と能力が増えていた。
………………………おい、相棒。これはお前の力なのか?
『そうだぜ。主様のレベルが上がったおかげで俺の能力が少しだけ解放された』
こんなにも一気に魔法と能力を獲得したことに心当たりのある俺はすぐにフラジェウィップに問いつめたが、本人はあっさりと答えた。
これってどういうことだ?
『前にも言ったじゃねえか。俺は〈支配〉の神器で文字通りに支配の力を持つ』
そうだな、そんなこと言っていたな。
『俺の数ある能力の内一つが解放されたんだ。それは〈支配特権〉。俺の力で支配された者は魔法と能力を支配者に強制的に捧げる。簡単に言えば貢物だな』
おいおい、なんつーチート性能なんだよ。お前は。
つまりあれか? この増えた魔法と能力は前に支配した女達から奪ったのか?
『そういうこった。あの女達は今は魔法も能力もない。支配者である主様に税として支払ったのさ。強制的にな』
国民は国に税を支払うのは義務付けられているように女共は俺に魔法と能力を支払ったってことか。くくく、つーことは今のあの女共は何の力も持たないただの女になり下がったのか。
『悪い顔してるぜ、主様よぉ』
おっと悪い。ん? それだとどうしてロウ達の能力はないんだ?
『いや主様よ。ラフェルウルフ達から能力を奪ったらただの狼になっちまうぜ?』
あ、そうか。俺が使えるようになったらロウ達は幻影が使えなくなるのか。
『そうそう。まぁ、本来なら支払うかどうかの判断は主様にあるが、どうせ主様のことだからあの女共の魔法と能力は全部ステイタスに加えておいたぞ』
なかなか気が利くじゃねえか。それに支払わせる対象も選べるというのはありがたい。
『欠点を言うならレベルやステイタスまでは奪えねえ。あくまで魔法と能力限定だということを忘れるなよ。ついでに返すことも可能だが、その代わり二度と奪うことはできねえ』
それでも十分過ぎる。
いいざまじゃねえか。他の奴を骨の髄まで搾取して生きる女が逆に搾取されるなんて。
ああ、今のあの女達が絶望している顔が見てみたい。
『そろそろ主様に金貨15枚を支払うからその時にでも見ればよくねぇ?』
そうだな。その瞬間を楽しみに待っているとしよう。
「フォーティさん。そろそろ依頼主の家が見えてきますよ」
「ああ、わかった」
ともあれ今は冒険だ。しっかりと金を稼いでまずは自分の家を買おう。
その為にも仕事を頑張らねえと。
「あ、フォーティさん! あれ!」
依頼主の家に向かう途中で畑にある作物を食べている猪を見つけた。
「早速か。俺が惹き付けるから魔法で攻撃しろ」
「はい!」
俺は相棒を持って猪の魔物――ロスファングの前に立つ。すると、ロスファングは俺を睨み付けて鼻息を荒くし、地面を蹴る。
ロスファングの脅威である突進。直撃すれば無事ではすまない。
そう、直撃すればの話だ。わざわざ当たってやる必要性はない。俺は横に跳んで避ける。
俺の横を通るロスファングは一度止まって再び俺に狙いを定めて突進してくるもひらりと俺は華麗に躱す。
このまま避け続ければ回避能力でも獲得できるかな?
「【理の力を読み明かせ。火の力を我が手に顕現し、その力を持って彼の者を撃ち貫け】」
少し離れたところで魔法の詠唱をしているメイフル。
「詠唱が終わりました!」
「よし、撃て!」
「はい! 【ファイアボール】!」
メイフルが持つ短杖から火の玉が出て、その火の玉はロスファングに直撃する。
「プギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
火の魔法が直撃してロスファングの全身へと燃え移り、堪えきれなくなったロスファングは悲鳴を上げる。
一分も経たないうちにロスファングは地面に倒れる。
とりあえず討伐成功でいいだろう。
「まぁ、初めての連携だし、こんなもんだろう」
「そうですね」
「あれは………………流石に売るのは無理だな。ロウ達の餌にするか。食べていいぞ」
「バウ!!」
俺の合図でロウ達は一斉にこんがり焼けたロスファングを貪り始める。
魔物処理はロウ達に任せよう。
「それじゃ改めて依頼主に会って他にロスファングがいないか探すか」
「はい」
この後も俺達は連携の訓練をしつつ能力を上げに励み、猪を狩り続ける。
「そういえばメイフル。お前、魔法の詠唱をしていたよな? あれって普通なのか?」
「はい。普通は詠唱してから魔法を発動します」
当然のように答えるメイフルに俺は首を傾げた。
俺は治癒魔法を無詠唱で発動していたことに疑問を抱かなかったが、どうやら詠唱は唱えるのが普通らしい。
「一応、無詠唱という技術はありますが、それだと威力は落ちてしまいます。ですから威力を求めるなら詠唱は絶対必要ですね」
なるほど、つまり俺は無詠唱で治癒魔法を使っていたのか。
まぁ、なんて詠唱すればいいのか知らねえから無詠唱で使うしかないけど、金が出来たら魔法書を買って魔法の勉強もしておくか。
「お、またもお出ましだ」
新しく得た索敵能力のおかげでいち早く魔物の接近に気づけた俺達は畑目当ての猪を討伐する。
今日は猪鍋にするか………………………。