テイマー、依頼
宿で目を覚まして宿の食堂で朝食を取ってすぐに冒険者ギルドに向かう。
今日からは冒険者として日々の生活に必要な金を稼がないといけないからだ。
『なんだ? 俺はてっきり朝から女を支配して回ると思ってたぜ? 普通に冒険かよ』
相棒であるフラジェウィップが俺の脳裏に直接語りかけてくる。
念話と呼ばれる話さなくても脳で直接語り合えるらしい。
『冒険者ならともかくその辺の女ならレベルなんてたかが知れてんだろ? そいつらに貢がせる手もあるぜ?』
するか。俺はそこまで鬼畜で外道な真似はしない。
それにそんなことして見ろ。脅迫やら洗脳されているって言われたら俺が疑われるだろうが。
この街を拠点にするつもりなんだ、怪しまれる行動は避けるのは当然だろう。
『保険第一かよ………………昨夜のあの凶悪な顔をした主様とは思えない発言だな』
うるせぇよ。一言余計だ。
確かに俺は女は嫌いだ。だが、顔も名前も知らない女を自分勝手な理由で支配下にするほど腐っちゃいない。
そんなことをしたらあのクソ家族と一緒じゃねえか。
それに…………………どうせ支配下に置くなら他人を見下すクソ女がいい。
自分が偉い、自分が正しいと思い込んで世界は自分を中心に回っていると思い込んでいるあのクソッタレの家族共のような女を支配する。
そういう女に恥辱と屈辱を与えて心を粉々にする方が俺の気も晴れる。要は支配下にする女も相手を選ぶ。
『なるほどな、そうとう根が深いことで』
当たり前だ。あいつらが俺にしてきた仕打ちは絶対に忘れない。
だから標的はクソ家族のような女共だけにするつもりだ。
『へいへい』
軽薄に返事をするフラジェウィップに俺はついに冒険者ギルドにやってきた。
RPGのような仕事場と酒場を交ぜたような場所で朝から冒険者も仕事をしようと集まっている。
打ち合わせをするパーティーや朝から酒を飲む冒険者もいるなかで俺は彼女が座っているテーブルに腰を下ろす。
「お待たせ」
「いいえ、私も今来たところですから」
パーティーとして組むことにした魔導士のメイフルは笑顔でそう対応するも手元に置かれているカップの中に入っている紅茶が冷めているのが見てわかる。
きっと朝早くから待っていたんだろう。遠足が楽しみ過ぎて予定時間より早く来た小学生を見ている気分だ。
「それじゃ早速掲示板に張られている依頼を見てみようか」
「はい」
冒険者ギルドの掲示板にはゲーム通り、クエストが張られている。
その内容も色々だ。薬草採取、魔物討伐、近所の猫探し、下水道の掃除など色々とあって俺は昨日冒険者になったばかりのFランク冒険者、新人の為に選べる仕事も限られている。
さっさと階級を上げて仕事を収入を上げたいものだ。
「あの、このメディシナ草10束の採取はどうでしょうか?」
「報酬は銀貨3枚か………………………ならこっちのゴブリン退治はどうだ? 銀貨8枚だ」
「え、い、いきなり討伐系の依頼はちょっと危ないのでは……………?」
「昨日オークを倒したの誰だよ」
「あ」
うちには俺達よりレベルが高いロウがいる。ゴブリンぐらい余裕………………だよな?
「ちなみにゴブリンの平均的なレベルは?」
「2~5ですね。ただゴブリンには亜種、変異種などもいてその場合だとその魔物によってレベルが違いますが、まず出会わないので通状個体より大きいモブゴブリンには気を付けた方がいいですね」
ゴブリンも色々いるんだな。
ならゴブリンキング、ゴブリンロード、ゴブリンジェネラルとかもいるかもな。
「じゃこれにするか」
「はい。依頼は受付の方に持って行けば受理してくれますよ」
ゴブリン退治に依頼を受けようと依頼書を持って受付まで持って行く。
「ねぇ、貴方達。少しいいかしら?」
その時、三人の女冒険者に声をかけられた。
「はい、なんですか?」
「その依頼、私達も手伝ってあげようか?」
「いいんですか? でも……………」
「ああ気にしないで。報酬はいらないから。ただのお節介よ。新人の子達を見ているとつい、ね。それに新人で帰ってこなくなった人も私は知っているから…………………」
「………………………そう、なのですか。それでしたら」
「いえ、気持ちだけ貰っておきます。それでは」
了承しようとするメイフルの腕を掴んで受付で依頼を受理してさっさとギルドを出ていくと、彼女が異議を唱えた。
「ちょ、フィーティさん!? せっかくのご厚意を」
「お前さ、人を見る目を養った方がいいぞ? あいつら親切なフリして俺達の装備でも盗む気だ」
「え?」
驚く彼女に俺はむしろどうしてあんなにも露骨に装備を狙っていますような目に気付かない方がおかしい。
「あいつらの視線はお前を見てない。こっちを見ているふりして装備しか見てなかっただろ? それに会話に感情移入しやすいようにそれっぽい話も加えていただろ? 第一報酬がいらないってどう考えても報酬の代わりにお前達の装備を売ってやる魂胆が見え見えだろうが。どうして気付かない?」
「………………………………そんな、あんなにも優しそうな人達なのに」
「恐らくあいつらは新人を標的にした冒険者だろうな。親切なフリをして近づき、装備を奪って後は魔物に食わせて隠滅させる。装備も売って金にすれば証拠も残らない。ついでに新人は冒険者でも一番死亡率が高いらしいから死んでも疑う奴はいない」
本当に女はクソだな、こういう陰湿なことを考えるのは異世界だろうと変わらねえか。
「フォーティさんはどうして気付いたのですか…………………?」
「さあな」
クソ女に一度人生を終わらされたからとは言わない。
それよりも今はロウのところに行かないといけないな、きっと寂しがっている。
俺達は街を出て、ロウがいる場所に向かうと前からこちらに向かって走ってくる魔物の大群が見えた。
「バウ!」
「ロウ!?」
「ロウちゃん!?」
その大群の先頭で走っているのはロウとその後ろにはロウと同じ狼の魔物であるラフェルウルフの大群だ。
「バウウ!!」
「おおっ!」
そのまま俺の胸に飛び込んでくるロウは俺を押し倒して顔を舐めてくる。
まったく甘えん坊め………………。
というよりもロウさんよ、君の後ろで軍人のように隊列を組んで待機している狼達はいったいどういうことなんだ…………………?
お前、一匹狼じゃなかったっけ?
『主様よ、ステイタスを見たらわかるぜ』
ステイタス?
俺はフラジェウィップの言われた通りにステイタスを開いてロウの部分を見てみると。
Lv.26。
能力:幻影5/10 統率1/10
ロウの能力欄に新しい能力が追加されていた。
『恐らくこの狼、群れのボスを倒して新しいボスになったんだろうな。それで新しい能力が目覚めたと思うぜ?』
よく見たらロウの身体は傷や汚れがある。戦ったのは間違いなさそうだ。
俺がいないところで無茶したのか………………………。
俺は治癒魔法でロウの傷を癒すと、ステイタスに新しい文字が追加された。
ラフェルウルフの使役に成功しました。
その文字が次々と出て来て俺が使役できる魔物が一気に増えた。
どゆこと?
『多分、主様をボスと認識しちまったからだろうな。狼の魔物はボスに忠実だからそのボスを従えさせている主様を真のボスと認めちまったんだろうぜ』
説明してくれる相棒。しかもこの群れの平均が20を超えている狼ばっかり。
おいおい、冒険する前にちょっとした軍隊ができちまったぞ。
「グル?」
「よしよし、お前は本当にいい子だよ」
きっと俺の為に頑張ってくれたのだろう。後でご褒美をあげるからな。
俺は約20頭はいるラフェルウルフのボスになってゴブリン退治に向かう。