ヒモって最高じゃね?
登場人物の名前が覚えられない事件発生中。
「...おお、都会だ」
野次馬の恐怖から逃げた僕は、表通りで買い物をしていた。主に、食料。お腹すいた。
都会の商売人はとても優しい。
露店で何かしら買うと、その2~3倍の“おまけ”をくれるのだ。
さっきも...
「...おじさん。フランクフルト、一本ちょうだい」
「お、可愛いお嬢ちゃんだね!おまけでもう三本あげちゃうよっ!」
よく性別を間違えられるため、「お嬢ちゃん」発言はスルー。
ガッハッハッ、と快活に笑いながらフランクフルトを二本差し出すおじさん。
あれ、三本じゃなかったのかな?とは思うものの、おまけなんだしまあいいか。と、フランクフルトを受け取ろうとしたところ、耳元でおじさんが僕に囁いた。
「おじさんのぶっといフランクフルト食べさせてあげるから、路地裏まで着いてきなよ」
はて、何故路地裏なのか。
そして顔が近いし、目が血走っていて怖い。
「...ん。着いてく」
一瞬だけ怯みはしたものの、貰えるものは貰うの精神で着いていこうとしたところ───
「衛兵さーん!白昼堂々いたいけな少女と行為に及ぼうとしてる変態紳士の方がいまーす!!」
後ろに並んでいた赤髪が特徴的な男性が吠えた。
「──チッ、ばれたか!!」
おじさんが自分の顔をベリベリと剥がす。
すると、下から若い男の顔が。しかもイケメンである。
あっ、逃げた。
「やはり『怪盗百面相』ッ!!ま、まて!」
「フッ、『赤髪探偵』か...俺のパルクールに付いて来られるかな?」
そう言いうが早いか。近くにあった壁を蹴ると屋根に乗り、素早い動きでこの場から遠ざかる。
おー、速い速い。
「くっ、待てぇぇぇぇ!!」
赤髪の男はその場で大きく飛ぶ。地面が抉れ、砂ぼこりが空を舞う。
非常に迷惑である。
辛うじて赤髪の男が屋根に着地するのを視認。そのまま何処かへ行ってしまった。
「...なんだろ。アレ」
といったことがあったのだ。やはり、都会はよく分からない。流行ってるのかなぁ...
「おっと!」
「んっ!?」
少々回想をしていたら通行人とぶつかってしまった。そしてそのまま遠ざかっていく。
...ほう、ぶつかってきたくせに、謝りもしないのか。
........よろしい、戦争だ。今夜は血の雨が降りそうだな。
僕が物騒なことを考え始めた瞬間だった。
そこに─────天使が現れたのは。
「あ、あの...大丈夫ですか...?」
僕に声を掛けたのは、この辺では珍しい黒髪黒目の少女。
肩まで延びた艶やかなストレートの髪が風に揺れ、ローズの香りが鼻孔をくすぐる。
伏せ目がちな瞳からはしっかりとした知性が見受けられ、心配そうな表情で僕に手を伸ばしてくれる。
身長は僕と同じくらい。控えめな胸も更によい。
ドクンドクンと僕の心臓が早鐘のように打つ。
まさかこの気持ち...恋?
僕の初恋がこんなことろとは...人生分からないものである。
そう思った矢先のことだった。
「おーい、言葉ー。どーこだー」
気の抜けた声と共に、一人の青年が人垣の間からひょい、と顔を出す。
彼もまた黒髪黒目だ。兄弟...にしては似てないしな...どんな関係なのだろうか。
「お、見ーっけ」
「く、黒崎君!ごめんね、探した?」
「おう、探したとも。三分くらい」
「三分って...ふふ、この世界に来ても貴方はブレないのね。私は貴方のそんなところが...」
「...ん?何か言ったか?」
「何でもないよ。ふふふ」
突如として繰り広げられた桃色の空間に、僕はただただ圧倒されていた。そして瞬時に心が冷めていくのを感じる。
青年と喋っているときの言葉という少女の顔は、恋する乙女のソレであった。
[諦めよう、無理だ]
僕の心の中で『怠惰』が呟く。
[まさか、忘れたとは言わせないよ。君は頑張ってはいけないんだ。苦しんではいけないんだ]
あぁ、分かってるって。僕は学ぶ子だ。そんなこと言われなくたって、しっかり分かっているつもりさ。
[君は常に『怠惰』でなくてはならない。なんせ、それが過去の君の選択であり、君の背負うべき【罪】なのだから]
でもね...僕、思っちゃったんだ。考えちゃったんだよ。
美少女のヒモって最高じゃね?
って。
[...たしかに]
だろ?だからさ...
「...少しだけ、協力しろよ。頑固野郎...!!」
必死の努力により、彼女の名前と現在の職業に至るまでの殆どを調べ挙げた。その過程で副産物もあったが...まぁ、それは置いておこう。
『言葉 葵』。彼女は異世界からの転移者であり、年齢は15。現在はこの王国の学園に通っているらしい。
これは...通うしかなくない?学園。
ついにヒロイン(?)が登場しましたよ!
人が...人が増えるよぉ...覚えてられないよぉ...




