『色欲』との邂逅
一人称にしようか三人称にしようか、迷った末に結局三人称。
ベルフェが目覚めメンバーの元へ飛び立ち程なくして。
とある町外れにある小さな小屋に住む二人の女性が何かを話していた。
「あっ」
「突然どうしたのかしら?」
「どうしたも何も...感じない?懐かしい魔力の波動」
「...確かに、アイツとリンクしてる感覚はあるわね」
「どうする?正直、一刻も早く来て欲しいんだけど」
「取り敢えず、魔王様に連絡を入れておきましょうか。...まって、あの娘今何処に居るの?」
「...そういえば、最近見ないよね」
「全く...はぁ、チカラが奪われてなかったら、どれ程楽だったことか」
「嘆いてたって仕方ないよ、過ぎちゃったことは。うーん...待つか」
「えぇ、待ちましょうか」
「今度は、何年掛かるかなぁ」
最後にそうぼやいた少女は窓の外に目をやる。 そこには広く青い空がどこまでも広がっており、それが答えなのかもしれない、と思い直した。
「早く来てよ、ベルフェ。待ちくたびれちゃったよ...」
その小さな呟きも大きな空に吸い込まれ、同居人以外の誰の耳にも届くことはなかった。
「くしゅん!...誰。僕の噂をしてるの」
今日は春の陽気がポカポカと暖かく、俗に言う洗濯日和だ。
「くしゅん!くしゅん!くしゅん!くしゅん!...そんなに噂してるの?」
彼はただの花粉症だった。
「...そうだ、今回は人間の都市にでも住もうかな。あ、今代の魔王に挨拶もしないと」
これから起こるであろう愉快な日々に思いを馳せ、【七大罪】がいるであろう町に降りる。
「...この辺に『色欲』がいる...ハズ」
降りたのはヴァルハラ王国の都市の路地裏。ここからは彼の勘と『色欲』の気配を便りに進む。
ここは非常に発展しており、表通りには馬車やら人力車やらがゴチャゴチャしている。
また、この都市には評判のお菓子があり、それを買うためだけに来る強者もいるそうだ。
ベルフェは表通りを避け、薄暗い路地裏をひたすら歩く。
一歩進む度に『色欲』の気配が濃くなるのが分かる。その反面、一歩進む度に彼は不安になってくる。なぜなら──
「...おかしい。ここ、王宮だよね?」
気配が最も濃い場所が王宮だったのだから。 取り敢えず門の前まで歩いてみる。
「何の用かな、お嬢さん?」
門番をしている好青年が、槍を持ちながら朗らかな表情で話し掛けてくる。
「...ねぇ、ここに『色欲』居る?」
「........どこから、その話を聞いた?答えろ」
さっきまでの笑顔は何処にいったのか、素早い動きでベルフェの首に槍を突きつける。
しかし、ベルフェはその言葉を聞いて満足したのか微笑を浮かべながら前進し始める。
それに焦った門番さん。首に突き付けた槍をガン無視されたら誰だってびびります。
「答えろと言ったハズだ───って、ちょっと待って!?なんで止まらないの!?」
俺だって好き好んで女の子刺したくないし!とぼやいてるが、それも全力で無視されて門番さんは瞼に涙を浮かべている。
「はぁ、これも仕事なんだ。我慢してくれや」
門番さんが両手をベルフェの脇の下に入れ、持ち上げようとした時。
「...そろそろウザい」
彼は振り向き様に門番さんと目を合わせる。
「...『怠惰の誘い』」
「はっ?...ちょっ、体が...!!」
門番さんの体がみるみる石化していく。数秒もしない内に物言わぬ石像が完成した。
「...うん、そこで寝ててね」
石像には目もくれず、再びズンズンと進む。しかし――――その歩みは甘ったるい誰何の声に遮られた。
「あら~。私の城でぇ、おいたをする子はだぁれ?」
王宮の入り口に大量のボディーガードを引き連れた金髪の女が佇んでいる。
良く見るとその女は絶世の美女と謂っても過言でない程スタイルも良く、整った顔立ちをしていた。
「...久し振り、『色欲』。元気にしてた?」
『色欲』と呼ばれた女は形のいい眉をひそめ、自分の豊満な胸を強調するかのように腕を組む。
「誰かしらぁ?少なくともぉ、キミみたいな可愛い女の子に知り合いはぁ........いた。待って。貴方、もしかしてベルフェじゃないでしょうね?」
余りの驚きに素の口調に戻る美女。
「...もしかしなくても、僕はベルフェ。アス、もしかして...僕の顔、忘れた?」
悪戯っぽく微笑むベルフェ。それに反比例するかのように、美女...『アス』の綺麗な顔が無様にひきつる。
そして、何かを思い出したように顔を真っ赤にして怒鳴り始める。
「くっ、この違和感はアンタだったのね!ちょうどいいわ!ベルフェ、私のチカラを返しなさい!!」
その言葉を聞いたベルフェは、嬉しそうに唇を歪ませて答える。
「...だが断る」
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