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ピン芸人石岡祐太と腹顔族の復活  作者: 瀬賀 王詞
6/13

6 石岡を探せ

 裕太が売れないころからマネージャーを務めていた藤堂は、群がるマスコミを押しのけながら、裕太をリムジンに案内した。

「裕太さん、名誉毀損でフジテレビを訴えますか。」とある記者が質問した。

「そんなことはせえへん。みなさんも、あんまりもう騒がんといて。」

 リムジンの中で、裕太はお腹をもう一度見てみた。

「あれ? ららかちゃん。」

 消えたららかの顔は、再び裕太のお腹に張り付いていた。

「なんで消えたん? びっくりしたわあ。首もとからお腹見たら、ららかちゃん、おらへんがな。」

「ふうう。」とららかは、ため息をついた。「よかった。ピンチを脱したんですね。」

「危機一髪でしたね。」と藤堂が運転席から声をかけた。

「なんで? ららかちゃん。自分で消えたん?」

「いいえ。目を開けたら、マンションの本体に戻ってました。久しぶりに、あの位置から世の中を見ました。」

「なんでやろ。富樫陰陽師がなんかしてくれたんかな。それしか考えられんわ。それと、ひとつ気になることがあんのや。」

「わたし、マンションでテレビ、見てました。誠也さんのことですね。それで、すぐ電話してみたんです。」

「出た? あいつ。」

 ららかは首を横に振った。

「さっき、田原はん、並々ならぬ覚悟で書いたファックスって、いうてはった。だから、馬鹿馬鹿しいことやけど取り上げた、みたいな。まさか、あいつ・・・。」

「裕太さん、テレビ、見てください。」と藤堂が大きな声で遮った。


【俳優の、和田誠也さんが、飛び降り自殺を図りました。】


「なんでやねん!」と裕太は右足を振り上げた。

 ららかは、声を絞り出すように言った。

「・・・そんな。うそ・・・。」

「すごいことになりましたね。」藤堂は落ち着いた声で言った。「どうします? 事務所に戻りますか。マンションに帰りますか?」

「マンションの方が気が休まるわ。藤堂はん、後で社長迎えに行って。」

「亡くなっては、いませんね。誠也さん・・・。」とららかが涙声で言う。

 テレビの映像では、搬送先の病院はわからなかった。

「ららかちゃん。つらいだろうけど、こっちも余裕ないで。しかし、なんであいつ、こんなことしたんや。テレビで俺らの秘密を暴露しようなんて、いくらなんぼでも、極端やで。ららかちゃん、あいつ、そんなやつやったん?」

「いいえ。いつも優しくて、さわやかな人でした・・・。」

「まあ、人間ちゅうのは、わからんとこ、あるさかいな。」

 新見社長が裕太のマンションに来たのは、もう夜中を過ぎていた。

「えらいことになりましたな。」

 開口一番、社長は言った。

「さっきのニュースで、命に別状はない、言うてたで。ちょっと、ホッとしたところや。」

「それもですが、もうひとつ大変なことになってますよ。」

「なんのことや?」

「パソコン、見てください。」

 裕太はパソコンを起動し、ブログを見てみる。番組を見た視聴者から書き込みがある。

「炎上すんのも時間の問題やな。身の潔白を証明したのに、なんや、この書き込み。『ららかちゃんを腹から解放しろ!』やて。」

「ヤフーを見てください。変な広告が出てるんですよ。」


【裕太のお腹にららかだって。みんな、石岡を探せ!】

【裕太の腹話術はららかがしゃべってる】


「なんや、これ?これも、あいつが? 誠也が?」

「もう少しで消えるはずです。この文字が出始めたのは十時頃で、わたしがヤフーに調べてもらいました。広告料を受け取っているからすぐには消せないが、誹謗中傷にあたるなら明け方までには消すそうです。広告の依頼をしたのは代理店で、会社名までは教えてくれなかった。」

「夜中いうても、けっこうな市民がこれ見てるで・・・。」

「和田誠也が飛び降り自殺をしたことで、同情が一気に和田誠也に集まる。裕太さんが誠也を自殺に追い込んだと、そう思い込む人もいるかもしれませんね。」

「そんなアホなあ。わしがなにした、いうねん。」

「それが群衆心理の怖さだね。和田誠也に、腹顔人の姿を見せたのはまずかったかもしれんなあ。」

「こんなやつや、思わんかったもん。ららかちゃんとお別れして、ほなさよなら、それですむはずやった。」

「ごめんなさい・・・。きちんとお別れしたいなんて、思わなければ・・・。」

「ほら、社長。ららかちゃん、泣かしてからに。」

「そういうつもりで、言ったんじゃありませんよ。すみません、お嬢様。」

 窓からマンションの下を見ると、マスコミの姿が見えた。

「社長、ドンペリでも飲みまひょか。最後の晩餐になりそうでっせ。」

「【みんな、石岡を探せ】なんて、煽るような表現が気になるなあ。これにのっかるバカな連中がいるから。」

「そんな、大丈夫やろ。いざとなったら北海道に帰るがな。」

「せっかく、富と名声を手に入れたのに。まだまだ稼げたのになあ。」

 新見社長はソファに崩れ落ちた。

 裕太は三つのグラスにシャンパンを注いだ。裕太のケータイが鳴る。富樫陰陽師からだった。裕太は五分ほど話し、ケータイを切った。

「やっぱり、富樫陰陽師のおかげやった。テレビを見て、御祈祷をしたそうや。」

「富樫さんの御祈祷で、わたしの顔が消えたということですか?」

 ららかが言った。

「かなり苦しい荒行で、今まで気絶しとったそうや。」

「そう頻繁にはできないことなんですね。」

「新見社長、北海道に行けば安心やな。社長は、行ったこと、あんの?」

「まだなんですよ。だから、今度の復活祭が楽しみ。大丈夫ですよ、腹顔族の里まで行けば。仲間がいるんですから。」

「それを聞いて安心や。なあ、ららかちゃん。」

「裕太さん、だんだん、大きくなっていきますね。」

「そうか? おおきに。ららかちゃんがお腹におんのや。ぜったいに守らな。安心してや。ららかちゃん。」

「その、ちゃん付けはやめまてください、裕太さん。」

「ほな、ららかって、呼び捨てでええの?」

 ららかは、顔を赤らめてうなずいた。

「社長、ほら、飲まんかい。俺、キャバクラ行けんから、ドンペリなら仰山買うてあるでえ。ららかあ、悪いけど、冷蔵庫からキャビアとクラッカー、取ってきてくれへん?」

 ららかの本体が動き出し、キッチンへ向かった。三人は、酔うことで現実を忘れ、せめて夢の中で窮地を脱することにした。

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