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第8話 真一郎と竜の事情

部屋は二十畳ほどの広さだった。

特に装飾は無く、奥に石でできた応接セットのようなテーブルと椅子が置いてある。


そこに向かい合う形で座るシンとドラゴンの母娘。



「さて、どこから話したものでしょうか・・・。そうですね、まず私たちの紹介から始めさせて頂きます」


まずリディルは自分たちについて語った。


自分たちは真竜種と言われる種族であること。

真竜種は始祖の神々により作られた、原初の竜種の血を引いていること。


リディルは昔からこのあたり一帯の管理をしていること。

その関係で、古代魔導帝国が研究所を造る時に、魔導師セオドア・ログナルと人形使いマリーネ・シュタイフと盟約を交わし、この研究所に繋がる洞窟を守っていること。


近年はクーネに監視を任せていたが、クーネが暴走してあんなことをしでかしてしまったこと。

リディルは監督不行き届きで申し訳ないと再度シンに謝罪してきた。



自分たちについての紹介が一通り終わると、次にリディルはシンに関係ありそうな情報を語りだした。


世界について、神について、ゴーレムボディについて。

雑多な事柄について質問を挟みつつリディルの説明を聞いた後、シンは幾つか気になったことを聞いてみる。



「この研究所は1800年以上前から存在しているんだろ?その前から魔導帝国の二人と知り合いだったのか?なんか時間のスケールが凄いな」


「ふふふ、私はこれでも二千年以上生きてるんですよ?」


かすかに頬を染めつつリディルが言うと、呆れた様にクーネが突っ込みを入れる。


「何言ってるのよ、お母様。お母様は原初の竜種の一人なんだから、余裕で百万年以上は・・・ボグゥハッ!」


綺麗にリディルの右の裏拳がクーネの顔面にヒットする。

その一撃で意識を刈り取られたクーネは、テーブルに突っ伏して沈黙する。


「あら、お行儀の悪い子ね。こんなところで寝てはいけませんよ?」


リディルが優し気な笑顔でクーネを見つめるが、目が笑っていなかった。


-----キジも鳴かずば撃たれまいに・・・。


クーネの惨状を目にしつつ、この世界でもやはり女性に年齢の話はタブーだな、とシンは強く心に刻む。


-----それにしても、原初の竜種か。相当な大物なんだな、リディルは。こんなに気安く接していて大丈夫なのか?


ついつい本来の小心者な部分が出てくるシン。


目の前に座っている美しい女性は、神に等しい年月を生きている竜なのだ。

高々25年程度しか生きていない身としては、気後れしてしまう。

そんなシンの考えを雰囲気から読み取ったのか、リディルがシンに声を掛けてくる。


「シン様。私は始祖の神々によって生み出された竜種。ですから、神々によって選ばれた神人カムトであるシン様にご奉仕するのは当然の責務です。ご安心ください」


「神人ねぇ・・・」


シンは苦々し気に呟いた。



神人カムト

リディルの説明では、それは種族名ではなく、神々が異世界から呼び出す英雄たちの総称らしい。


この世界には、昔から異世界からの転生者や転移者が来ていて、その多くが神々から特殊能力、いわゆる神の恩恵ギフトを与えられ、英雄的な活躍をしたとのことだ。

故に人々は、彼らを神からこの世界へと遣わされた人、“神人”と呼ぶ、ということらしかった。



「でもな。俺は神には会ってないし、特別な力も与えられてはいないんだぞ?そもそもこの世界に呼んだのはタレイア、あの研究所の管理者だし」


シンがあの光にタレイアという名前を付けたことは既にリディルに話している。

そのことを話した時のリディルは、まるで娘に恋人が出来たかのような喜びようだった。

研究所の管理者としてタレイアが生み出された時からの知り合いらしいから、娘のように思っていたのかもしれない。


「タレイア・・・、ふふ、良い名前ですね。私は真竜種であることもあり、あの子に名前を付けることが出来ませんでしたが、あの子の願いが叶って嬉しいです」


リディルによると、竜の言葉はそれ自体に魔力を有しているため、下手に名付けをすると相手の存在を魔力で縛りかねないとのことだった。

シンには良くわからない話であったが。


「まあ、タレイアの話は一旦置いといてだ。やはり神に会ってない俺は神人じゃないんじゃないか?」


「それでも、シン様がこの世界に来る因果を作り出したのは神々です。シン様はそれに導かれてここに来たのでしょう」


「・・・そういった運命論やら決定論的な考え方は嫌いなんだけどな」


物事がすべて神のシナリオ通りなら、人なんてただの駒になってしまう。

人の努力を無視している様で、シンにとっては好きになれない考え方だった。


「ふふふ、そんなシン様だからこそ、神々はシン様をお選びになったのでしょう」


リディルがシンを見つめて優しく微笑む。その笑みには吸い込まれそうな魅力があった。


-----きっとリディルが教祖になって宗教を起こしたら、信者の数はうなぎ登りだろうな。この笑顔の破壊力は半端ない。


柔和な態度でありつつも、自分の主張は変えないリディルを見ながらシンは考える。

元の世界と違って、神々が実在している世界だ。神というものに対する強固な信仰も、実際に神の干渉が存在する世界故なのだろう。


-----それに、原初の竜種として直接生み出されたリディルにとっては、神は自分の親みたいなもんだしな。


自分が神人かどうかの議論は一旦棚上げすることにしたシン。


「まあ、それはいい。で、リディルもこのゴーレムの身体、神機ジンキというらしいが、これが作られて且つ封印されていた目的については知らないんだな?」


「はい。私はあくまでセオドアとマリーネとの盟約に従って研究所とそのゴーレムボディを守っていたに過ぎません。異世界から魂を呼び寄せることはタレイアから聞いておりましたが、具体的にその後どうするつもりだったのかは・・・。二人がいない今となっては、タレイアが言う通りブリギット様にお伺いするしかないでしょう」


「やはり行かなきゃならないか、ユーレリア山」


ユーレリア山の場所の情報も詳細な地図と共にタレイアから受け取っていた。

このリディルが管理しているグラウコム山脈から見ると、ミリシア大陸上のちょうど反対側に位置していた。


-----このミリシア大陸も地球上のすべての陸地を合わせたよりも広いみたいだし。・・・長い旅になりそうだな。


これからの旅路を思って、天井を見上げるシン。

そんな仕草を見て、リディルが声を掛けてくる。


「旅に不安がおありですか?」


「うーん。まあ、そうだな、恥ずかしいが正直不安だらけだ。俺のことも少し話したけど、俺は前世で一人旅の経験なんて全くなかったからな。それが異世界でいきなりとなると・・・。この頑丈な身体が唯一の救いだよ」


そんな自嘲気味な愚痴をこぼすシンに対して、リディルが思いもよらない提案をしてくる。


「それでは、是非このクーネをお連れください」


「なんですってー!」


リディルの突然の申し出に、シンではなく机に突っ伏していたクーネが突然立ち上がる。

途中から意識が戻っていたのに、面倒なので気絶した振りを続けていたのだろう。


しかし、そんな焦った表情をするクーネを横目で見つつ、シンは冷たく言い放った。


「クーネは旅で役に立つのか?面倒しか起こさない奴は要らないぞ?それなら一人旅の方が楽だ」


旅への同行は嫌でも、馬鹿にされるのは我慢ならないのだろう。

クーネが即座に反論してくる。


「なっ!あんたね、たった20年程度の人生経験しかないひよっこが言ってくれるじゃない!あたしは千年以上生きてる経験豊富なドラゴンなのよ!」


「千年生きてても、その大半を洞窟に引きこもっていたんだろ。何が人生経験だよ」


リディルの説明では、クーネはほとんど外の世界での経験がない様だった。

リディルが自立を促す為、何度となくクーネを洞窟から追い出したのだが、しばらくするとひょっこり帰ってきたらしい。


その話を聞いて、先程からのリディルのクーネに対する厳しい態度に納得した真一郎だった。


-----つまり実家パラサイトで引きこもりの超ベテランってことじゃないか。そんなプロフェッショナルニートをどうやって旅に役立てろって言うんだよ。


前世の自分も引きこもりがちではあったが、それは主に病気のせいだ。

ちゃんと学校を卒業して就職もしていたし、クーネと一緒とは思いたくないシンだった。


「これ幸いと俺に押し付ける気じゃないだろうな、リディル?」


シンがリディルに疑惑の目を向けながら問いかける。

リディルはそれに黙って笑顔で応えたが、シンの分析眼は微妙に頬が引きつっているのを見逃さなかった。


「お、押し付けるって・・・あたしはゴーレムと結婚する気なんてないわよ!」


顔を真っ赤にしてクーネが怒る。


-----・・・そういう意味の押し付けるじゃねえよ。お前の教育をって意味だよ。


空気を読まず一人暴走するクーネを見つめつつ、シンとリディルは揃って静かに嘆息した。


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