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第3話 真一郎とゴッドファーザー

「ミスリルに対魔導コーティングが施されているため、黒く輝いております」


真一郎の叫びに光が冷静に答える。


「いや、材質とかを聞いてるんじゃなくてだな・・・。これってさ、ロボットてことか?」


真一郎が見る限り、自分の身体は金属製だ。手足の滑らかな動きを見ても、身体の上に金属製の何かを被せていると考えるのは難しい。


「否定します。ゴーレムです」


「ゴ、ゴーレムですか・・・」


呆れて言葉が続かない真一郎。結局は呼び方が機械寄りから魔法寄りになっただけだ。

身体が無機物製であることに変わりはない。



-----ゴーレムの身体かよ・・・。


冷静に考えてみれば、先程から身体に違和感はあった。


まず視覚が少し変だ。

眼球が動いている気がしない。それなのに視界に入っているものは全て認識出来ている。

確か、人間の目は基本的に焦点を合わせたものしかはっきりと認識できないはずなのだが。

視覚からの情報の多さに少し気持ち悪さすら感じてくる。


-----複眼だったら可能なんだっけか?昆虫の視界みたいなものか?

真一郎はぼんやり考える。


一方で、聴覚も正常とは言えない。

さっきまで目の前の光が話していた時、まるで未知の言語の同時通訳を聞いているようなイメージだった。

一人の人物が一人で同時に二つの言語を話す。

まるで主音声と副音声の切り替えが壊れた昔のテレビのように。


-----考えてみれば、俺が今話しているのも日本語じゃないな・・・。


口から出てくるのは、意味は分かるが真一郎にとって一度も使ったことのない言葉。

ゴーレムの身体の機能なのだろうか。

今の真一郎は自分にとって未知の言語を聞いて理解し、更に話すことすら出来ている。

先程までは日本語との同時通訳状態だったが、今は徐々に未知の言語のみになってきているのがわかった。


-----段々と日本語が減ってきているのは、俺の魂がこの身体に馴染み始めているということなのか?

真一郎は推測した。


光から目を逸らしながら静かに嘆息する。

死んだと思ったら、いつのまにか異世界にいて、しかも身体はゴーレム。

そろそろ真一郎の忍耐も悲鳴を上げ始めていた。


-----これが夢だったらどんなにいいか。


実は死んだのではなくて、家族に看取られた後、奇跡的に持ち直して病院のベッドの上で寝ているとか。

生きてはいるが、植物状態で寝たきりになっているとか。


-----そしてそんな俺が見ている夢が青い狸型ロボットのお話だったという悲しいオチ。・・・って、この状況には関係ないな。そもそも狸じゃなくて猫だし。


この状況から逃げ出すための妄想がいくつも浮かんでは消えるが、真一郎は結局どれも否定した。

残念なことに、自分の中の判断機能がはっきりと言っていた。


―これは現実だ、と。



-----しかし、よりにもよって異世界転生とはね。


主人公が異世界に転生。真一郎はその類の小説も好きで良く読んでいた。

死んで別世界へ行って赤ん坊からやり直す。

転生したけど記憶はあって前世の知識を生かしたり、神様から与えられた特殊な才能を磨いたりして立身出世する、そんなストーリーが人気だったはずだ。


-----いや、この状況は正確には転生ではなく転移と呼ぶべきか?


死んだが、赤ん坊からやり直しているわけではない。身体は自前じゃなくて作り物ではあるが。


-----しかし、前世でも不自由な身体に苦労したというのに。・・・転生先ではどう見てもゴーレムです。本当にありがとうございました。


二度目の人生もハードモード過ぎて泣きそうになる真一郎だった。



そんなことを考えつつも、真一郎は自分でも意外なほど心を落ち着けて、目の前の光に向き直った。

心のどこかで冷めた自分が、慌てる自分を静かに見つめている。

まるで思考回路が複数ある様な不思議な感覚だった。


-----これもゴーレムの身体になったせいなのか?


自分の中にある高度な判断システムが、勝手に情報を処理していく。

どこか心の奥底で、正解ですとの信号を判断システムが送ってきた気がした。

と、同時に光が声を掛けてくる。



「身体の状況の確認は完了しましたか?違和感があればお伺い致します」


「違和感がありますかって聞かれれば、違和感しかないと答えざるを得ないんだが。・・・まあ、それはそれとして、死んだ人間を異世界から呼び寄せてゴーレムとして復活させるとか・・・、どこのマッドサイエンティストが考えたんだよ」


「計画の立案者は、魔導帝国プロイスヘイムの筆頭魔導師ウィザードセオドア・ログナル様。機体製作者は主席人形使い(ゴーレムマスター)マリーネ・シュタイフ様です」


「熊のぬいぐるみでも作っとけよ!」


ついこの状況を作り出した犯人たちに声を荒げてしまう。


「発言の意図が不明です」


光は嫌味なほど冷静に答えを返す。


「はぁ・・・で、俺をこのゴーレムに入れて何をさせたい訳?」


異世界から魂を呼び寄せる。

しかも光の話を信用するなら、とんでもなく低い確率で適合した魂ということだ。

これだけのことをするには当然目的があるのだろう。


しかし、返って来た答えは真一郎の予想だにしないものだった。


「不明です」


「はあ!?ふ、不明!?じゃあ、この状況はなんなんだ。目的は分からないけど、とりあえず魂入れちゃいましたってことか!?なんだ、甘栗か俺は!」


「質問の意図が一部不明ですが、肯定します。私に与えられた任務は、魂の選別と召喚、そして起動作業のみです。その後の目的については、情報は与えられておりません」


「きゅ、究極に無責任だな、お前」


「否定します。神機に関して与えられた命令はすべて完了し、全ての任務を果たしたと判断します」


「はあ・・・。まあ、お前はプログラム人格っぽいからな。それが責任の限界ってことなんだろうけど。無責任なのは、お前にそれを教えなかった製作者ってことか」


「・・・判断不能。回答を保留します」


返答の前の微妙な間が気になる。

口調も少し気分を害している様だった。

プログラム人格と馬鹿にされたせいなのか、製作者が非難されたからなのか、真一郎には判断が出来ない。


プログラムだと思っていた目の前の光に感情が存在することに真一郎は少し驚きつつも質問を続ける。


「そう言えば、お前の製作者って誰なんだ?」


「マリーネ・シュタイフ様です」


「人形使い(ゴーレムマスター)ってほうか。じゃあ、目的はその人に聞くしかないか」


「不可能です」


「へっ?・・・不可能?」


更に真一郎の想定外の答えを返してくる光。


「マリーネ様は既にお亡くなりになられています。1832年前になります」


「せ・・・1832年前に死んでる?お前は製作者の死後も黙々と作業を続けていたってことか?」


「肯定します。事前の計算では、あと13000年ほどかかる予定でした。大幅な時間の削減が行えたと判断します」


少し自慢げな口調で語る光。


「なんとも気の長い話だな。セオドアとかいうおっさんももちろん死んでるだろうし、・・・他に誰かこの計画に詳しい人間っていないのか?」


「詳しい“人間”はおりません」


人間という部分を少し強調した形で光が答える。


「ん・・・?なんか、ひっかかる言い方だな。人間以外ならいるということか?」


「肯定します。この神機製作には鍛冶神ブリギット様が関わっております。ブリギット様なら目的もご存知でしょう」


「出たよ。やっぱりいるんだな、神」


異世界ということで想定はしていた真一郎。

やはりここは神が実在する世界の様だ。


「肯定します。ブリギット様の神殿は、ユーレリア山の頂に存在します。そこまで行けばお話が聞けるかもしれません」


「神託を受けに行けっていう訳だ。異世界に来て早々、メインクエストじゃなくてお使いクエストとはね。・・・いや、一応メインクエストなのか?」


真一郎は前世でのRPGを思い出す。


真一郎はどちらかと言えば自由度の高い箱庭世界系が好きだったが、まさか実際に目的無くオープンワールドに放り出されるとは思ってもみなかった。


「質問の意図が不明です」


「いや、気にするな。・・・じゃあ、俺の当面の目的はそのユーレリア山とやらになるわけか。まあ、全く目的がないよりはいいか。・・・お前も一緒に来るのか?」


「否定します。私には別の任務が残っております」


「一人で行ってこいってか。ホント、投げ出しっぷりが凄いよな、お前」


「・・・発言の意図が不明です」


-----絶対わかってないふりをしてるだけだよな、こいつ。


返答の妙な間に疑念を抱く真一郎だったが、あえて突っ込むのはやめておいた。


「そういえば、お前の名前を聞いていなかったな」


「名前はありません。・・・私は、ただのプログラムに過ぎませんので」


少し拗ねたような、悲し気な声で光が答える。


-----ぐっ・・・何だよ、こいつプログラムって言ったことを気にしてるのか?でも、マリーネとやらに作られたプログラム人格なんだろ?もしかして長い年月が経って、自我を獲得したとか?


生前は姉と妹に挟まれて育った真一郎としては、人工の人格とは言え女性が悲しそうにしていることを看過できない。


「・・・プログラムって言って悪かったよ。すまん。お詫びと言っては何だけど、俺が名前を付けてもいいか?」


「名前を頂けるのですか?し、しかし、私にはそのようなものは不要で・・・」


珍しく戸惑った声で答える光。


「いいじゃないか。あっても無駄にはならないだろ?そうだな・・・タレイアなんてどうだ?」


-----アフロディーテじゃ盛りすぎだし、タレイアくらいで良いよな。


生前読んでいたギリシャ神話の女神から名前を拝借する真一郎。

それを聞いた光が、ビクッと固まったように空中で静止した。


「タレイア・・・タレイア・・・タレイア・・・」


弱々しく点滅しながら何度も名前を呟く光。

その様子を見て心配になった真一郎は恐る恐る声を掛けた。


「お、おい・・・?大丈夫か?」


「・・・は、はい!私は今日からタレイアです!」


光、改めタレイアが、急激にその輝きを増しながら楽しそうに部屋中を駆け巡る。


「おおっ、気に入ってもらえたようで嬉しいよ。・・・で、そのユーレリア山まで旅するにあたって、この世界の常識とか、俺の身体のこととか、分かる範囲で教えてくれるか?」


「承知いたしました、シン様」


「シ・・・シン様?」


名前を付けたせいか、急に真一郎に対する態度が恭しくなるタレイア。


「はい。私の名付け親となった方ですので、シン様と呼ばせて頂きます」


「ま、まあ、好きに呼んでくれ。じゃあ、いろいろ教えてくれるか、タレイア?」


「お任せください、シン様!」


真一郎から名前を呼びかけられたことが余程嬉しいのか、更に輝いて飛び回るタレイア。


そんなタレイアを見て苦笑しつつも、真一郎はこれからの異世界生活で待ち受けているであろう困難に思いを巡らせ、そっと溜め息をついた。


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