プロローグ
初投稿になります。
取り敢えず、書きためていた分を一気に放出する予定です。(多分、50話くらい・・・?)
楽しんで頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。
純白に包まれた空間に声が響く。
「・・・神命を受諾」
鳥の囀りを思わせる様な少し甲高く可愛らしい女性の声。
「神機の起動シークエンスを開始します」
おそらくは一人の人物から発せられているはずなのだが、まるで複数の人間が複数の言語を同時に話しているような、そんな不思議な響き。
学校の教室程度の大きさの空間。その部屋を包み込む美しいその声は、讃美歌のハーモニーを思わせた。
「魂魄のサルベージ及びロードを確認。最終封印・・・解放」
飾り気のない簡素な部屋の中で、歌うように女性の言葉が紡がれていく。
窓すら存在しないその部屋は、床も、壁も、天井もすべて白で埋め尽くされている。
掃除も行き届いているのか、埃の積もった様子も無い。
この空間を支配するのは只々荘重な純白。
清潔感はあるが、その反面あまりにも無機質すぎて心が圧迫されそうな、そんな白が部屋を覆う。
「テンタティブボディ形成、構成素材スキャニングを開始。・・・フルスキャン完了。ミスリルボディに対する神経網の分子レベルでの結合を確認。耐久値測定・・・異常なし」
暴力的と言えるほどの清純な白は、その部屋の中に一切の穢れも一片の異物も許しはしない。
そんな強い意思の表れのように、そこにはただ一人の人物も、部屋の中にいるはずの声の主の姿すら見当たらない。
しかしなお、声は静かに響く。
「各魔素融合炉からの出力、想定値の120%で安定中。魔力フィールドの正常な展開を確認」
その声が響いてくる方向、そこには不思議な形の台が置かれ、その台の上には奇妙な円形の文様が描かれている。
文様の横には操作盤らしきもの、各種スイッチ類。大小さまざまだが、やはり色は白で統一されている。
何らかの機械ではあるようだが、現代日本では見かけない構造で、何を目的に作られたものかを想像するのは難しい。
「各制御コアの限定起動を承認。拘束制御術式アクティベート、魔力回路上で正常に稼働中」
女性の声が響くたびに文様の上で薄く淡い光が点滅する。
ともすれば優しげとも言えるその光は、まるで自らが声の主であることを主張するかの如く、響きとともに温かく台の上を照らしては消える
「メイン制御コア及びサブ制御コアの亜空間リンク、オールグリーン」
何らかの工程が完了したのか。文様がひときわ強く光った瞬間、光の粒が中空に浮かび上がってくる。
その淡く優しい光に照らされて、白い部屋は一層その清廉さを増し美しく輝く。
混じり気のない純白の輝き。その中を光が躍る。
しかし、そんな完璧な調和が存在していると思えたその部屋に、今この時はただ一つ、許されないはずの異物が存在していた。
光が躍る台とは反対側の壁。
そこには一人の人物が壁に背を合わせる様にして立っている。
おそらくは男性、
身長は少し高めで、細いが均整の取れた体格だ。
男はまるでこの部屋の純白に対抗するかの如く、全身を黒で統一している。
部屋を照らす光もそんな男を忌避しているのか、明るい部屋の中にあって尚、男の姿は影の中に居るようだった。
男はただ静かに立っている。
圧迫してくる純白に押しつぶされそうになるのを耐えているのか、もしくはそもそも異物である自分になんの感慨も抱いていないのか。身動き一つしていない。
ただ反対側の壁を、男の目の前に踊る光をじっと見つめている。
そしてふっと、小さく呟いた。
「・・・なんだよ、これ」