従者から見た二人
本編では登場のなかったキャラです。
俺はダグラス・カイエル。
最近このヴェルデシュタイン王国にお戻りになったタツキ・ヴェルデシュタイン様の従者である。
俺は今まで騎士団団長を任されていたため、タツキ様の護衛としての任務も命ぜられた。
だが、タツキ様はおよそ一年間一人で森で暮らしておられた。
暮らしていくための術も、当然剣の腕も俺などが遠く及ばない境地にまで達しておられる。
果たして俺がお傍に仕えていて、何かできることはあるのだろうか。
そう、国王様に問うたことがある。
すると、国王様はこうおっしゃった。
「お前が傍にいることで、タツキは己にはないものに気づくことができる。お前もタツキから学ぶものがあるだろう」
その言葉を信じ、俺は今こうしてタツキ様のお傍にいる。
「…はあ」
彼がまたため息をついた。
「…タツキ様、手が止まっています。いつまでたっても終わりませんよ」
「…分かってるよ。つーかなんでお前はそんなに事務処理はえーんだよ。騎士じゃねーのか」
「当然騎士の仕事の中にも事務処理はありますので」
「…はあ、シンデレラ」
「そんなにお会いしたいのならば、早く仕事を終わらせて迎えにいって差し上げては?」
「…なんて言って謝ればいいのかわからん」
まったく。この方は。
先日、タツキ様がシンデレラ様にと買ってきたドレスを、侍女が洗濯中にあやまって破いてしまった。
シンデレラ様は「縫えばいいのだから大丈夫」と心優しいお言葉をおっしゃったにもかかわらず、タツキ様は大激怒。
服をほんの少し破いてしまっただけの侍女に対し国外追放だとまで言い放たれたタツキ様に、今度はシンデレラ様が大激怒。
口論の末、シンデレラ様はその侍女を連れてタツキ様の従兄弟であらせられるトウマ様のいらっしゃる王宮へ。
普段から仲の良い二人に嫉妬されていたタツキ様は、しばらく部屋から出てこられなかった。
ようやく出てきたかと思えば、騎士たちの稽古に混ざり鬱憤をはらしていた。
次々と騎士たちを使い物にならなくしていると、見かねたトキサダ様とアリサ様から雷が落とされた。
今はやっとふてくされながらも仕事をしている。
「まずはあの侍女に謝って、それからシンデレラ様に許していただくのです」
「なんであの侍女に謝らなきゃならねーんだ」
「あの者はちゃんと自分の非を認め謝罪したのです。こちらはそれを聞き、許すもしくは少しの処罰くらいが妥当でしょう。服をほんの少し破いただけで何も国外追放だなどとおっしゃらなくとも」
「仕方ねーだろ。あれは俺がこの前オズノルトで買ってきたもんだぞ。シンデレラはまだ一回も着てないのに」
「そのシンデレラ様がお許しになられたのです。あのときタツキ様がどうするべきだったか、もうお分かりですね?」
「……」
まったく、なぜ俺がこんなことを。タツキ様子どもですか。
「では、早く終わらせてシンデレラ様をお迎えに行きましょう。きっとお待ちですよ」
タツキ様の手がほんの少し早くなった気がした。
王宮では、トウマ様とシンデレラ様がお茶をなさっていた。
傍には、あの侍女が控えている。
「タツキ、どうしたのですか?」
心なしか、トウマ様の視線が冷たい。
シンデレラ様はこちらを見ない。
……帰りたいのだが。
「シンデレラを迎えに来た。だがその前に、」
タツキ様は侍女のもとへ行き、目を見て言った。
「すまなかった。あの時はつい、お前に酷いことを言ってしまった。申し訳ない」
侍女は慌てて返した。
「い、いえ!私のほうこそ、大切なドレスを……、申し訳ありませんでした」
頭を下げ、再び彼女は詫びた。
「頭を上げてくれ、もう謝るな」
「……はい」
踵を返し、タツキ様はシンデレラ様のもとへ向かった。
「シンデレラ」
「……なに」
「帰ろう」
「……タツキ、私はまだ怒ってるのよ。あんなこと言う人だと思ってなかったわ」
「すまない」
「あの子が許しても、私はまだ怒ってるんだから」
「ああ、何度だって謝る」
そう言うと、タツキ様はいきなりシンデレラ様を抱き上げた。
「きゃあ!」
「あとは家に帰ってから聞く。帰るぞ」
シンデレラ様を抱いたまま歩き出された。
「ばか!まだお茶の途中なのに失礼でしょう!」
「いいですよ、シンデレラ。また今度ゆっくりお話しましょう」
トウマ様も、先ほどのような冷たい視線ではなかった。
「はい、本当にごめんなさい。また今度伺いますね」
「待っています」
あー、そんなに仲良くしていたら……、
「……ちっ」
ほら、タツキ様の機嫌急降下。
馬車の中、空気がすこぶる悪い。
「……タツキ、なに怒ってるの?」
「……なんでもねーよ」
「なんでもないって顔してないじゃない」
「……」
タツキ様女子か。
「シンデレラ様」
彼女に教えて差し上げることにした。
「タツキ様は、シンデレラ様とトウマ様の仲が良ろしいのに嫉妬されているんです」
「おい、ダグ!」
「……本当?」
「……ちっ」
「……」
二人して顔が赤くなっている。
なんだか、すごく居辛い。
はやく着け。
そう願うしかなかった。
俺はこの後、従者、護衛のほかに「教育係」という役もいただいた。
教育係をつける年でもないだろうに。
まだまだ、この方に教えるべきことがあるのかと気が遠くなった。
だが、それも悪くないなと思っている自分もいた。
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