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はじめてなんだ

今回は本編では名前しか出てこなかったトウマが主人公です。

僕はトウマ・ヴェルデシュタイン。

16歳。

 

今日は僕の社交界デビューの日だ。

「トウマ様、こちらをどうぞ」

「ありがとう」

一人の女の子が僕に飲み物を差し出してきた。

この子、さっきタツキに突き飛ばされてた子だ。

次僕のところに来るなんて。

かわいそうに。

「でもごめんね。これ飲めないよ」

「え?」

「君が触ったこのグラス、僕触れないよ。というか、女の人苦手なんだ」

「そ、そうですの。ですがトウマ様、私の手は…」

「ごめんね、無理」

「……」

彼女は近くにあったテーブルにグラスを置いた。

"失礼します"

彼女は俯いて、聞こえるか聞こえないかくらいの声でそう言った。

ように聞こえた。

 


「トウマ」

「父上」

後ろから父上の声がした。

…国王なんだからうろうろしたらダメでしょ。

みんな困ってるよ。

「どうだ?良さそうな人はいたか?」

「…はじめからそのような人を探してはおりません。ここには人脈を広げるために来ているのです」

「そう堅いことばかり言っていると、タツキのようになるぞ」

「そうだ、父上。タツキが今どこにいるかご存知ですか?」

「ああ、あいつなら今しがた帰ったぞ」

「え!?」

今日はまだ何も話してないのに、あの人は。

「あいつはお前に何も言わずに帰ったのか。はは、あいつらしいな。もうこれもそろそろ終わりだから、話せる人と話してこい。」

父上は笑ながら、この場を後にした。

 

 

「では、トウマ様。私どもはここで失礼致します。貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。」

「いえ、こちらこそ有意義な時間を過ごせました。ありがとうございました。」

最北の地の管理を任せているアルトス領主。

あの偏狭の領地を「雪の都」とまで呼ばせる都市にした腕利きの人物。

めったに公の場に現れない人だ。

こんな機会でなければ、お会いすることはなかっただろう。

良い時間が過ごせた。

そう思ってると、後ろから突然、

「トウマ様ー!」

 

ドン!

「きゃあ!」

僕は後ろから抱きついてきた令嬢を振りほどいた。

女の人嫌なんだってば。

僕の従者たちが何事かと声をあげている。

「何をなさいますの!?」

「君こそ何のつもりだ」

騒ぎを聞き付けて、父上が近づいてきた。

「トウマ、何があった」

「この者がいきなり…」

「旦那様に妻が抱きついて何がいけないのですか!?」

「…妻?」

「…どういうことだ、アルトス」

「い、いや、あの…これは、」

「お父様、私とトウマ様の結婚が決まりましたのでしょう!?」

僕は父上を見た。

父上は何の事だと言わんばかりの目でアルトスを見ている。

「だって、お二人とも手を握りあっていたではありませんか!」

「いや、あれはな…」

「私との結婚を承諾してくださったのよね、トウマ様?」

僕の腕を掴もうとする彼女から離れた。

「それ以上近づくな。僕は女の人が苦手なんだ」

「私ならば大丈夫です!あなたの妻になるのですから!」

ああ、この娘は何なのだ。

「アルトス、どういうことだ」

父上が問いかける。

「…娘は以前から、トウマ様のことを好いておりました。今日この場で思いを伝えようとしていたのです。ですが、私が止めたのです。無謀だと、良い返事はいただけないと。その時、つい私が話してみると言ってしまったのです。そして、私とトウマ様のあの姿を見て勘違いをしたものと…」

ぽつりぽつりと話し始める。

なんとも迷惑な話である。

「アルトスの娘」

父上が話しかける。

「何でしょう、お義父さま」

父上のことを『お義父さま』などと呼ぶ娘にため息が出る。

「お前とトウマを結婚させることはない」

きっぱりと言い放った。

「なぜですの?私、ずっと前からトウマ様の妻になるために頑張って参りました。私以外にふさわしい者がおりましょうか」

「トウマが嫌だと言っているだろう。俺はトウマに相手を選ばせてやりたいんだ」

…父上、そんなことを思ってくださっていたのですか。

僕は父上の思いを知った。

「…だから言っただろうに、無謀だと。だが、お前に期待させるような言葉をかけたのは私だな。すまない。国王陛下、トウマ様、大変ご迷惑をおかけしました。今度、お詫びに伺います」

アルトスは、僕たちに深々と頭を下げ、呆然と立ち竦む娘を連れて去っていった。

「…なんか疲れたな」

「…帰りましょう」

僕たちは少し早いが、帰路につくことにした。

 


 

「なぜ!私ではいけないの!」

手配していた馬車に父上と向かう途中、そんな声が聞こえた。

「…先に行っていてください。」

父上を先に馬車へと向かわせ、私は声の聞こえる方へ行く。

「あの方が私を見てくださらなかったのは、すべてお前のせいよ!」

気づかれないよう、そっとドアを開ける。

この部屋の中にはあの娘と、もう一人誰かいる。

「…申し訳、ございません」

「このドレスも!髪もお化粧も!あの人は何も誉めてくださらなかった!お前が設えたからよ!」

そう嘆きながら、侍女と思われる娘に力で感情をぶつける。

よほど長い間痛め付けられたのだろう。

女の力と言えど、顔は痣だらけだ。

もとの顔などわからないくらいに腫れていた。

なぜか気になる。

「お前のせいよ!すべてお前の!」

「おい」

「!」

娘は驚いたようにこちらを振り返った。

「トウマ様!」

僕は真っ先に怪我を負っている彼女のもとへ行った。

「大丈夫?」

かわいそうに、血が出てる。

「トウマ様、そのような者など放っておいて…」

娘が何か言っているが、そんなことどうでもいい。

なぜだろう、彼女から目が離せない。

「おいで」

「…え」

おそらく足も怪我してるだろう。

僕は彼女を抱き上げた。

軽い。

あれ、僕女の人苦手じゃなかったっけ?

「お、おろしてください…」

「手当てをしよう」

「トウマ様、なぜそんな者を気にかけるのですか!」


ドン!

「きゃあ!」

この女を突き飛ばすのは2回目だ。

少しは学習したらどうか。

「父上も仰っていただろう。僕はあなたと結婚することはない。特に、弱い者を腹いせに痛め付けるようなやつとは」

僕は、彼女を連れて馬車に向かった。

 

 

「お待たせ致しました、父上」

「いや、大丈夫…だ」

僕は父上の前に腰かけた。

その横に彼女を座らせる。

「おい、その娘は…」

「怪我をしているので、手当てをしようと思いまして。薬はある?」

「こちらに」

「ありがとう。あと、城に医者を呼んで。できれば女性」

「かしこまりました」

従者が持ってきた箱を受け取り、そう指示した。

「いや、それは良いのだが、どこから拐ってきたのだ」

拐ってきたなどと人聞きの悪い。

「おそらくアルトスのところの侍女でしょう。名前は何て言うの?」

僕は彼女に尋ねた。

「リ、リンと申します、王子様」

「リン、僕はトウマだよ。王子様じゃなくトウマと呼んで?」

父上の前だということを忘れていた。

「そんなことできません」

「なぜ」

「私のような者が御名を呼ぶなどおこがましい」

「僕がいいと言ってるんだよ?」

「それでもです」

そんなことをしている間に城についた。

パーティーが行われていた会場は城の近くだった。

僕はもう一度、彼女を抱き上げた。

「お、王子様、私は一人で歩けます…」

「いいから」

彼女を城の中へ連れていった。

 

 

「はい、これで大丈夫でしょう」

部屋から出てきた女医は、彼女の身体中の手当てをしてくれた。

この人は、タツキのところの専属医だ。

電話したらすぐ来てくれた。

「やっぱり、服で見えないところにもあったんだね」

「はい、おそらくずっと前から暴力を振るわれてきたのでしょう。古傷が目立ちました」

「女の力っぽい?」

「命に関わるような大きな傷は見つかりませんでしたので、女性の力によるものと思われます」

「そうか、ありがとう。わざわざ来てもらってごめんね」

「いえ、滅相もございません。では私は、これで失礼致します」

女医は帰っていった。

 

 

コンコン

「リン、入ってもいい?」

「は、はい!どうぞ」

リンの声を聞いて、僕はドアを開けた。

僕が入ってきたからか、ベッドから起き上がろうとするリン。

顔の腫れも少しひいたかな?

「リン、そのまま寝てて」

「いえ、そのようなことは…」

「いいから、寝てなさい」

リンを無理やり寝かせ、布団を直す。

「リン、いろいろ聞きたいことがあるんだ」

「…はい」

「君はアルトスのところの侍女で間違いない?」

「はい、ご令嬢のミスティー様の侍女でございます」

「いつもあんな風に暴力を振るわれてるの?」

「……いえ」

これは肯定かな。

「リン」

「…はい」

彼女は遠慮がちに僕の目を見た。

「うちの城に住まない?」

「……え?」

「アルトスには僕から話をつけておくよ。うちの侍女にならない?」

「いえ、そんな、私には…、王宮に仕えるなど、」

「ん?まだあの領地にいたい?ご両親があそこで暮らしているとか」

「いえ、父と母はすでに他界しております。あの、そうではなくて、私などが王宮に仕えるなど…、とてもではありませんが…」

「でも今帰ったら、またいじめられるんじゃない?」

「それは…」

僕は言葉のつまるリンに、あの事を話し始める。

「僕ね、女性が苦手なんだ」

「…え?」

「たぶんタツキの影響だね。話すことはできるんだよ、でもどうしても触れられないんだ」

そういって、僕はリンの頬に触れた。

「こんな風に、一人の女性に触れたいと思ったのは、リンが初めて」

頬を撫でながら続ける。

「リンさえ良ければ、ここに住んでほしい。この気持ちが何なのか知りたいんだ」

「…王子様」

「トウマだよ」

「…トウマ様、私は、できればあの領地には帰りたくありません」

「じゃあ、ここに…」

「でもそれは、逃げていることになりませんか?」

「逃げ?」

「私はあの地でミスティー様の侍女としてのお役目をいただいておりました。やらなければならないことも残っております。私は、己の好き嫌いの感情で動いてはならないのです。私にはまだやらねばならないことがございます。」

リンは淡々と続けた。

「お誘いいただいたこと、感謝致します。ですが、申し訳ありません。辞退申し上げます」

そういうとリンはベッドから出で、深々と頭を下げた。

「手当てをしてくださったこと、ありがとうございました。このお礼は必ず」

リンはそう言い、

「失礼致します」

部屋から出て行く彼女に、

「待って、せめて送るよ」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

まだ安静にしていなければ。

もう少しだけ休んでいきなよ。

そんな言葉が出そうになった。

でも、彼女の凛とした後ろ姿を見ていると、声をかけられなかった。 

「…じゃあ、馬車を貸すから、せめて使って」

「…では、お言葉に甘えて」

「うん」


 

「ではトウマ様、何から何までありがとうございました。いつかお礼に伺います」

「うん、気をつけてね」

リンは頭を下げ、馬車に乗り込んだ。

しだいに、馬車は小さくなっていった。

 

 

「トウマ」

城の中に入り廊下を進んでいると、父上に声をかけられた。

「あの娘、帰ったのか」

「はい、まだやらねばならぬことがあると」

「…そうか」

「…失礼します」

「そういえば、今度アルトスの治める領地に視察に行くのだが、」

「!」

「一緒に行くか?」

リンはお礼に伺うと言っていた。

そうだ、会いたかったら僕が行けばいいんだ。

「はい」

「一週間後だ。それまでに準備しておけよ」

「…ありがとうございます、父上」

父上はそのまま部屋に戻っていった。


 

今別れたばかりなのに、もう君に会いたいよ、リン。


君がまた暴力を振るわれていたら、今度こそ君をうちへ連れ帰るよ。


最初は侍女でもいい。

君は責任感が強い女の子なんだろうね。

たぶん仕事をくれって言うと思う。

 

 

でも、いつかは…。

 

お読みいただきありがとうございます!

王子、という設定なので少し我が儘&自己中要素を入れております。


誤字脱字、おかしな表現など山盛りだと思います。

発見された方、ご指摘いただけましたら幸いです。

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