父と母
まず初めは、タツキの父トキサダと母アリサの馴初めです。
「トキサダ様、私と結婚してくださいませ!」
アリサは目の前の男性に思いを告げる。
すると彼は、
「アリサ様、私はあなた様の従者でございます。様などと、敬称は不要です。」
アリサ・ヴェルデシュタイン、齢13歳。
トキサダ・トライド、齢21。
年の差、身分違いの恋愛物語である。
「トキサダ様、私はあなた様のことを心から愛しております」
「私もあなた様に敬愛申し上げておりますよ」
「敬愛とは何かご存知ですの?"尊敬し、親しみの心を持つこと"だそうです。私が欲しいのはあなた様からの尊敬の念ではありません」
「ですが、私からはこれ以上申し上げることができないのですよ」
「……もういいわ!」
アリサは部屋から飛び出した。
「アリサ様!」
トキサダも廊下に出た。
アリサが兄・シュウの部屋に入ったのを見た。
「…少しシュウ様におまかせするか」
トキサダは自分の仕事を片付けるため、自室に戻った。
その頃、アリサはシュウに泣きついていた。
「お兄さま、トキサダ様が…」
「アリサ、トキサダにも事情があるのだ。わかってやれ」
「事情とは何ですの?私がこんなに思いを伝えているのに。嫌なら嫌とおっしゃってくださればいいのに…!曖昧にごまかされてばかりで、もう嫌です…」
「…あいつの本当の気持ちが知りたいか?」
「もちろんですわ」
「ならば、兄も手を貸すぞ」
「…?」
「アリサ様、サルスランドの王子との縁談を受けられるとは本当ですか?」
「ええ、本当ですわ」
「なぜあのような国と…。あの国であなた様のように黒髪を持つ者は暮らしていけません。ご存知のはず」
「仕方ないのです。この国のためなのですから。話は以上ですか?私はもう休みたいのですが」
「…はい、失礼致します」
『とことん冷たくするんだ』
『冷たく、ですか?』
『ああ、加えて目を合わせなければ最高だ』
『私にできるでしょうか…』
『あいつの気持ちが知りたいんだろ?ならばやらないと』
『努力します…』
『それと今、お前に縁談の話が来ている』
『縁談が…?私は受けませんよ』
『会うだけ会え。無理なら断ればいいから。』
『私はトキサダ様しか嫌でございます』
『わかっている。この縁談もあいつの気持ちを知るために使えるだろ』
『…お断りしますからね』
『ああ』
「…こんな感じで良かったかしら」
ちょっと冷たくしすぎた…?
「明日、謝ろう…」
アリサはそのまま眠りについた。
「トキサダ様、昨日は大変失礼な態度をとってしまい、申し訳ございませんでした…」
アリサは朝一番、彼にそう発した。
「…いえ、謝られることは何一つございませんよ、アリサ様。」
「え?」
「謝らねばならないのは私です。あなた様の一従者にすぎないのに、私が口を挟むことではありませんでした。お許しください」
彼はそう言って、アリサの前に伏した。
「私は、あなた様の幸せを第一に考えております。」
その言葉を残したまま、彼は部屋を出ていった。
「…トキサダ様」
アリサはなぜか、悲しかった。
アリサの縁談は進んでいた。
「噂通り、ヴェルデシュタインの姫君はお美しいですな」
「ええ、自慢の妹ですよ」
サルスの国王はアリサのことを誉めてくれた。
だが、アリサは知っていた。
その笑みが嘲笑であることを。
『そんな髪でよく生きていけるな』
『私だったらとっくに自害しているぞ』
『嫁いできたら、我が国に不幸が訪れる』
『だが、あの女でも政治のために使える。死ねば不幸も去るだろう』
そんな、声が聞こえる。
私、こんな国に行ったら、殺されるんじゃないの…?
そんなの、友好もなにもないでしょうに。
…トキサダ様。
アリサは愛する人のことを思い浮かべていた。
すると、今まで口を開かなかったサルスの王子が言葉を発した。
「父上、なぜこのような国と友好を結ばなければならないのですか。国民は皆黒髪、不幸の塊ではないですか。そんな国の者を我が国に迎え入れればどうなるとお思いか。最悪、国が滅んでしまうやもしれません。そんなことになれば、ヴェルデシュタインの国民を皆殺しにしても足りぬでしょう。私はこのような疫病神の姫、嫌でございます」
こちらも同じ意見よ。
そもそもこの話を受ける気などないわ。
「…私は、」
「今、アリサ様になんと申された」
後ろから、あなたの声が、聞こえた。
「こちらとて、そちらの国にアリサ様を嫁がせる気など毛頭ない。サルスのような蛮族の国に、我が国の大切な姫君をどうしたら預けられようか。」
「…トキサダ様」
「私のお仕えしてきたアリサ様に、貴様のような男はもったいない」
「っ、この従者風情が!そんなことを言ってどうなるか、」
ガシャン!
「申し訳ないが、サルスランドの王子よ」
シュウがテーブルを殴った。
「今、従者トキサダが申し上げたことがヴェルデシュタインの返事だ。ここでお帰りいただこうか」
「い、いや!待ってくだされ、国王!たった今息子が申し上げたことは、すべて偽りで、あの…」
「私は、貴国に嫁ぐ気などございません」
アリサは、フロア内に響き声で言った。
「私には、もう心に決めた方がいるのです」
トキサダの目を見て、声高に言う。
「あなたのような方のもとに行くくらいなら、自害した方がましですわ」
パンッ
「…あのようなこと、もう二度と口にしてはなりません」
叩かれた頬が痛い。
「…ですが、」
突然、トキサダがアリサを抱きしめた。
「あの言葉、死ぬほど嬉しかったんです…」
「トキサダ様…」
「私は今まで、身分違いだ、相応しくないと、自分を律してあなたに接して参りました。」
「…はい」
「あなたから与えられる言葉ひとつひとつに、息が止まってしまうかと思ったほど嬉しかった」
「…トキサダ様」
「身分違いだということは、今でもよくわかっております。ですが、これだけは伝えたい」
「アリサ様、私もずっと前から、お慕いしておりました」
「アリサ、シンデレラはどうだい?」
「すっごくいい子よ!あの腐った国で育ったのが嘘みたいに!お母様って呼んでくれるの!」
「そう、それは良かったね」
嬉しそうに頬笑むアリサにトキサダは、
「アリサ」
「なあに?」
「愛しているよ」
「……!、私も愛しているわ、トキサダ様」
お読みいただいてありがとうございました!
こんな感じでちょこちょこ更新していこうと思います。
誤字脱字、おかしな表現などありましたら、教えていただけると幸いです。
よろしくお願いします(‐人‐)