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脈流(RW1)  作者: 智路
第2部 幼鳳のさえずり
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第4-11話 真理を求めて

第4-11話 真理を求めて

 利助即ちガウスが退壇し、東雲が壇上に上がった。

「ぬしらの望むものは何じゃ?これが暖かいご飯ですという都合のよい弁か?ぬしらも空者ではないのか?空者が空者として極めを得るためにここにおるのではないのか?」

 東雲は怒っているようではなかったが、口調は強かった。反論するものはおらず、東雲が話しを続けた。

「実を望むならトランティスに行くがよい。死後の保証が欲しければ、その保証を見つけるまで格者を目指せばよい。ぬしらの望みを妨げる者などこの地球にはおらぬ。いつの時代でもそうじゃが、己の望みは己で叶えるものじゃ。まあ、よい。ぬしらを責める権利などわしは持っておらぬからの。同じようにぬしらも他者を責めてはいかん。昔から因果応報と言っての、己に対する全ての現象の原因は己にもあるのじゃ。現象が幻影であってもなくても、わしらの環境を変えるものではない。責める前に己を省みてみよ。わしもそうすることにする」

 皆が一様にうな垂れていた。希望を失い行き先を失った人々の群れがそこにはあった。

「ガウスさんが、帰り際に言っておった。『真理は相対性の中の絶対性に存在する。その真理は確かめずとも絶対的なもののはずだ』とな。この世界には対となるものが多い。例えば+と-、陰と陽などじゃが、この対など真理に近いのではないか。桃九さんもわしにこう言うときがある。『真理は幻影の向こう側にあるはずだ』と。なんのことやらわからずにおったが、今日少しわかったような気がするのう。今日はこれで終いじゃ」

「先生。次回の講座もお願いします」

と言うものがいた。それに続くように多くの者が賛同の意を表した。

 東雲はその足で桃九邸に向かった。

「わからなくなりました」

「ん?何がですか。さきほどガウスがきて、わけのわからない愚痴をこぼしていきましたが、それと関係があるのですか?」

「おおありですじゃ。ちかごろの若者はという言葉は慎んでいましたが、今正にその心境です。閉会のときには前向きになっていたようですが、いつ変貌するかわからぬ者たちに講義を受けさせるのは考えものだと思いましてな。いっそ、チロさんがやったように少数精鋭で数学の地球を作り上げたならばどうでしょう」

「それはいけない。可能性の芽を潰すことになりかねない。少数精鋭でやれば、結果が固定されてしまう」

「そうですな~。ところで、ついわしにもわかっていなかった『真理は幻影の向こう側にあるはずだ』ということを講義で口走ってしまいましたが、それはどういう意味なのでしょうか?」

「わたしにもはっきりとしたことはわかりません。感性を超えた勘とでもいうのでしょうか。ただ、わたしたちの見ている現象だけを集めてみても何も生まれてこないのです。ガウスも”次元と測定”という主張をしています。これをお読みになった?」

「いえ、まだですじゃ」

「未だ、準備が整いませんが、近いうちに天の川銀河を一周してこようかと考えてます。幸いゴクウたちがブラックホールを調査しています。天の川旅行の目玉はこれですね」

「ほう。わしも加わりたいところですが、やらねばならぬことを地球に多く残すことになりそうなので遠慮させてもらいますかのう」

 このブラックホール行は暫く先になるが、そこで”幻影の向こう側”を垣間見ることになる。


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