第4-9話 神の世界との結線
第4-9話 神の世界との結線
「ユキ様、それはわたくしがやります」
「咲さん、わたくしは巫女の見習いとして参っているのです。すると、咲さんはお師匠様ということになります。これからは咲さんのことをお師匠様とお呼びしようかしら」
「そ、それはおやめくださいませ。それに巫女にはそのような関係はございません。巫女はただただ神にお仕いするだけです」
「では、わたくしのことも様つけで呼ぶのもおかしいわね」
「し、しかし。優様はわたくしのご先祖様でしたから、優様と呼ぶのが慣わしでした。そのお子なのですから ユキ様と呼んでもおかしくはないと思いますが……」
「わたくしはご先祖様ではありません。ただの子です。それにわたくしは母様がどのようなことをなさっていたのか知りたいのです。つまり、巫女修行を望むのです。そこに様つけで呼ばれたら修行にみが入りません」
「そうですか。それではこの社殿の中ではユキさんとお呼びしてよろしいですか?」
「そうして」
「それではしきたりとか儀式のやりかたとか詳しくお教えしますね」
「お願いします。それと、合間で母様のことを教えてもらえれば嬉しいのですけど……」
「よろしいですとも。わたしの知る限りのことはお教えします。優様に他言無用と言われたこともユキさんになら話しても許してもらえそうですし。わたしも肩の荷が少し緩みます」
「他言無用のことなんてあったの?父様にも?」
「はい。この社殿に出入りする者以外の人には他言無用と言われました。特に男の方には」
「ふ~ん。そんな秘め事があったなんて知らなかったわ。母様はそれほどは父様のことを信用してなかったのかしら」
「いいえ。神事とこの世界での男女の仲とはまるで性質の異なるものでございます」
そう言った咲は神を祀る秘殿に礼を繰り返しつくした。
「ここは、御堂神社の分祀になります。しかし、優様の祭祀により神は降りたようでございます」
「どうしてそれがわかるの?」
「それが他言無用とされた中身でございます。巫女は神からの神託を人に伝える役目を持っていますが、それと同時に神託ではない神のつぶやきは伝えてはならないことになっております」
「つぶやき?」
「はい。神も人と同じように何かをお悩みになられることがあるのかもしれません。その悩みかもしれないものを人に伝えるわけにはいかないのです」
「咲さんにも、そのつぶやきは聞こえるの?」
「残念ながら……。でも、優様のお子であるユキさんなら聞こえるかもしれません」
「そういうものかしら……」
「わかりません。全ては神がお決めになることなので……」
「わかったわ。ここに来たときから決めていたことだけど、目標ができたからいっそうみがはいりそうだわ。わたくしは母様と同じことを尽くして参ります」
優に神の子のつぶやきが聞こえたということが、この世界を超えた真の事実であるならば、この世界と神の世界も何らかの結線を持つということを意味する。しかし、それが他言無用となればその結線は無いと等しいことなのであった。




