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脈流(RW1)  作者: 智路
第2部 幼鳳のさえずり
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第4-3話 主張と否定

第4-3話 主張と否定

東雲による論理感性融合法の講座が始まった。今までも不定期に数回行われていたが、定期的な開催は今回が第1回目となる。

「それでは始めることにするか。そこの者、論理と感性の融合が必要なわけを述べてみよ」

「はい。それは、矛盾を打破するためです」

「何故矛盾を打破しなければならないのだ」

「それは論理を前に進めるためです」

「う、あはは、あはは。何処かで聞いてきたような話じゃのう。論理を前に進めてもまた矛盾が現れるだけではないか。論理に矛盾はついてまわるものじゃ。何故か?わかるものはおるか」

「はい。論理は前提条件によって絶対性を求めます。その前提条件が崩れたとき、矛盾が現出します」

「何処かで見た顔じゃのう」

「はい。先生の講座には毎回出席させてもらっています」

「ふむ、矛盾の説明は概ね正しい。が、肝心なものが抜けておる。論理を展開する者は、前提条件が崩れたことに気付き難いのじゃ。何故か?前提条件に絶対性を持たせるからじゃ。この世界の全ては相対的にできておる。つまり、絶対性と相対性の小さな差が積み重なって矛盾は起こることになる。依って、矛盾の原因を探すことは難しくなる」

「先生、そこで感性の登場となると思うのですが、どのように感性を使えばいいのでしょうか?」

「使い方を知るのは先走り過ぎじゃ。まず感性の役割を考えねばならぬ。感性は絶対性と相対性の小さな差を吸収したり、増幅したりする役割を持つ」

「増幅させたら矛盾が現出しやすくならないのですか?」

「そうなる。だからよいのじゃ。矛盾が現れた原因を突き止めることができる」

「論理を展開する者にとって矛盾が明らかとなったら、その者は悔しくありませんか?」

「それは感情論と同じじゃ。講座第1回目の大事な部分はここじゃ。”何かを主張する者は、非が明らかとなったとき、それを認めるという姿勢が必要である”。これに比べたら論理も感性もちっぽけなものじゃ」

「非を認めなかったらどうなるのですか?」

「なにをかいわんやじゃ。が、そこも難しい。主張する側とそれを否定する側は同格なのじゃ。つまり、どちらに非があるかわからないことになる。これは第3者が入っても同じことが言える。『個と関係の第1原理』から多数決が、平等ではないことを知っているな。つまり、主張する側と否定する側で賛成票が違ったからといって、どちらに非があるか決定することはできないのじゃ」

「どうすればよいのですか?」

「それは場合による。その場合とは主張の重みじゃ。例えば、その人にとって己の命と同じくらい大事なものならば引き下がるわけには行かぬ。その反対の例は否定のための否定は愚の骨頂じゃ」

「その中間はないのですか?」

「妥協とか折り合いというものもあるが、これも場合によるのじゃ。つまり、場合の対処も論理では難しい。やはり感性によって判断するしか方法はない。しかし、もっとも現実的な解決方法は主張と否定の両方を試すことじゃ」


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