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脈流(RW1)  作者: 智路
第2部 幼鳳のさえずり
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第4-1話 紋章の子

第4-1話 紋章の子

 自然の成り行きとはいえ、その報せは皆を歓喜の渦に巻き込んだ。

 紋章から帰還した優は、桃九の邸宅の中に設けられた仮の御堂神社に咲と共に住むようになった。優も咲も巫女であるから朝・昼・夕の神事に仕えることが仕事であったが、優は神事が終わると桃九の世話をするために桃九の私室を訪れるようになっていた。さすがに夜寝るときは、神社に戻っていたようだが、それでも子を身篭ったようである。

 報せは、桃九の邸宅で働く女たちから少しずつ漏れた結果のようである。いつの時代でもそうかもしれないが、女たちの噂は巨大なメディアと化し、ついには報せがトランティスまで届いたようである。隠居状態となっていたチロとセイトまでお祝いに駆けつけたのだから、その喜びは天の川銀河全ての喜びと言っていいのかもしれない。

 身篭ったことを知った桃九は優と寝起きを共にするようになる。神事のために神社に向かうのだから、優が神に仕える時間と桃九に仕える時間の割合はさほど変わらなかったが、共に寝起きするという一時が優には豪奢な披露宴より嬉しかったに違いない。やがて、優は女児を出産し『ユキ』と名付けた。その一年後に男児『マモル』を出産し、さらに一年後に男児『ショウ』を出産した。

 しかし、その後がいけなかった。

「原因はわからないのか」

「はい。心身共に異常は見当たりません」

 地球はおろかトランティスからも最高の医師団が、寝込んでしまった優の病の原因を探した。しかし、異常は全く見当たらなかった。優は、あの紋章を胸に抱きながら、

「わたしはこの紋章のおかげで桃九様に再びお会いすることができました。嬉しいことに子を3人も授かって……」

 優はその後の言葉を続けることができずに、静かに息をひきとった。

「優。優よ。わたしが無理やり紋章から引っ張り出したせいだ……」

 桃九に慰めの言葉をかけられる者はおらず、一人また一人と部屋からいなくなっていった。残ったのはチロとセイトだけだったが、彼らでも言葉をかけることはできなかった。

 やがて7年の歳月が経ち、3人の子らはすくすくと育っていた。できる限り3人の子らと過ごすようにしてきた桃九だったが、そのころから桃九は気がつくようになった。

「ん?これは何だ」

 桃九は、今までそれを単なる薄く小さな痣だと思っていたが、ユキの痣が小さいながらはっきりとした模様となって見えてきていた。ユキの額に描かれたような痣は、あの紋章にそっくりだった。

「どういうことだ。女児の額にあの紋章が描かれるとは……。何かの呪いなのか」

 桃九がマモルとショウの身体も探ってみたところ、マモルは右掌と左掌に、ショウは背中に3つの紋章を持っていた。

「医師団を呼んで検査してもらってくれ」

 ところが、最新の医療機器を使っても紋章の正体どころか紋章の認識すらできなかった。噂を聞いたガウスがやってきて、

「この子らに描かれた紋章は肉体と違う次元に存在するのではないか」

「そうだ。優が持っていた紋章を持ってきてくれ。照合してみたい」

「見当たりません」

「嘘だ。寝室にあったはずだ」

 しかし、桃九でさえいつ紋章が消えたのか記憶が定かではなかった。


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