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脈流(RW1)  作者: 智路
第2部 幼鳳のさえずり
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第3-15話 実験の数

第3-15話 実験の数

「極座標系で考えたほうがいいな」

「そうだな。いよいよ重力波を作るのか?」

「そうだ。波長を長くする必要がある」

 λ=2π/k=v/f(λは波長、kは波数、vは波の速度、fは周波数である)

「波長が長くなると、波数が減って、距離が縮まったことになる。現象としては、引き合ったことと同じになる。しかし、運動と重力の境目がわからない」

「いや、お前の前提だと運動も重力も同じことになる」

「すると、運動波の検出が必要になるな」

「そうだが、運動は加速度運動でなければならない」

「そうか。だからD点に向かう波は正の値しかとらないのか」

「どういうことだ」

「仮説に過ぎないが、斥力運動も2乗されるのだと思う。実数を2乗すると必ず正の値となる。斥力運動は、極座標系で考えれば原点から正の方向への直進運動になると思われる」

「そう考えると、重力は原点に向かう負の方向への直進運動になるのか」

「そうだと思う。複素次元の虚数が2乗されると負の値となる」

「しかし、これまでの論理には綻びが多過ぎないか?」

「よいのだ。全ては優のためと思考実験のためだ」

「わたしに異論はない。わからないことが多過ぎるから突破口を見つけねばならない」

「わたしは数学者だから、観測や実験はお前に任せる」

「わたしも似たようなものだ。ところで何故思考実験が必要だと思うか」

「 わたしが数学者だからだ」

「そうではない。実際の実験の数を減らすためだ。実験の数は可能性の組み合わせ数によって決定される。全ての組み合わせ数を実験していたら時間がいくらあっても足りない。だから思考実験によって可能性を減らしていくのだ」

 思考実験の多くは、意識しなくとも消去法に依っている。多くの可能性を持つ思考は煩雑となり結論を導き出すことができない。桃九の思考と実際のすり合わせはトライアンドエラーに依っている。そのためトライの数をできるだけ減らす思考方法となっている。トライの数が現実的となったとき、桃九は動き出す。今までガウスの主張を受け入れていたのは、トライの数を現実的なものにするためだった。

「やってみようか」

「試してみよう」

 トライの数が少なければ、やり直しはいくらでもできる。こうして今回の実験は重力は極座標系における負の方向への直進運動であるという仮説を立証する実験が開始されることになった。しかし、この実験は最初からつまずくことになる。

「何故だ。斥力波を180度位相させただけでは上手くいかないのか」

 そもそも斥力波の実態がわかっていないのだから当然の結果ともいえるのだが、この斥力波の解明が唯一の突破口であることも事実であった。


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