第3-11話 永久機関
第3-11話 永久機関
「説明がつかなかったのは、波が発散した後の行方だった。だから、波は物質が相を変えたものだと考えたのだ」
「一部は正しいかもしれない。わたしがわからないのは、エネルギーの源だ。質量が欠損してエネルギーに変換されることはわかる。ところが、通常質量の欠損が起こらない状態でエネルギーは発生する。大元が空間線の持つエネルギーだということはわかるが、その遷移経路がわからない」
「今の技術で空間線を検出することは不可能だから、その遷移経路がわかるのは遠い未来のことだろう。しかし、仮説をたてることはできる。そこでわたしは考えた。波は複素次元の産物だから物質界にとどまる必要はない。発散して上流界に戻ればよいのだ。しかし、エネルギー保存の法則が問題だった。それが解決するのなら別の仮説をたてることができる」
「どんな仮説だ」
「波はエネルギーの特殊形態である。複数の波の干渉によって増幅したり減衰したりする。波は増幅するとき、空間線ないしはそのサブユニットからエネルギーの供給を受ける。そして、発散した波は空間線にエネルギーを返す」
「それが何を意味しているのかわかっているのか」
「なにか問題があるのか」
「問題ではなく、画期的な技術に繋がる。波の発散を防いで貯蔵することができれば永久機関が製作できる。このアイディアをトランティスに伝えよう。技術開発は、地球よりトランティスの方が圧倒的に進んでいる」
「あ、そういうことか。あの紋章も永久機関なのだ。初期エネルギーはあの紋章の機能を発動させるために使われているのだ」
「ということは、あの紋章の螺旋波は空間線からエネルギーを供給されているのか」
「そのようだが、考えやすくなったかもしれないが、観測が難しくなる」
「少し話は逸れてしまうが、21世紀のころプログラムソースを解析するとき、ループだけが解析できなかった。ループは単純ループや再帰ループ、有限ループや永久ループなどがあったが、いずれも解析手法を見つけることができなかった。それは今でも同じだ。今回の永久機関とこのループの問題は関係あるのだろうか」
「当たり前のことだが、あるというしかない。ループ即ち繰り返しは、小さな誤差を増幅する。永久機関が不可能であるとされたのは、この増幅によりエネルギーが発散されるためだったと思うが……」
「エネルギー保存の法則によりその発散がエネルギーを削減していくと考えられた」
「エネルギー保存の法則が破れることによって削減の問題は解決するが、小さな誤差の増幅は解決できない。即ち、当初の永久機関は100年後に思わぬ永久機関に変貌している可能性が高くなる」
「ループの誤差即ち誤動作を消す方法はないだろうか」
「お前は専門家ではないのか」
「わたしは、システムの構築を職として手がけていただけだ。わたしの専門分野は違う」
「ところで、永久機関の追及は優の救出に役に立つと思うか」
「わからない」




