第3-10話 エネルギー保存の法則の破れ
第3-10話 エネルギー保存の法則の破れ
「ところで、紋章の完全体とはどのようなものだ」
「おそらく、D点にもアークの集合体を形成しなければならない」
「方法はあるが、それは気の遠くなるような実験数が必要になる」
「その方法とは?」
「D点の付近に補助点を加えて、D点の拮抗を崩す」
「それには絶対反対だ。部分的な対処が全体に与える影響がわからない。それを付け焼刃という。そもそも美しさに欠ける」
「ではどうするのだ?」
「もう1つ次元を加えられないだろうか?」
「それは無理だ。次元は自然が作った数体系だ。今の技術ではそれはできない」
「時間を必要とするが、螺旋波の分析をしてみようじゃないか」
「それも今の技術では無理だ」
「今日の技術では無理でも、明日の技術なら可能かもしれない。大体がわからないことが多過ぎるのだ。そういうときは、わかる部分を増やすしかない。無理という壁を崩していくのだ」
「む~。分析ができたとして次はどうする?」
「壁がどう崩れるかわからないのに次は考えられない」
「それでは行き当たりばったりではないか」
「いや、それは違う。わかることの次を考えないことを愚かというが、わからないことの次を考えることを無駄という。無駄は言い過ぎだが、無駄に時間を食い過ぎるということだ。わからないことの次は可能性が多く潜んでいるのだ」
こうして、螺旋波の成分分析を試みることになった。しかし、直接的な分析はほとんどできなかった。
「もしかすると、螺旋波は複素次元の成分が多いのかもしれない。角度の分析に切り替えるか。しかし、基準線がないとスケールがもとめられない」
観測によって得られるデータは、干渉フィルター上の点だけである。この点から距離を得ようとすると、まるで意味のない値となったのが、角度を求めた結果、意味のあるデータとなっていった。幸いにも進行方向は頂点に向かって直進であるから、頂点間との比というかたちで基準線を決定することもできた。
「しかし、螺旋波の持つエネルギーはどこからくるのだ。あまりにも増幅が大き過ぎる」
「確かに。これでは、エネルギー保存の法則が成立しないかもしれない」
「エネルギー保存の法則が局所的に破れることは知っているから、それは考慮しなくともよい」
「なに、どういうことだ」
「物質が物質を構成するサブユニットに分解されて物質界に存在できなくなったとき、エネルギー保存の法則は破れる」
「そうだったのか。すると波相と媒体相の説明がしやすくなるかもしれない」




