第3-6話 螺旋波
第3-6話 螺旋波
「そろそろ本題の紋章について話そうか」
「うむ。元凶の張本人の意見を聴きたいものだ」
「その張本人が、紋章の仕組みの整理をしてみたい。あの大正三角形の各辺は線分だ。すると、波は反射することになる」
「反射?」
「そうだ、反射だ。線分の終点で波は反射して始点に戻っていくのだ」
「考えたこともなかった。すると、わたしたちの考え方は間違っていたのか?」
「そうだと思う。しかし、その間違いが必ずしも結果に反映されるとは限らないが……。まず、黙って説明を聴け。波が線分を伝わるとき、波数が線分量で割り切れると何の変化も起こらない。別な言い方をすると終点で角周波数が2πとなったときには何の変化も起こらない。余りがでるとその分が位相として始点に戻っていく。このとき線分1本だけなら回転角は変わらないから残波と干渉を起こして合成波ができるが、始点と終点には別方向からも波が伝わっているため、回転角は変化する。すると、合成波はできない。ところが、別方向からの波は正確に60度単位で伝わるからやがて同じ回転角にも反射波は伝わり合成波ができる。この時点で線分を軸として周囲に複数の合成波ができている。ここからがやっかいで現象の原因はわかっているが、未だ計算ができていない」
「なんだ。その現象とは?」
「螺旋波だ]
「螺旋波?何故だ?」
「線分の始点と終点で別方向からくる波が異なるからだ」
「あ!」
「しかし、これが問題なのではない。問題なのはD点だ。D点は6方向からの波が伝わってくるが、6方向は3本の直線となるから起きるはずの現象を相殺して消してしまう」
「相殺はありえないと思っていたが、やはりそうだったのか」
「D点を中心に見ると、大正三角形の形状が、あまりにも対象なのだ」
「わたしたちは、大正三角形の角度を微妙にずらしてはどうかと考えていた」
「それでは、何の現象もおきない。試してみたのか?」
「ああ、何も起こらなかった。角度の微調整の問題だと思っていたが……」
「今はできないが、わたしは肉体を持っていたころ、イメージした図形を念写することができた。あの紋章の図形はわたしの念写で描かれている。だから、精密さには自信がある。ところで、アンドロメダに送った転送機の微調整はどの程度の精度で行ったのだ?
「フェムトオーダー(10の-15乗m)だ」
「陽子のサイズレベルか。物質界ではそれが限度だろうな」
「ところで、螺旋波の正体は何なのだ?」
「わからないが、波の振幅の増幅率は高いし、他の波の影響を受けにくい。しかし、螺旋波は竜巻などの自然現象でときどき見ることができる。それを人類は関数式で現せない。もちろん、わたしも現せない。だから、そこも問題だ」




