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脈流(RW1)  作者: 智路
第2部 幼鳳のさえずり
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第3-5話 補完する二人

第3-5話 補完する二人

「お前と論議していると何処かで食い違いが出る」

「ああ、わたしもだ」

「おそらくだが、根本の何かが違うと思う」

「根本をすり合わせてみるか」

 ガウスが切り出した。

「波の次元数はいくつだ?」

「2だ」

「やはりそこか。波の次元数は4だ」

「なに、やはりそうなのか?4とは知らなかったが、2ではないと薄々気がついていた。しかし、その次元数の思い違いは複素数の問題が絡んでくるからよくわからなかったのだ」

「それは複素次元以前の問題だ。まず波の進行方向を考慮して、その断面を想像する。2次元の波を1次元と考えると、波はその断面のどこかに点として存在する。つまり、進行方向に対する回転角が3次元目だ。縦波とか横波とか知っているだろう。それは回転角が0度や90度の特殊なケースだ。回転角は0~360度までのいずれかをとるのだ。4次元目は進行方向だ。波は必ずしも直進するとは限らない。蛇行しながら進行し、回転角を変えて、周波数も変える可能性を持っている。一般的には波はパターンの産物だから周期性と規則性を持つがな」

「そこか。少しすっきりした気分だ」

「まだ反射とか定常波とか干渉とかあるが、わたしも波の専門家ではないからあの紋章に関係する部分だけに絞って考えることにしたい。それにだ、波そのものを厳密に見たものはいない。全ては波を何かに干渉させてそのデータを繋ぎ合わせて観測としている。つまり、波の詳細はまだ明らかではないのだ」

「なるほど、波は理論の産物と言えるのだな」

「そうだ。それが、実現象とよく適合するから波の理論は正しいと思っているだけだ。もっともそれを言えば、全ての理論を根拠まで遡ると経験則に辿りつくから波の理論だけが根拠がないというのは可哀相過ぎるがな」

「確かに。だがなお前がそれを言うな」

「なに」

「お前はいつも根拠がない。未知数だ。可能性があり過ぎる。といい過ぎる。それでは技術の進歩がないではないか。試してみるということを覚えろ。経験則だろうが、思い付きだろうが、極端な話は実用化できれば、そこから始まりができるのだ。わたしたち数学屋や理論屋が、完全なものを追い求める性質を持っていることはよくわかる。わかるが、それは自己満足に過ぎない。それでもいいが、わたしたちは多くの人を背負っている。そこいらへんを加味して欲しい」

「なるほど、わたしは反対ではないが、わたしにはそのような能力はないようだ。どの部分を試し、どの部分を実用化したいのかはお前が判断しろ」

 こうやって、お互いの欠点を指摘し、補完していく二人であった。


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