第2-15話 精神鞭
第2-15話 精神鞭
ケシラは何が起きたのか把握できずに呆然としていた。セイトは(せめてゴクウと連絡がとりたい。チロに先に行くが許してくれと謝りたい)と思っていた。セイトは捕まったとしても、ムレンかマズラと刺し違える覚悟を決めていた。(待ち合わせの時間にわたしが、来なかったらゴクウならどうするだろうか?様子を見に来るか?そして、助けようとするか?無駄だと知ったらチロに連絡をとるか?それならばよしとしよう。それとも違うシナリオは存在するのか?最悪のシナリオをゴクウは選択するのか?ありえない。ありえないはずだ。わたしはゴクウを信頼している)
そのときであった。
「こっちよ」
「誰だ?」
「急いで」
セイトはこれ以上最悪の状況に追い込まれるはずはないと思って、そっちに行った。
「一瞬よ。タイミングがずれるとOUTよ」
その女性は精神鞭を片手に持っていた。
「いい。いくわよ。はいっ」
その女性は精神鞭を3回ほど振るった。
「ありがとう。ところで、あなたは?」
セイトは、精神の檻というより獄から抜け出していた。
「安全な場所に移動してからにしましょ」
「その前に行きたい場所があるのだが……」
「いいわ。わたしも手伝ってあげる」
この女性は何を何処まで知っているのだろうか?
「ゴクウちゃんはそっちね。じゃあ、わたしはこっち。着いたらセイトさんお願いね」
「わかった」
しかし、これではまるでこの女性が差配しているようなものである。大マゼランに転送機2基を運んだ一行は、アーべに戻って安全な場所を確保した。
「私はカレン。ムレンの従姉妹よ。わたしの姉はマーラ。セイトさん、この精神鞭を預けるわ。この精神鞭はアーべのどんな精神獄、鞭、縄より千倍は強力なはずよ。使い方に慣れれば、何倍にも伸びるし、使い手の意識の持ち方次第で、念を送れるわ」
「念?」
「そうね。意識のプログラムみたいなものかしら」
「わたしが、これを預かったらカレンの精神鞭は?」
「それはマーラのものよ。わたしは自分のものを持っているわ。時間がないから詳しいことは後でね」
と。言い残してカレンは去っていった。このときのセイトたちに気付く術はないが、カレンはいくつか嘘に近いことを言っている。姉のマーラは数十年前にすでにいない。ムレンらに強制的に精神分割させられ、現在はアーべの民の多くの欠片になっているものと思われる。カレンは、そのことを恨みに思い、復讐を誓って精神鞭を鍛えることに精力を注いできたのであった。依って、精神鞭はこの世に1本しかないことになる。




