第2-10話 可能性の作為
第2-10話 可能性の作為
「こういうことを考えていませんか?ルガさんを救出して、2重目を何らかの方法で消滅させて帰還する。これでは、疑いがわれわれにかかることは必然です」
「あ、確かに」
「それに、精神の檻を開けるのは誰ですか」
「セイトさんがやってくれると言ってました」
「どうやって?」
「檻の錠を開けると言ってました」
「それも、疑いが集中します。アンドロメダで檻の錠を開けることのできるものは限られているはずです」
「では、どうすれば?」
「できるかどうかわかりませんが、檻そのものを壊します。そうすれば、犯人の可能性が増えます。錠を開けることのできるものが、わざわざ檻を壊すでしょうか?仮に、その意図に感づかれても、未知の犯人の可能性を消すことはできないはずです。つまり、相手に犯人を特定できないように多くの可能性を与えることが大切なのです。ところで、あの3重の三角錐の宇宙艦を造ることに時間が必要ですか?」
「1つ完成していますから、1セットに1週間あれば十分です」
「2重だとどのくらいですか?帰還艦は必要ありません」
「それだと2日あれば……」
「もう1つお尋ねしますが、帰還艦に行き先の座標を特定できますか?」
「難しいかもしれません。行き先は搭乗員の意思が決定していますから……」
(これは、無理か。大マゼランに数艦送りこんでやろうと思ったが、搭乗員が犠牲になってしまう)
「とりあえず、ダミーの三角錐を5つくらい造ってもらえませんか?」
「それをどうするのですか?」
「こんなのを造ったので贈呈しますと言って、全部アンドロメダに送り込みます。その中の1艦がいなくなっても目立ちません」
「素晴らしい発想です。詳細を検討してみます」
「全て、組み合わせによる可能性の増分の数学的発想ですよ。1つ要因が増えると、飛躍的に組み合わせ数が増えていきます。さっきも言いましたが、仮に意図を推察されても、人の疑心は残り、可能性を消すことができなくなるのです」
「数学的兵法ですね」
「いえ、単純な仕組みですよ。単純でも可能性の数が増えれば人は困惑します。注意点は、仕組みのパターンを予測されないことです。困惑させようとする意図が働けば作為的になります。作為が予測されると意図がばれます。そこから糸は解けていくのです」
「無作為に作戦をたてろということですか?」
「それは無理です。人は無作為なものを作ることはできません。何かに偏らず、均等に可能性をばらまくのです」




