第2-6話 1回目の実験
第2-6話 1回目の実験
トランティスでは、実験が行われようとしていた。あの紋章の2次元目の正体は虚数であることが予測されているが、これは暫定的なものである。虚数と予測した理由は、波を重力波とみなしているからである。紋章から計測された全ての波形は正弦波(sin)であるが、重力波そのものを観測したことがないので、重力波の波形が正弦波であるのかわからない。
しかし、実験の結果は波を重力波とみなすと、よく説明が通った。説明が通ったからといって重力波だと断定はできないが、これは暫定の理論であるからとして先に進むことにした。位相がπになると、2元数の虚部がゼロになる。このとき、1つの次元が隠れ実数値となり、切り取られたアークが物質世界で動きを見せる。それは測定できないほどの速さで大正三角形の頂点に向かって転がっていく感じであった。このとき、辺の頂点に貯まっていた虚部のエネルギーも一緒に移動すると考えられた。そうでなければ、辺の頂点は何らかの特徴を持っているはずだからである。
艦体の形状は、正四面体である三角錐となった。いわゆるピラミッド型である。紋章は平面であるから、3次元体への拡張が必要だったが、頂点とそれを結ぶ線分に気をつければ、拡張はうまくいっているようにみえた。
問題は初期エネルギーであった。ルガが紋章の線分を波化した方法がわかっていないため、各線分に振動を起こすエネルギーを均等に与えなければならなかった。ところが、平面のときには問題とならなかったが、3次元体のとき惑星の重力が介入し、予測値と実測値に微妙なずれが見られた。これは、交点が完全な重力の基準点として機能していないことを意味するように思われた。
「なにが問題なのだ」と、トランティスの技術者からぼやきが漏れた。
試行錯誤の経過で一人の技術者から、
「頂点、線分、面を構成する素材の均一性に問題があるのでは?」
と意見が出た。
「ピコオーダー(10の-12乗m)で調整しているのだぞ」
「それでも粗いのだと思います。できればサブユニットオーダーが必要かと……」
「それは無理だ。われらはサブユニット界(物質界の上流界)と物質界の座標変換ができない」
「では、せめてフェムトオーダー(10の-15乗m)で調整してみては……」
ピコオーダーで調整した素材の粗さが目立って現れた。フェムトオーダーで調整し、再実験をしたところ、基準点は上手く機能しているように見えた。いよいよ、遷移の実験となった。
「志願者はおるか?。予測されることは、実験が成功してもこの宇宙艦の中から出られない可能性が極めて高い」
「全てが解決すれば、出られるのですよね?」
「そうだ(と思う)」
志願者は十数人にのぼった。
「実験だから3人もいれば十分だ」




