第2-5話 紋章の次元
第2-5話 紋章の次元
「もしかしたら、新型推進エンジンができるかもしれない。いや、推進エンジンというより遷移エンジンといった方がいいかもしれない」
「トランティスには優秀なエンジニアが揃っているのね」
「いや、あの紋章がヒントになったのだ」
「紋章?」
「そうだ。アークの振幅を増幅することに成功した」
「なるほど、そのアークで巨大な艦体を動かそうというのね」
「そうなのだが、どのくらいの振幅が必要なのかわかっていない」
「出発の予定はいつ?間に合うかしら?」
「いつ行くとは言っていない。だから無期限だ」
「それでも急いでね」
トランティスでは、あの紋章が空間線を切り取り、不連続の空間を作ることに目をつけた。しかし、あまりにも微細な(どのくらい微細なのかもわかっていない)世界が相手のため原理を特定することができなかった。試した実験はあの紋章の性質を増幅し、艦体に適用させることだけであった。
あの紋章が不完全な代物であることはわかっているが、転送能力を持つこともわかっている。大正三角形の頂点A,B,Cが存在し、AB,BC,CAの各辺を3等分して各辺にa1,a2,b1,b2,c1,c2の頂点を作る。A1-b2,a2-c2,b1-c1を結んだ線分は同一の交点を持ち、これをD点とする。そして、a1,a2,b1,b2,c1,c2の頂点は、各線分の交点となり、D点も交点である。頂点A,B,Cも2線分の交点であるが、ここにアークの集合体が集っているため交点として認識されていないのかもしれなく、これはルガ本人に聞かなければわからなかった。これらの線分全てに同じ波形、同じ振幅の波が流れている。
波をグラフで表すと2次元(平面)となる。交点では、この2次元の波が交点で60度の角度でぶつかりあっている。この結果それぞれの波は傾き、波の成分に影響を与える。そして、位相が出来上がる。この位相がπになったとき、波が切り取られて1つのアークとして頂点A,B,Cに集る。しかし、この紋章の本質はアークではなかった。
チロは封印の洞の壁面から交点が隠れた2次元目であることを知った。交点では、位相がπ以外のとき、2次元目のエネルギーを波から吸い取り蓄積していたのである。このエネルギーは交点を重力の基準点とするために用いられていた。これは各辺の頂点の位置エネルギーが高くなることを意味していた。そのため位置エネルギーの低い頂点A,B,Cにアークは集合体として集るのであった。交点Dは集る線分が拮抗しているためか、ルガのミス思考によってアークは集っていない。
頂点Aと頂点a1の距離を基準とすると、全ての線分が等しい距離であるため、飽和エネルギーとなる位置エネルギーを定めれば、この大正三角形の全てに力の等価原理が適用できる。つまり、大正三角形に働いている力をエネルギーに変換できる。その力は切り取られたアークがもたらし、アークは不連続体であるから、物質も空間もお構いなしに移動できることになる。




