第1-21話 紋章と優
第1-21話 紋章と優
「優、もう少し待ってくれ」
「はい。逆にわたくしのことで御迷惑をおかけしているのではないかと思い、心が痛みます」
「こういってはなんだが、優のためだけではないのだ。もちろん、優の無事な生還が最優先ではあるが、われらの技術もそれに伴って向上するはずなのだ」
「そう仰って頂くと少し心が和らぎます」
この会話の前にチロは、勝智朗がリータから聞き出した封印の洞の原本を壁面から読み出していた。多くの隠し文字が存在し文章は読み易かったが、論理には多くの齟齬や欠陥が見つかった。
(推測になるけどルガは、一人で研究し、一人で紋章を作ったのだわ。論理の検証ができる人はいなかったのね。孤独な研究だったでしょうに……)
「桃九、少しわかったわよ」
「優が生還できるのですね」
「今は無理ね。あまりにも論理に齟齬や欠陥が多いから作った本人じゃないと修正できないわ。わたしたちが紋章の修復をすると、思わぬ落とし穴があるかもしれないわ」
「ということは、ルガさんの救出が必須ということですか」
「それか、アンドロメダに頼んで少しの間、ルガに手伝ってもらうかだけど、わたしはアンドロメダのことをよく知らないからセイトが完全復活したら聞いてみましょう」
「そうですか。仕方ありませんね。ところで、少しわかったことってなんなのですか?」
「重力に基準を作っているのよ。つまり位置エネルギーの基準ね。そうすると電荷が+-を基準としているように、重力にも力の等価仮説が適用できるわ。でも、そこが問題だったのね。ルガは物理学のどがつく素人みたいなの。数学的には見事な論理展開を見せるのに、物理になるとまるで出鱈目な論理だわ。それが、あの紋章が不完全な理由よ」
「では、物理の部分をわれわれで治せば……」
「ところが、それだけじゃないのよ。桃九の余りの論理も考慮されていないのよ」
「チロさん、からかわないでくださいよ。わたしの論理の主張は全てチロさんが、そう導いてくれているのでしょ。でも、余りの論理が考慮されていないと、エネルギーが相互作用を起こしませんし、連続体ともなりません。あ、だから脈(波)がアークに切り取られているのか……」
「脈がアークに切り取られたことで、空間線の脈がこの世界の最小単位じゃないことを初めて知ったわ。おそらく、ルガ本人もそうだと気付いていないでしょうけど……」
「チロさんの考えていることがわかりましたよ」
「当てて御覧なさい」
「ルガさんに完全体の紋章を作ってもらって、この不完全な紋章との違いを見つけて治そうとしてるのでしょ」
「わかった?」
「ところで、隠れた2元目はなんだったのですか?」
「2元なのかしら?3元なのかしら?交点が隠れた2元目よ、中心のD点は3元目かもしれないけど」
「その交点を重力の基準に使っているのですね」




