第1-13話 分枝の娘
第1-13話 分枝の娘
「きゃ~!???」
その娘の叫びが空洞の中に響き渡った。娘が受感部の分枝を持っていることに勝智朗も驚いたが、娘の驚きはそれ以上であった。
「どうした?」
「どうした?」
と、娘の仲間が近寄ってきた。
「わたしがわたしに話しかけられたのよ」
「な、何をわけのわからないことを言っている。今はこのセガルを水没から守ることで忙しいのだぞ」
「それよりリータ、もっと効果のある呪符はないのか?」
「だって、わたしの中にもう一人のわたしがいるのよ」
困ったのは、勝智朗で今更失礼しましたと言って抜け出すわけにはいかなかった。
「お前が呪符を運ばなければ、ここは水没するのだぞ」
「だって、いるのよ」
「仕方がないな。誰か長老を呼んできてくれ」
280歳になる長老が、脇を支えられながらやってきた。
「どうしたというのじゃ。わしもそろそろ行かねばならぬ歳だぞ。そっとしておいてはくれないのか?」
「ここが水没すれば、われらも行かねばなりません。少し、リータの話を聞いてみてくださいませんか。紋章を選別できるのはリータしかいないのです。そのリータがわけのわからぬことを言って、われらを困らせているのです」
「困らせてなんかいないわ。いるからいると言っているのよ」
「誰がいるのじゃ?」
「わからないのよ」
「何処にいるのじゃ?」
「わたしの頭の中よ」
「何?もしかしてそれは昨年行ったお婆ではないのか?」
「違うわ。違うと思うわ」
「言い伝えによると、われらの3先祖神の一人だったルガ様が行ったとき、残った二人の先祖神にその精神が宿ったそうじゃ。お婆もその血を受け継ぐリータも、3先祖神が残した伝承文書を読むことができる。もしかして、われらの危機をみかねた3先祖神の一人が宿ったわけじゃあるまいの」
「文書を読むことなんかできないわ。ただ、図柄と効力がイメージできるだけよ。でも、わたしの中の人は、3先祖神の一人かしら?」
「その人に失礼のないように聞いてみるのじゃ。本当に3先祖神の一人なら文書が読めるはずじゃ。そうすうれば、この危機などあっという間にかたがつくじゃろう」
「もしもし、あなた様は、3先祖神のお一人でしょうか?」
困ったのは勝智朗である。どのような文書であるのかわからないが、ここに読める者がいない文書を勝智朗が読める可能性は極めて低い。
「わしは、3先祖神の使いのものである。様子を3先祖神に伝える役目を授かってきている。近いうちに3先祖神の一人がお前たちを助けにくることになるだろう。しかし、苦難は自分たちで解決する努力をしなければならぬ。お前たちは作業を続けるがよいだろう」
こうして嘘をついた勝智朗は、娘から離れた。戻ってチロを連れてくるしか解決の方法はないだろうと思ったのである。




