第1-12話 地底都市
第1-12話 地底都市
その脈流の発生源は中央アジアのタクラマカン砂漠の地下5kmからであった。21世紀まで人類によってタクラマカン砂漠はいくつかの地点で油田開発が行われたが、地下5kmまで掘削したものは存在しない。タクラマカン砂漠は地下500mくらいに広大な地底湖を持つ。氷河期から残っている水と、内陸河川からの水で地底湖の水は豊潤である。
現地に到着したアバは、この地底湖までは難なく行けたが、岩石の塊が目的とする地点を妨げていた。
「どうしろというのだ。目的地まで直線距離でも5km近くあるぞ。ドリラーを持ってきても、掘削に最低2ヶ月は必要だ。岩塊の固さによってはそれ以上必要だ。そんな猶予があるか桃九さんに聞いてみてくれ」
勝智朗が返事を持って帰ってきた。
「そんな猶予はないそうです。まず、わたしに目的地に行けと言っていました」
勝智朗は精神体であるから岩塊は障害とならないため、
「では、行ってまいります」
と言って容易く目的地に辿り着いた。
「な、なんだ、ここは!」
そこは半径1kmくらいの面積で高さ400mくらいの地下の空洞で千人を超す人間が忙しそうに動き回っていた。空洞の壁面に通路のようなものが見えるため、同じような空洞が存在するものと思われ、勝智朗はその通路を抜けてみた。確かに空洞は存在し、人間もいるのだが、最初に見た空洞より遥かに狭く、高さも低かった。このような空洞が二十数か所存在し、規模からいくと最初の空洞が中心部であることが予測された。
勝智朗は、空洞を辿る度に地上への出口を探したが、それらしきものは見つからなかった。ここはどうだろうと思われる場所が数箇所あって探ってみたのだが、そこは厳重に塞がれていた。塞がれた先に行ってみると通路が存在した。しかし、長い期間使われた形跡はなく通路には安全の保証はなかった。
最初の空洞に戻り、詳しく様子を窺っていると大量の水が溢れているようである。多くの人がこの水が溢れている箇所を修復しているようである。しかし、重機の類は見当たらなかった。よくよく見ると皆が右手か左手あるいは両手に紙を持っていた。その紙を覗いてみると驚いたことにあの紋章によく似た図柄が描かれていた。彼らはこの紋章を使って修復作業をしているようなのである。
水漏れに気がついた勝智朗が、空洞の床を見てみると20cmくらいの水が溜まっていた。おそらく、修復が間に合わなければこの空洞は水没すると予測される。しかし、勝智朗には何の手助けもできなかった。勝智朗が作業の様子を窺っていたとき、ふと目に付いた一人の娘がいた。その娘は、煌びやかではないが光沢のある文箱のようなものの中から紋章を選び出すと皆にせっせとその紋章を配っているのであった。
よくみると、水漏れを塞ぐ作業はおそろしく原始的で、勝智朗は水没は時間の問題なのではないかと感じた。勝智朗は、少しずつ危機感を共有するようになっていった。そして、思わず娘に話しかけてしまった。とその瞬間、娘の中に2つの精神が存在することになった。