第1-11話 エマージェンシー
第1-11話 エマージェンシー
「桃九さんに1つ質問があるのですがいいでしょうか?」
「うん、いいよ」
「余りと最小二乗法の残差の違いはなんですか?」
「一言で言えば、余りはこの世界の産物で、最小二乗法の残差は人為的な産物ということだよ。最小二乗法は人が数学的に作ったもので、その残差がこの世界の余りと合致している保証はどこにもないのだよ。その残差から生まれる結果は複雑性に似ているけど、わたしは煩雑性と呼んで区別しているのだよ」
「ああ、そういうことですか。この世界の事象と数学的事象は必ずしも合致しないということですね」
桃九の仮説を実験で試すということは、優を危険にさらすということを意味する。そのため、別な方法を考え出す必要があった。
「桃九さん、実験で使った紋章のコピーで試すことはできませんか?」
「あのコピーは、3次元波の実験のためだけに作ったものだよ。次元など隠していないから紋章を全体としたとき、あのコピーがどのくらいの部分になるのかわからないのだ」
「そういうことですか。わたしには全くいい発想が浮かびません。東雲さんのところで修行してこようかな……」
「ナカマには、優を助けるまではここで、わたしの助手をしてもらわなきゃならない。君がいないと実験までわたしが仕切らなければならなくなる」
「わたしでもお役に立っているのですね」
「当たり前だよ」
このとき、チロが、
「セイトとセイタンが暴れているみたいだからわたしは少し席を外すわね」
セイトとセイタンの精神の占有率がついに5分と5分になったようである。そのため、論争が太陽の中心部で激化しているのである。その論争は精神の檻を破らんばかりの激しさで太陽もその影響で各惑星のコロニーに大きな影響を与えているようである。地球でも影響は大きいが、被害の規模は最小限に抑えられているようである。
「エマージェンシー、エマージェンシー」
耳障りな機械音が鳴り響いた。
「どうしたのだ?精神の檻でも破られたか?」
「いいえ、中央アジアの地底から人工のものと思われる強力な脈流が発生しています」
「なんだと、誰の仕業だ?」
「全く不明です」
「調査隊は編成したか?」
「いいえ、桃九さんとチロさんの判断を仰いでからと思いまして……」
「今、チロさんは太陽にいるからわたしが決めよう。連絡役として勝智朗兄、技術からは利助さん、隊長はアバ、その他の隊員は超人類を何人かにしよう。人選はアバに任せる」
「アバさんは軍司令ですが……」
「それがどうした、アバは何処かに出撃する予定があるのか?」