第1-10話 形状の余り
第1-10話 形状の余り
「なんですって!空間線が切れている?信じられないわ」
このとき、チロは驚きとともに希望の明かりをみていた。
(空間線がこの世界の最小構成要素だと思っていたのは、わたしの固定観念だったみたいね。もしかしたら、これが突破口になって神の世界に戻れるかもしれないわ)
しかし、後の実験で空間線が切れているのではないことにチロは気がつくことになる。
紋章のアークの集合体の全ての要素が同じアークであるように見える。これが、現在の技術精度の問題なのか本当に同じ要素なのかを知る術はない。しかし、それ以外の紋章の形状と切り取られた波の実験結果は見事に一致していた。
「どこが故障しているのでしょうか?」
ナカマは桃九に尋ねた。
「周囲の点と辺には問題がないようだね。残るのは中心のD点だけだね」
「確かに。わたしもおかしいとは思っていましたが、それは半信半疑でした。大正三角形の3頂点にアークの集合体が集中しているのに、中心(D点)には全くアークが存在しませんからアークが相殺されているのかと思っていました。あ、それはないか。アークの相殺など実験から見つかっていません」
「わたしの仮説になるけど、この紋章に施されているわたしたちに見えない次元のパラメータが偏り過ぎているのだと思うよ。だから、中心にアークの集合体が存在しないのだ。ここを治せば、正常な転送機に戻るかもしれない」
「なるほど、でもどうやって隠れた次元を探すのですか?」
「試してみないと答えは出ないが、角度の問題だと思うよ」
「そうか!波の虚数表記でも虚数軸を角度で表しますね」
「うむ。しかし、それだけではないのだ。角度が正確に60度になり過ぎている。形状性質論では、『割り切れる形状には複雑性が表れない』としている。つまり、割り算のときに余りが必要なのだ。この余りが複雑性を形成していく。この紋章は完全な正三角形で構成され過ぎている。だから、大正三角形の3頂点にだけ偏ってアークの集合体が集中しているのだ」
こうして、仮説だけは出来上がった。しかし、紋章の中に優がいるためトライアンドエラーの実験はできない。実験でやるべきことは、各正三角形の角度を微妙にずらすことだけである。しかしどっちの方向にどのくらいの角度をずらせば正常な転送機となるのかわからない。
そのため、桃九の仮説は暫く棚上げとなる。