第1-8話 次元と2元数
第1-8話 次元と2元数
人が人に何かを伝えるとき、伝える者を発信者、伝えられる者を受信者と呼ぶことにする。このとき、発信者が意図を持って何かを伝えたとしても、受信者の受信した内容は受信者によって決定される。つまり、発信者側の意図や伝えたはずの内容に関わらず、受信者側の解釈によって全てが決定されるということである。これは、論理感性融合法の基本的な考え方の1つになっていて『授受非等価』と呼ばれている。
2元数の定義は、『与えられた数体系 K に対し、K に含まれないもう 1 つの元 ε を与えて、1 とその ε の線型結合 x + yε (x, y ∈ K) として得られる K 上 2 次元の数体系である。』となる。筆者はこの物語のために、これを次のように解釈し定義し直したい。
『性質の異なる数体系が2つ存在するとき、1つをx、1つをyとする。数体系が異なるから結合のため、結合値εをyに与えて2次元の線形式 x + εyとして表記する。そして、このxとyを2元とした線形式を2元数式と定義する』
ここでεが1のとき、2元数式はx + yと等しくなり、2次元数式は1次元数式として扱うことができる。つまり、εが1であれば、1つの次元は隠れたことになる。
上記の定義から例を挙げれば、実数の整数部と少数部は性質が異なるため、2次元数式で表記できる。整数部をx、少数部をyとしたとき、値は x + εy(ε=1)となる。整数部と少数部が異なる性質であることを説明したい。任意の実数値に整数部の値を乗じれば必ず数値は増加する。逆に少数部を乗じれば必ず数値は減少する。除算はそれと逆の振る舞いをみせる。これを性質が異なるとみなすと、そのような例は数多く存在する。それを、われわれは当たり前のように1次元数式として扱っている。このことから、物質世界には隠れた次元が多数存在することがわかる。
ところが、3次元の物質世界を見てみると、3つの座標軸全ての性質は同等である。そのため、次元の性質を明らかにするか、定義をする必要がある。この物語の次元の定義を『それぞれの次元は異なる性質を持つ」とする。但し、特殊なケース(2次元数式のε=1のときなど)のときに次元は隠れ1つの次元として扱うことができる。このことから、3次元の物質世界は同質の隠れた次元を持つ次元が3つもそろっているのだから極めて特殊であるといえる。
物質世界は空間線の極の配置パターン(桃九らはそのサブユニットを発見している)により構成されているから、実は特殊ではなく、必然的に作り出された世界である。この2部では触れる予定はないが、セルオートマトンやフラクタル図形の拡張を考察しているところである。
これらのことから紋章が2次元平面であることは全く問題とならないのであった。みかけの2次元平面が持つ隠された次元を発見することが、転送機の修復に繋がると桃九は考えている。
とはいえ、目に見えるのは平面図形とアークの集合体だけである。