第1-6話 失敗作の転送機
第1-6話 失敗作の転送機
ナカマは、いくつかのことを考えていた。
「優さんにお聞きしたいのですが、その紋章の出所は何処なのですか?」
「神社にも詳しい記録は残っていません。この紋章を手に入れたときはともかく、その後は無用の長物となったのではないでしょうか?この紋章の中にわたくしが一人だけだということを考えれば、わたくしの先祖にこの紋章が何かの影響を与えたことは考えにくいのです。そもそも、わたくしもこの中に取り込まれるまでは、紋章の正体を知りませんでした。唯一残っている手がかりは、この紋章が大陸の地底の何処かから譲り受けたという伝承だけです」
「そうですか。紋章の製造者がわかれば問題は全て解決するとおもったのですが……」
「この紋章を作ったのは、チロの神ではないのですね」
「わたしではありません。それにチロの神と呼ぶのは止めましょう。わたしは神ではないのですから」
「わかりました。確かに皆さんのお話を伺っていると神というよりは、わたくしたちのルーツといった方がいいかもしれません。しかし、わたくしたち巫女はどなたのお膝元に向かえばいいのでしょうか?この世界と同化していくことは無意味なのでしょうか?」
「優さんも咲さんもわたしと一緒に神の世界に参りましょう。それにこの世界と同化していくことは無意味どころか、とても有意義なことですよ」
「神の世界へいつか一緒にお連れください。そして、これからはチロ様とお呼びすることにします」
「では、別な質問をいいですか?」
「はい」
「視覚、聴覚、嗅覚、味覚は、多くの場合受動的ですから、優さんの能力として理解できるのですが、触覚、特に物体を移動させるときはどんな方法を用いるのですか?」
「これは、何日か前にサエさんに確かめてもらいましたが、わたくしがここから移動するとき、紋章はそのままここに残っているそうです。そして、わたくしだけが抜け出て移動するようなのです。しかし、サエさんにはわたくしが見えましたが、おそらく他の人には見えないだろうとサエさんが仰っていました。そして、わたくしは以前、抜け出たときに小さな怪我をしたようなのです。それを確かめるために、わざと掠り傷を作ってサエさんに見てもらったところ、確かに傷はついているそうなのです。わたくしは、生身でもあり、物質の障壁も意識すれば通り抜けることができます。わたくしは、どのような存在なのでしょうか?」
ここに知らぬ間に桃九がやってきていた。優は、複雑な思いを抱いたが、桃九を慕う気持ちの方が勝っているようであった。
「桃九様、このような姿で失礼かとも思いましたが、訪ねてきてしまいました」
「何を言っている!優はわれらの技術でいつか元に戻してやる。約束するよ」
「あ、ありがとうございます」
「わたしは、この紋章が転送機の失敗作なのではないかと推測するが、皆の意見はどうだろう?」