第1-5話 変化の産物
第1-5話 変化の産物
「何かきっかけになりましたか?と仰っていますよ」
「おそらく、それは脈の性質の1つなのでしょうけど、われらが知る性質の中には含まれていません」
トランティスから来た研究者たちも大きく頷いていた。
「わたしは、脈のことはほとんどわかりませんが、おそらくですけどそれだけではないような気がします。と仰っていますよ」
「どうして、そう思うのですか?」
「わたくしは巫女です。アラハバキの神、あらチロの神でしたわね。そのチロの神の信託を世に伝える役目を持っています。わたくしたち巫女は、神の信託を受ける素養を持って生まれてきます。巫女は信託を受ける度にこの世界と少しずつ同化していき、ついには神のお膝元に参るのです。つまり、巫女は脈と同化していることと同じことになりませんか?」
「なるほど。確か初等教育の神の世界の章で、神の世界に存在する源根子をこの世界に投入すると空間線(その振動が脈である)となり、神の世界で成長すると桃の精となると学びました。われわれ人類は、桃の精が100回以上の精神分割を行った結果の精神を所有しています。つまり、この世界の構成要素も精神も神の世界では源は同じものです。だとすれば、この世界でも同じものだということは、理屈が通っています。但し、脈と同化できる人は限られていて、その機序が全くわからないのも事実です」
「そうですか。お役に立てませんでしたか」
「いいえ、何か見えたようです。優さんは、何ができますか?というより200年もの間どのような経験をされてきましたか?」
「ここに行きたいと思って行った場所はありませんが、この宇宙で10くらいの文明を見てきました。その文明のほとんどが、差別的であったり排他的であったりしました。文明が目的とするのは際限のない力を得ることと、そのための繁栄、発展だけに見えました。つまり、弱者は切り捨てられ異物は取り除かれていました。しかし、皆同じ精神を持つもの同士の行為です。わたくしは感傷的に可哀相だと言っているのではなく、以前桃九様から学んだ”この世界は変化の産物である”という原理に照らし合わせると、切捨てなどにより均一化されていく文明は変化に乏しくなり、やがて衰退の運命を辿るのではないかと思うのです」
「全く同感です。地球でもトランティスでもそのような切捨て行為は許されていません。望む者にはチャンスが与えられ、得意な分野があるものはその道に進むことができます。但し、個々人には能力差があります。その差が差別や侮蔑に繋がることはありませんが、配属される部署に制限がかかることはあります。ここでは、試験制度というものは存在しません。配属先の長か自治区の長の推薦を受け、試用となります。試用期間が終われば、結果が出ます。結果に満足しなければ、また推薦→試用→結果を繰り返せばよいのです。それぞれの長が理由もなく推薦を認めなければ、厳罰に処されることになっています」
「ここでは、過酷な労働もありませんし、生活の保障もされています。本人が進みたい道を選ぶ選択権も持っています。桃九様のお人柄が国政に現れているようです。許されないことかもしれませんが、一度だけでもこの紋章から抜け出て桃九様にお会いしたいものです」