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脈流(RW1)  作者: 智路
第2部 幼鳳のさえずり
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第1-4話 密室トリックの理由

第1-4話 密室トリックの理由

 空間制御部の歴史は古いが、成果と呼べるものを全くといっていいほど挙げていなかった。それでも、この部が存在し得たのは、チロと桃九の「広大な宇宙に飛び出すためには、この部の成果が必須である」との強い主張からであった。現部長のナカマは3代目の部長となってから既に60年が経過しようとしていた。

 そもそも、チロと桃九は移動時間をゼロにすることは不可能であると思っている。それは、物質界に限らず、この世界の全てに通じる根本原則で、移動時間をゼロにするということは一人の人(とは限らないが)が同時に複数の座標に存在できるということを意味すると考えている。寄って、この部の目的は、移動時間を短縮することである。そして、移動するのは、波(電磁波など)ではなく、物質や生命体である。

 さて、咲の持つ優を飲み込んだ紋章の調査研究の担当部署に割り当てられたナカマであったが、どこから手をつけていいものかわからなかった。それは、2ヶ月余りして到着したトランティスの研究者たちにも同じことが言えた。

 3ヶ月くらい経過したころ、不可解な事件が頻発した。事件そのものはたわいもないもので、鍵をかけた部屋で寝ていたのに頬を触れられたとか、そこにあったはずのものが移動しているという類のものであった。初めは、気のせいか勘違いだろうということで片付けられていたが、事件が100件を越すとさすがに原因究明に乗り出さなければならなかった。しかも、被害者は空間制御部の部員に限られているのであった。犯人内部説が大勢を占めたが、この犯行は完全な密室の中で行われているため、むしろ犯人探しよりもトリックを暴くことに重点がおかれていた。

 しかし、事件の解明は暗礁に乗り上げた形となった。誰かのいたずらだとしても数件の説明はなんとかできるが、100件以上となると説明は不可能で犯人複数説が浮上しようとしていたところであった。

「あら、皆さんどうなすったの?何か剣呑とした空気を感じますわ」

 そう言って、ナカマと数人が集っている部長室に入ってきたのは、サエと咲であった。

「もしかして、誰かが寝ているところの頬を触れられたとか、そこにあったはずのものが移動しているなんてことはないですわよね?」

「サエさん、その話を誰から聞きました?」(口の軽いやつがいるものだ)

「聞いたのは、一人からですよ。でも、この部署の方ではありませんわ」

(口の軽いやつは他の部署にも言い触らしているのか……)

「いじわるして御免なさい。犯人に説明してもらいましょうか?」

「犯人?サエさんは犯人を知っているのですか?」

「えぇえぇ、知ってますとも」

 咲はちらちらと紋章に目をやっている。

「でも、その方はお話ができないから、わたしが説明しますわね」

 犯人は優なのだそうである。優は戻ってくる座標位置を覚えていれば、物質の障壁を越えて移動し、紋章に帰ってこれるのだそうである。行った先では、触れたいと思ったものには触れることができ、移動させたいと思ったものは移動させることができるようである。つまり、移動先で5感の全てと手足を自由に使えるということである。優は、この事実が調査研究のヒントにならないかと思っていたずらしたのだそうである。

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