第1-3話 脈の基本図形
第1-3話 脈の基本図形
この場にチロもやってきた。紋章が脈と関係があるとなれば、検証のためにチロが必要であったのである。
「わたしには、この紋章の中の人がぼんやりとしか見えないわ。サエさん、よく見えたわね」
「はい。はっきりと見えましたよ」
これは、サエの精神体が見える理由が脈とは無縁であることの傍証となる。
「気になるのは、この紋章の頂点に集っているアークの集合体ね」
「わたしも何かな?とは思ってました」と桃九も賛意を示した。
こうして、暫く優と咲は蚊帳の外となるのであった。
紋章の図形は、大きくは正三角形である。その頂点をA,B,Cとする。AB,BC,CAの各辺を3等分して各辺にa1,a2,b1,b2,c1,c2の頂点を作る。A1-b2,a2-c2,b1-c1を結んだ線分は同一の交点を持ち、これをD点とする。これで10頂点ができたことになる。A-a1,a1-a2,a2-B,B-b1,b1-b2,b2-C,C-c2,c2-c1,c1-A,c1-D,D-b1,c2-b2,a1-D,D-b2,a2-b1,a1-c1,a2-D,D-c2の18本の線分は等しい長さとなる。そして、これらの線分により大正三角形の内部に9個の正三角形ができる。10頂点の全てを通る一筆書きのルートはいくつか存在するが、そのルート全ての長さは等しくなる。
A,B,Cの3頂点だけにアークの集合体は集中していた。地球でもトランティスでも脈の基本概念の教育をこの図形で行う。但し、教育でも実現場でもアークの集合体は存在しない。線分を波(脈)として授業は行われ、頂点は必要に応じて+-の属性が加えられる。
さて、線分A-B=A-a1+a1-a2+a2-Bであり、線分A-Bも波である。つまり、頂点A-Bの間でA-a1,a1-a2,a2-BとA-Bの干渉波(合成波)が生成されることになる。ここで大切なのは頂点a1,a2が大正三角形の内側に存在するか外側に存在するかということである。波の進行方向を線分と同じ方向とすれば、干渉波の角度によって頂点a1,a2は、内側にも外側にも存在することになる。
これは、桃九の形状性質論の根拠となっている「その形状は頂点の1つでも内在か外在かによって情報値が異なる」という形状の性質の基本に関係してくる。つまり、脈(波)は角度によって情報値を変えているという概念の授業に用いられる図形に似たものが咲によって持ち込まれたのである。
アークの集合体の説明は、まだ仮説に過ぎないがチロも桃九も同じ意見である。
「アークは、頂点a1,a2を必ず内在(または外在)させるために波を切り取った残留波ではないか」という仮説であった。
御堂神社は、地球遺産指定を受けているだけで実用には供していないため、暫く閉鎖とし咲は優と共にムーの研究機関に協力することになった。
空間制御部のナカマが、この調査研究を担当することになる。噂を聞いてトランティスからも何人かの研究者が加わることになっていく。