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絶望の中で微笑みを

作者: クロネコ

 思いついた短編。

自己満足に書き上げました。

 「きゃぁぁ―――奥様ッ!

何をなさっているのですか?!」


響き渡る悲鳴。

その声に、使用人達は、集まっていく。

皆の視線の先では、自分の髪を燃やす女主人。

彼女の瞳は、虚ろで何も映していない。

まるで、硝子のよう。

手には燭台を持ち、社交界でも美しいと持て囃されていた髪の毛を、まるで櫛でとかすように撫でている。


「ナニって………イらないから、モヤしてるのよ」


感情のこもっていない声。

まるで、子供がイタズラをしているように、笑い声を上げている。


「早く、火を消してッ!」

「医者だ!医者を呼べ!!」


走り回る使用人達。

そんな彼らに少女は、呆然と見つめていた。

少女は、女主人の娘。

使用人達の雇用主の娘だ。


「フフフフ………イらない、イらないのよッ!

あのヒトが、ウツクしいとイったものなんて!

ナニもかも、なくなってしまえばいいのに………ッ!」


壊れたように笑い続ける母。

娘は、そんな母を見つめて、呆然としていた。

なぜ、母がこうなってしまったのか、わからないから。


「どうして………なのですか?」


娘の疑問に、誰も答えてはくれない。

 両親は、政略結婚だった。

身分の高かった母が、父に一目惚れしたらしい。

父は当時、身分こそ高くなかったが、見た目がよく王からの覚えもめでたく、優良株。

だからこそ、持ちかけられた政略的な婚姻だったそうだ。

けれど父には当時、恋人がいたらしい。

落ちぶれた貴族の令嬢で、父の幼馴染。

母の願いを叶える為、その恋人と父を別れさせたとか。

恋人は、家と幼い弟を守る為、年の離れた好色貴族に嫁いでいった。

その後、父と母は結婚。

数年後には、1人娘も誕生した。

娘から見て、父と母の関係は、政略結婚と言われているにしては、良好だったはず。

お金持ちのお嬢様気質な母と苦労性で優しい父。

周囲は、色々な噂を流していたが、2人は気にしていなかった。

勿論、娘も目に見える両親の仲を信じる。

そんなある時、ある噂を耳にした。

父のかつての恋人が、離縁した と。

実家は彼女の弟が継ぎ、見事に復興させたらしい。

その噂は、瞬く間に社交界に広がる。

無論、父と母の耳にも入っていただろう。

その直後から、父の様子がおかしくなった。

帰りが遅くなり、母とは違う香水が身にまとうように。

しばらくして、母は奇行に走るようになった。

 「………ロザリント」


祈りを捧げている最中、背後から声をかけられる。

少女は、振り返らない。

相手が誰なのか、わかっているから。


「どうか、話を………「お引き取りください」


声を遮るように、言い放つ。


「ここは、母の冥福を祈る場所です。

彼方方が、踏み入れて許される場所ではありません」


ロザリントは、黒いドレスに身を包み、凛として振り返る。

その姿は、亡き母の美しさと父の氷のように鋭い瞳を受け継いでいた。


「待って………どうか、お話だけでも」


怯むことなく、前に進み出てきた婦人。

彼女は、父の元恋人であり、現在の愛人だ。

父は、母に死が訪れている時でさえも、家に帰らずに彼女の元にいた。

あんなに愛されていたのに、絶望を与えて、孤独に死なせたのだ。

今でさえも、母の葬儀に愛人を連れてきた。


「ライモンド様とは、本当に何もなかったのッ!

それだけは、信じて?!」

「どうぞ、ご勝手に。

わたくしには、関係のないことですので。

再婚でも、すればよろしいのではないでしょうか?」


ロザリントの言葉に彼女は言葉に詰まる。

関係があったかないかは、証拠もないだろう。

けれど2人に、障害がなくなったことは間違いない。

もう、引き裂く悪者は、いないのだから。

娘さえ、何とかすれば。

 「一体、何のおつもりですか?」


ロザリンとは、呆れたように言う。


「何のつもりもなにも………私は、貴女に求婚しているのです」


しれっと答える男にロザリンとは、唇を噛む。

相手の男は、父の愛人―――継母も実の弟。

つまり、ロザリントにとって、血の繋がらない叔父だ。

母の葬儀の半年後、父と継母は、再婚した。

周囲からは、様々な反応が挙がる。

表向きは病死となっていた母の真相を知っており、思わしくない者。

母の死後、後妻にと望んでおり、悔しそうな者。

父と継母の厳しい中でも負けなかった愛情に、物語のようだと祝する者

ロザリントは、新婚の2人に悪いからと、行儀見習いを理由に家を出ていた。

母を苦しめ、死に追いやりながらも、平然としている父と継母の幸せそうな姿など、見たくなかったのだ。

使用人達は母の死後、総入れ替えされている。

勿論、退職金は通常の倍で。

おそらく、母が死ぬ直前の奇行を口止めする為に。

新しく雇われた使用人は元々、継母の実家で雇用されていた者ばかり。

継母の家族は勿論、彼らも父との仲を応援しているようだ。

だからこそ、恋人同士だった2人を引き裂く原因になったロザリントをよく思っていない者も多い。

現に、遠まわしに皮肉や母の悪口を言われてばかりなのだから。

それも、家を出るキッカケだった。

だからこそ、信じられなかった。

実の姉と恋人を引き裂いた女の娘に、求婚してくるなんて。

 勿論、断った。

けれど、彼は簡単に諦めてはくれない。

人が大勢いる中で、告白してきて、断りづらい状況を作ってくるのだから。

そして、着実に外堀は固められていった。

断ったはずなのに、周囲からは相思相愛と思い込まれている。

何度、訂正したかわからない。

とうとう、自分までもおかしくなってしまったのかと思うロザリント。

おかしくなってしまったのなら、それでもいい。

母の無念は、このままでは晴らすことはできないだろう。

ならば、方法はただ1つ。

一世一代の復讐の舞台を、公で演じればいい。

誰もが、偽りを信じているのならば、真実を知って貰う為。


「綺麗だ、ロザリント」


父に手を引かれ、祭壇に並んだ花嫁に話しかける花婿。

けれど彼女は、何も答えない。

頑なに、最後の抵抗のようだ。

司祭が、聖句を述べる。

そして、誓いの儀式になった。

彼は、迷うことなく誓いの言葉を声高々に。

けれど、次に問いかけられたロザリントは、口を開かない。

ざわつき出す、周囲。


「………誓いませんッ!」


小さくも響き渡る声。

ロザリントの拒絶の声に、静まり返った。


「母を死に追いやった血筋に、穢されるなど、侮辱的です。

この想いは、死しても消えることは……な…い」


最後まで宣言した時、ロザリントの口から血が滴る。

異変に気づいた花婿は、急いで医者をと叫ぶ。

そんな慌てふためく彼にロザリントは、微笑んだ。


「………ごめんなさい」

 ロザリントはその後、一命を取り留めた。

けれど、服用した毒の副作用で、意識が戻らないという。

教会は、あの後騒然としていた。

小さな噂でしかなかった、ロザリントの母の真相。

ロザリントの両親は、まるで逃げるようにして社交界から去ったらしい。

その後も、あちこちでは噂される。

あの結婚式の様子を。

ロザリントを妻にと望んだ男は、献身的に眠り続ける妻を大切にしていた。

周囲からは、新しい妻をと勧められるも、ロザリントを唯一の妻と扱う。

いつ、目覚めるかもわからない彼女を。


「ロザリント………貴女は、忘れているかもしれません。

でも、私は覚えています。

初めて会った、あの時のことを」


そう言ってロザリントの髪の毛に口付ける。


「姉の行為は、愚かなものでしょう。

かつての恋人とはいえ、妻のいる男への恋慕を捨てきれなかったのですから。

貴女の抱く憎悪は全て、私が受け止めてみせます。

だから………どうか、目を覚ましてください」


愛しています と囁く彼。

そして、夫が出ていった後、ロザリントの閉じられた瞳から、涙が流れた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ほとんどの短編が終わった感じのないものですね。 続編を書くつもりで中途半端にしているのなら、早々に書くべきですね。 あまりにも尻切れとんぼで、すっきりしません。 わざとなのか、力量不足なのか…
[一言] なんというか、結局は各々に応報があったということですね。 母は恋人を権力で引き裂いた応報として、心を病んだ。 父と義母は、その母を追い込んだが故に社交界からはじき出された。 義叔父は、己の姉…
[一言] 可哀想な境遇の子がつらいながらも最後は幸せになるような話、好きです。 弟さんとの出会いやロザリントのその後などが気になるので、ぜひ続きが読みたいです(^^)
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