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理想のマイホーム生活、のはずが

 比良坂泉(ひらさかいずみ)が神と名乗る黒い球体に送られた異世界。その世界には名前がなかった。正確には名前をつけられるほどまで世界を把握できていなかったからである。


 彼が送られた異世界は魔法がありエルフやドワーフ、獣人など多種多様な種族が生活しそれら種族が時に敵対し、時に手を組み繁栄と衰退を繰り返していた。


 そしてこの世界には数え切れないほどの数多くの古代遺跡が存在していた。誰が、何時どのように作ったのかはハッキリとは解ってはいない。

 ただ今のこの世界の技術力では到底再現する事が出来ないような高度な技術で作られておりかつて何百年、何千年と昔に栄えた文明が作り上げたのではないかと言うのが通説であった。


 そしてこの古代遺跡には様々な罠や仕掛け、そしてモンスターが生息していた。そんな危険な遺跡に足を踏み入れ、罠や仕掛けを解き、モンスターを撃退し古代の秘宝を手にする人々が存在した。

 彼らは知恵と力と勇気を持って僅かなミスが命取りになる危険な遺跡を探索、攻略して行った。


 そんな夢と希望、それと同じぐらいの危険が存在するこの名もなき異世界にやってきた彼が取った行動は、貰った家に引き篭もる事だった。









 キッチンでやかんに水を溜めガスコンロに乗せて火をかける。水が沸騰する間におかずである冷凍食品を皿に出してレンジにかける。

 そうやって今日の夕食の準備をしているとつけっぱなしのテレビから毎週見ている番組の音が流れてきた。


「~さあ、今週もやってきましたワタクシ祭司智之(さいしともゆき)と」


「私斎戒梢(さいかいこずえ)が送る」


「「驚愕!!現代社会の裏事情!!」」


 テレビから流れる音を聞きながら夕食であるカップラーメンを取り出し蓋を開け沸騰した水を注ぎ蓋をする。なかのお湯がこぼれない様に気を付けながらテレビがあるリビングに向かいテーブルの上にカップラーメンを置いてキッチンで解凍された冷凍食品を取りに行く。

 冷凍食品を運び飲み物を冷蔵庫からだしてテーブルの上に持ってきた頃にはカップラーメンが出来上がっていたので夕食を始める事に。


「うん。やっぱりカップラーメンは味噌味が一番だな」


 カップラーメンを食べ、冷凍食品をおかずにし飲み物を飲む。その傍らにテレビを眺めるその姿は極々普通の独身男性の夕食の風景だった。


(朝は何時までも寝てて良いし仕事もしなくていい。食品等の日用雑貨はパソコンでいつでも配達してくれる。口うるさい上司や話題の合わない後輩に頭を悩まされる事も無い。それにこの家にいる限り絶対に安心できる。サイコーってやつだな)


 麺をすすりながらそんな風に考えている彼はこの世界に来てから一月が経過しようとしているのに送られた始めの場所から一歩も動かず黒い球体から貰った特典である自分だけの家(マイホーム)に引き篭もっていた。


  自分だけの家(マイホーム)


 彼が名づけたこの能力は名前の通り自分だけの家を作り出す能力である。作り出す、とは言っても実際には異空間に自分の思った通りの家を作りだしその場所に通じるドアを任意で出現させる、と言う能力だ。


 作り出す家は基本的に彼が家として認識していればどんな形でも作り出す事が出来る。ピラミッドの形をしてもいいし高層ビルにしてもいいし、中世期のヨーロッパのお城でも、とにかく彼が家だと認識していればあらゆる形で作り出す事が出来る。

 そしてどういう原理かは不明だが家の中に必ずあるパソコン内で通販と言う形で彼がもと居た世界、つまり地球上に存在するあらゆる物が通信販売、と言う形で入手が出来るのである。


 さらに家の中にあるテレビでは地球で放送されている全ての番組が常時見放題。過去に遡って見過ごした番組を見たり録画する事も可能と、実に引き篭もるには最適な空間であった。


(こうやって好きなときに好きなことを好きなだけ出来るって元居た世界では出来なかったからな。異世界転生さまさまってやつかな)


 そんな風に働きもせず、自分の好きなことだけをして自分の家に引き篭もっている彼は思いもしなかった。この能力が、自分が元居た世界の基準で作られていたなど……。



 彼が引き篭もってから今日で一月が経った。その日の朝も彼はいつものように二度寝、三度寝を繰り返してから太陽が真上を少し過ぎたぐらいに寝室から抜け出した。

 寝間着のままのそのそと目を擦りながらトイレにいこうとしたその時、リビングのテーブルの上に封筒が置いてあるのが目に入った。


 彼は(こんな封筒置いた記憶は無いぞ?)と思いながらその封筒を手に取る。その封筒には請求書内封と書かれてあった。


「請求書?」


 疑問に思いながら封筒を開けてみるとその中には一枚の紙と真っ白な通帳が入っていた。まず紙のほうを見て、彼は驚愕した。

 紙には電気代、水道代、ガス代と始まり彼が一ヶ月内で通販で注文した数多くの日用雑貨や食品の値段が書かれていた。その額約30万円。


「請求額30万円……えぇ~」


 思いもしなかった請求額に顔を引き攣らせる彼。そのまま彼は封筒に入っていた通帳を開いて見てみるとそこには彼が元居た世界で溜めていた金額が記入されており、すでに今月の請求額が引き落とされていた。


「自分の能力なのにお金が掛かるってどういう事なの……」


 思いもよらない出来事にうな垂れる彼はそのまま寝室に戻り不貞寝した。







今月の請求金額29万8212円。


残り金額170万6029円。

作者にはカッコイイネーミングセンスは無いようだ。

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