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ラミアの森  作者: 林育造
第1章
8/44

結局、索敵と戦闘の可能性を考えて、朝に出ることにした。


家に帰りたかったのだろう、一週間もすると「移動に耐えられる」ということをパフが盛んに主張(アピール)するようになったので、その3日後、つまりパフを家に帰すと決めてから10日後の早朝に向かうことにした。


ちょっと遠くに薬草と素材の採取に行くことにしたからと、カルボさんに鍵を渡し留守を頼む。もっとも、店番を頼むわけではなく、何かあった時のためで店は臨時休業である。

往復で2日かかるはずなので何日か留守にすることになるが、緊急で困ることはないと信じたい。狂犬病のワクチンについては投与方法を知る体験者であるディケンスさんに元々少し預けてあり、もしもの時の対応は普段から頼んである。

張り紙はしない。侵入者に不在の期間を教えてやる必要などないし、第一書いてある字が読めるものはほとんどいない。ご近所に情報を流しておけばよいのだ。



早朝というより夜明け前、人通りがないのを見計らって二人で店を出る。暗い時間帯は人間はほとんど出歩かないし、偶にウェアキャットたちが集会していたりするがこちらに注意を払うわけでもない。

街を出て星で方角を確かめ、森に向かう。街の近くは道もないが邪魔になるような岩などもないため、松明なしで進む。森があるのは川の近くだけで、街と森の間は疎らな草原や灌木のあるブッシュとなっており、石を含む砂地が続いている。

俺は砂の上は歩きにくいのだが、パフは砂の上を滑るように移動していく。我々と全く異なる移動方法である。

太陽が昇り、明るくなってきた。

俺は狩りに来たこともあるので、ところどころにある太い木や岩を目印に、森へ向かって進む。


昼前大分暑くなってきた頃に、ほぼ中間地点のはずの窪地に着いた。ここは雨季には池というか沼のようになる。

イノシシの胃袋に入れて持ってきた水を飲み、干し肉少々を齧る。この後はさらに暑くなる中を移動するので、たくさん食べるのは禁物である。

パフは干し肉を食べにくいようで水だけ飲み、下半身にも水をかけている。

少し体温が上がり過ぎたらしい。


休憩後、歩き出すとパフが上空を気にする素振りを見せるようになった。見上げると、2羽の大きな鳥が上空を舞っている。腐肉大鷲(グールバルチャー)だろうか、それとも大猛禽(イーグル)だろうか。どちらにしろあまり目を付けてほしくない鳥だ。前者は俺たちがそろそろくたばりかけに見えているという証拠だし、後者は獲物として狙っていることになるからだ。


どうやらイーグルだったようだ。昼前は我々の後ろから陽が当たっていたため、死角から襲いかかっても影で気が付く位置関係だったのだが、午後になって太陽が前に回ったため、接近しても気付きにくくなってしまった。パフに聞いたところではやつらは意外に頭が良く、ラミア族を襲うときは正面から襲いかかり、見上げて後ろに倒れたところで腹を嘴で突くのだそうだ。この前襲われた時パフは逃げようとして前に倒れ、とっさに尻尾で庇ったために尻尾に裂傷を負ったが、腹をやられなかったので助かったと言っていた。


2羽のイーグルはかなり接近してくるが、今日は弓を持ってきておらずナタだけなので、直接襲ってきたときに切りつけるくらいしかできない。こいつら、パフをつかんで飛び上がることができるので、パフのすぐ後ろをくっつくようにして歩いて行く。

おっと、正面から突っ込んできた1羽が、俺めがけて足を突きだしてきた。こいつら本当に頭がいい。まずは俺を無力化して、それからじっくりとパフを狙うつもりだ。


「パフ、いいか。ナタを振り回すから、姿勢を低くしていてくれ」

「わかりました」


伏せるようにパフが姿勢を低くしたのを確認し、2羽のイーグルの位置を探る。1羽が前から突っ込んでくる。もう1羽は上空にいる。

バサッ、脚を伸ばしてきたイーグルを俺もしゃかんで躱し、足首に相当するところをナタで横薙ぎする。ガッ、と太い木の枝を叩いたような手ごたえはあるが、大きなダメージを与えるまではいかなかったようだ。イーグルはそのまま脚を引っ込めて上昇していく。

俺がナタを横に振りぬいた瞬間に、もう1羽が急降下し、今度は嘴で振り下ろすように攻撃してきた。こいつら、連携して攻撃してきやがる。両肩を爪でつかんで後頭部か背中を突くつもりのようだ。

『飛べない哺乳類の前脚舐めんな』

体をひねりながらイーグルの顎めがけて思いっきりナタを叩きつける。さすがに喉は柔らかいようで、ナタの刃が食い込み、傷つけた。

「ギェッ」

そんな声を出して上空に離脱していく。それを見て、もう1羽も離れて行った。1羽では攻撃する気がないようだ。


「ふぅー、パフ大丈夫か?」

「……はい」

天敵なのだろうし、積極的に反撃できない相手なのだろう、不安そうに飛び去ったイーグルを見上げている。見たところ怪我もないし、大丈夫だろう。

『確かに、あれに襲われたら慣れていない個体はどうしようもないな』

声がそんなことを呟く。だからラミア族は森からあまり出てこないのか。

警戒しつつ進んだがこのあたりを縄張りにしているのは先ほどの2羽だけだったようで、そのあと攻撃を受けることはなかった。


午後だいぶ遅くなって、森がはっきり見える場所まで来た。見ると、ラミア族らしい何頭かが警戒するように徘徊している。

「わかい個体(もの)が森の外に出るときにはあのように慣れた個体(ひと)がけいかいします。私たちははなれすぎたときにすきをうかがっていたイーグルに攻撃を受け、さらわれてしまいました」

なるほど、完全に夜行性と言うわけではないらしい。


さて、あの人たちは警戒しているところらしいから、挨拶すべきだろうか。

どう切り出すべきか。「パフさんを返しに来ました?」

いや、攫ったのは俺じゃないし。

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