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ラミアの森  作者: 林育造
最終章
42/44

ママサの森まで戻り、ヌーハでアルさんに出会ったことを話すと、パフが口を挟む。

「知らないラミア(ひと)に近づいちゃだめって言ったじゃない!」

尻尾の先が小刻みに震えている。これは怒っているサインだ。

「いや、だってメグさんもいたし、敵意もなかったし」

「ぶーっ」

「まぁそういう訳で、焼けた部分がある程度再生したら生活の仕方なんかを学ぶために呼んでもいいものでしょうか」

「それは構わないけど」

「本人が教わっていないのだから、子どもが産まれた時にいろいろ教える者が必要だね」

「メグさんが話はできると思いますけどね」

「その人はイーグルの対処は知っているのかい? 知ってて当然と思った我々が気を逸らした時に襲われたりしたら危険だと思うが」

「あ、そうですね。その辺のことも聞いてみます」


ママサまで戻ると、家がほとんど完成していた。コンクリートにこだわる俺が居ない間にさっさと漆喰でレンガを積んでしまったようだ。もう3階部分を乾燥中なので、今更作り直すわけにはいかない。マナド組も、一向に進展しない建築工事に困っていたらしく、ヌェムのゴーサインをこれ幸い あっ と言う間にやってくれたわけである。街から見える方向の壁に日時計構造を付けるとかいろいろやりたかったんだがなぁ。


「で、どうだったの?」

「うん、却って獲物がやって来るとか言ってったけど、一応口止めしといた」

「そう、じゃあしばらくはのんびりできるのね」

「あと、向こうでラミアっぽくないラミアさんに出会って、ママサに来ないかっていう話をした」

「ふーん、あ、そうだ。ラミアって言えば」

ヌェムに、物陰に連れ込まれた。うん……、……それはそうだが、いや……えっ、なぜそれを……。

俺はハッピーを見つけて問いつ、あっ、こいつ目を逸らしやがったっ。

「犯人はおまえかぁっ」

「ぴゅうーうっ」

逃げられた。

「ハッピーのせいにしないのっ」

逃げられなかった。

それにしても、ヌェムはどうやってハッピーを手懐けたんだ?


ママサ評議会で、ヌーハの人たちのことを話題にしてみた。

特に移住の制限などをやっているわけではないので拒否はできないだろうが、もし全員が移住してくると受け入れる地区では人口が一気に1割近く増えることになるので、住む場所と食糧、働く場所や狩猟区域の検討と調整が必要になるだろうという話になった。

「だが、そういうことならもっとマリリ川の近くの方が良いのではないかな」

「そうですね、ママサの起源は狩猟基地だったみたいですから、農地を作る余地はまだまだありますし」

「川と言えば、発電所とやらの進み具合はどうかね」

「いやぁ、それが何とも。構造が完全には理解できていませんし、電線の原料もちょっと……」

電柱3本分の距離でさえ相当なロスが出るようだった。電圧を高くすれば少しは改善されるはずだが、それでも川からママサまでの送電に耐えられる電線ではない。いっそ、意外に産出量の多い銀で電線を作ってしまおうかとも思ったが、盗ろうとして感電されると面倒なので止めた。本人がいくら感電しても構わないが、ほぼ確実に停電してしまう。

モーターも、今回のヌーハ行きで磁石の情報を得ることができたから、何とかなると信じたい。

ちなみに、初代実験用電柱はすっかりハルピュイアの団地と化している。

「そうそう、前に言っていた薬草園の件は」

「順調です、今の所ウサギや虫に食われることなく育ってます」

それどころか、薬草の中にウサギの大好物でも混じっていたらしく、侵入防止のつもりで周りに罠を仕掛けたらウサギが掛かる掛かる、乱獲の恐れがあるくらいである。

これも飼ってみたいが、それこそコンクリート埋め込まないと、穴掘って逃げられるしなぁ。

ウサギの肉はミンチにすると少量の塩でよく粘りが出るので、ソーセージが作れそうである。幸い、狂犬病に罹ったウサギはこれまで1頭も罠にかかっていない。


狂犬病ワクチンの生産は、マナドである程度の目途が立ってきているらしい。注射器の接続部分(ジョイント)がまだ納得できる強度になっていないので、完成度を高めることを目指そう。

ワクチンが行き渡れば流行も収まって来るだろう。尤も、根絶はなかなか難しいかもしれない。鍾乳洞にはコウモリもいたしな。

鍾乳洞方面の砂漠は、風向きの問題なのか砂の量や性質によるものか判らないが、マリリ支流に入ってくることはなさそうとのことである。あそこにしか見られない生き物もいたので、埋もれてしまうのは惜しい。種がどうとかより、いい薬の原料になりそうだし。



アルさんの説得はうまくいかなかった。

生活力の無さは自分でも自覚しているらしいが、ヌーハの人たちは食べ物を持ってくるという方法で交流を持とうとしてくれているのが分かるので、当分はこのままでいたいとのことだった。ただ、生活方法を学ぶためにいつかはママサの森に行ってみたいとも言ってもらえたので、ずっとこのままというつもりはないらしい。イーグルの対処方法は母親に聞いたが、イーグルそのものを見たことがないので対処できるかどうかわからないという。上空から見るとアルさんはおそらく思いっきり目立つので、対処方法はぜひ知っておいてもらいたい。


考えてみれば、ママサの森以外のラミア族に会ったのは初めてである。

アルさんの母親はすでに亡くなっているので、どこから来たのかとかいう情報は途絶えている。しかし、パフも言っていたが他にもラミアの個体群が存在しているのは確かで、それが今回確認されたことになる。もしかすると、普通にオスがいて、通常の有性生殖をしている個体群もあるのかもしれない


動ける間に磁石とラミアを探しに行ってみようか。自分の子どもができたらそうそう放ったらかしにできないだろうからな。 そうなると、パフの言っていたように、「食べ物じゃありません!」という生態的通訳が必要かも。

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