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ラミアの森  作者: 林育造
最終章
41/44

その後、ヌーハの森からの移動について街の人たちの意見を聞いても良いというところまで話を進め、ついでに名無しさんとかラミア様と言い方が紛らわしいのでアルさんと呼ぶ許可をもらい、街に戻ることにした。帰りは下りとなるため、2時間ちょっとしか掛からなかった。距離は3里もないようだ。


代表の家に戻り、ズボンが血だらけで何事かと驚かれたりしたが、アルさんについての話を聞くことができた。

森で聞いた通り、街の人たちのほとんどはバータランドというところの住人で、奴隷商人による奴隷狩りで捕まってしまい、船に積み込まれた。アルさんの親はすでに船に乗せられていたのでどこの人かはわからないが、牙を折られて奴隷商人たちの慰み者にされていた。当然生きていく最小限の食事しかもらっていなかったので、子どもが産まれることはなかっただろう。

「我々の中で何人かは船で働かされておったが、あまりの食事の少なさに見かねた者が自分たちの分の中から少しずつ分け与えたりしておったのな。が、それが奴隷商人どもに見つかってしまっての、打ち据えられたんよ」

「うわぁ」

需要と供給、ママサやマナド周辺では話を聞かないが、どこかでは奴隷を必要とする文化が存在しているわけか。

「で、怒った者たちがラミア様の親(ヴァスキさま)の枷をはずして、いわば反乱を起こしたんよ。武器は取り上げられとったが、海狸人(ウェアビーバー)の歯を持っていた者がいて、それをヴァスキ様に渡しての」

「ウェアビーバー……だと。よくその歯は見つからずに持っていられましたね」

ビーバーは立派な齧歯目である。ネズミなんかが絵で描かれるときに上の門歯(まえば)が強調されるので勘違いしている人が多いが、彼らの歯で本当に鋭いのは下あごの門歯である。上の門歯の裏側で常に研磨され、先は鋭く、常に伸び続けるため下あごの中に根深く入っており、かなりの長さがある。

「ああ、奴らは奴隷狩りん時、磁石を使ってナイフなんかを調べるでの、鉄でなければ見つからんよ」

「――ッ、そんな強力な磁石があるんですか」

「ん?ああ、バータランドでは珍しくはないな。で、ヴァスキ様はその歯を咥えて咬みついたかと思うと、奴隷商人を一刺し。あっという間に倒したわ。余程腹が減っておったのか恨みのためかその後噛り付いておったがの。こちらの方が数はずっと多いのだし、我々が武器を持っているのと親分が食われるのを見た子分どもはほとんど海に飛び込んで逃げ……ようとしたが、サメだらけの海で逃げおおせた奴はおらんだろうの」

そして漂流、奴隷商人を食ったアルさんの親(ヴァスキさん)は食事が要らないし、船に釣り道具があったので魚を食べつつ、スンダランド(この大陸)に流れ着いたのが6年ほど前、と。


北の海岸側は山が急峻で住むことのできる場所が確保できそうになかったので、山を越えてこちら側に来たらしい。ヴァスキさんは途中の森で別れようとしたが、街の人たちは牙を折られていては餌も獲りにくいだろうと一緒に来ることを勧め、川のほとりに街を作ったという。マリリ川は皆の好物のナマズがよく釣れるので暮らしやすく、気に入っているそうである。あの人食い大ナマズを食ってしまうとは……。。

「ヴァスキ様は子どもが産まれた後、思うところがあったらしくやはり上の森に住まわれた。我々が船で奴らに勝てたのもヴァスキ様のおかげだしの、貢ぎ物として食べ物を持って行っていたんだが……」

あるとき、ヴァスキさんが森の外で倒れていたという。捕まえようとしたイノシシに返り討ちにあったらしい。普通、ラミア族がイノシシ程度に後れを取ることはないはずだが、牙がないのも不都合だったろうし、或いはウサギか何かを捕まえようとしているところを後ろから襲われたのかもしれない。


「ラミア様には街に来て一緒に暮らさんかと言ったんだがの。ヴァスキ様にラミアは森で暮らすものだと教えられとったらしく森での暮らしを望まれた。餌の採り方も良くは知らんだろうし、世話をしたり、いざと言うときは自分が食糧になることも厭わぬ者を募って行かせたが、戻されてきたので食糧だけは届けるようにしとるんだわ」

うん、アルさんが食うに困ることはなさそうではある。一応、アルさんの移住が可能かどうか打診してみる。

そこの(マリリ)川の下流に、ラミア族が大勢住んでいる森があるのですが、本人が望めば移住を勧めても良いでしょうか」

「そうだの……、恩人の娘が近くの森を離れるのは寂しいが、仲間がいるというのならその方が良いのかもしれん。その時は、この街の住人も移住が可能かの」

要するに”ラミア様”と離れるには忍びないので、希望する者がいれば街の人たちが一緒に移住して良いかと言う話である。街の人たちが移住するとなるとママサへ、と言うことになると思うが、一介の評議員にそんなことを決定、許可できる権限がある筈もないので、ママサに戻って聞いてみることにして一旦話は終わらせた。

念のため、ヌーハの住人の人数と構成を確認する。人間(ヒューマン)人猫(ウェアキャット)がほとんどで、豹人(ウェアパンサー)が少し、全部で160人、

そのうち70人ほどがここに来てから生まれた子どもである。そのため、人間族では20~30歳と6歳以下のものばかりとなる。代表のチェラさんが最年長の自称31歳ほど。

西暦だとか、元号だとか、年の連続を個数として数える方法を持っていないと、年齢なんて曖昧なものである。暦がしっかりしているというのはそれだけで立派な文明なのだ。

川沿いに5日で来れる距離だから、移動そのものは難しくなさそうだが、アルさんの説得と移動が大変そうだ。もっとも、片道移動なので川沿いの小さい方の森の木で筏か船を作れば、マリリ川を下っていくだけで済む。住居の材料兼用と考えれば筏が最良の方法だろう。

問題はアルさんが決心するかだが、メグさんに説得してもらおうにも、メグさん自身が森を出てこちらにやって来た訳だしなぁ。受け入れる余地があるのなら、なぜメグさんが森を出る必要があったのかってことになるし……、ほぼクローンで殖えているんだから”血を濃くしないため”と言うわけでもないな。

それに、ヌーハの人全員が移住しちゃったらメグさんが困るな。


こっちも森で聞いてみないと結論は出せないか。

「綺麗なお姉さんは好きですか」

ってパフに言ったら怒るかな。

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