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ヒューマノイドのうちで、人間とその他の獣人の違いはいくつかある。
1つは、服を着ているかどうか。
獣人には「なぜ防具でもない服を着る必要があるのか」
その理由がわからないと言われる。
そもそもこの街周辺は、「1年のうちで最も寒い時期に外で裸で寝ていたらちょっと辛い」程度の気候であり、風を遮断できる家にベッドがあることを考えれば、寒さは理由にはならない。
一般人には、防具をつけている必要性が存在しない。
「着飾る」と言う点で見ると、獣人で余分な飾りや色を付けて自分をアピールするのは、すべて男であり、女は敵に襲われると影響が大きいので地味な色彩をしているものだ。
その点でも、女が服で着飾っているヒトの行動は理解しにくいようだ。
結局なぜ服を着るのか説明できず、「恥ずかしいから」なんて曖昧に説明した者がいたためなのか、獣人の間では、次のように理解されているらしい。
ヒトが服を着るのは、
1 毛が生えてなくて、そのままでは暖かく寝られないから
2 男は、使用しないとき収納しておく機能がなくなってしまったため、いつもブラブラさせているものを仕舞っておくため
3 女は、乳房が2つしかなくて恥ずかしいから
責任者出てこい
もう一つの違いは、お金に対する考え方である
獣人は、あまりお金に対して執着しない。
まず、一部の獣人を覗いて、「貯蓄」と言う概念がほとんどない。
お金を使う場合、「食料」を買うのが一般的と思われるのだが、ではお金を得る手段はと言うと、何かを売るか、働くかである。
肉食系の獣人が多いのだから、肉なら買ってもらえるだろう。
では、その買ってもらう肉はどうやって入手するのか。
答え→獲ってくる
いや、ちょっと待ってもらいたい。採ってきた肉を金に換えて、その金を何に使うという話だった?
答え→肉を買う
問い→獲ってきた肉を売らずにそのまま食べればよいのではないですか?
答え→そうかもしれない。
それなら働けば?
雇われるとすると利益が分散されるので、優秀な人材は働いている時間に狩りに行けば、働いて得た金で買える肉よりも多くの獲物が取れるだろう。
自分で獲るより、働いて得た金で買える食べ物の方が多いような獣人はもうハンターとして終わっている、獣人生が残り少ないような者だ。
彼らは、そうまでして生きている意味などないという。
経験を文化として伝える意味があるのではないかと思うのだが、獲物を獲れなくなったら終わりという考え方があるので、意見の相違は如何ともしがたい。
意外にも、年取ったものが文化の担い手として意味を持つという思考は、街にいない人型象に相通ずるものがある。
雇用の形態でいうと、賃金発生機関としてもっとも機能しているのは軍隊である。街の規模が小さいので軍と言えるほど大げさなものではないが。
ここで言う兵士というのは個々の能力が高いか、集団として能力が高いかでないと意味をなさない。
だが、個々の能力が高い獣人はえてして個人戦が主流の戦い方をする。
個々の能力が高く集団行動をするのは獅子人だが、彼らは他の獣人から指示されるのが嫌いなので、兵士としては使いづらい。
昔、獅子人の軍同士がぶつかったとき、縄張り争いのように男が一騎打ちを始めてしまい、「残りの兵士も攻撃しろ」と指示を出した上官が
「うるさい」
と、味方のウェアライオンに吹っ飛ばされたという話があるくらいだ。
しかも、彼らは基本的に自分が食べる分以上の殺戮をしない。
食べる分以上の相手を殺させ続けるというのは、大変難しい。
他に、人狼や狼男も兵士に向いてはいる。集団行動が得意だし、ボスからの指示もしっかり聞く。しかも、食べる分を超えて殺戮することができる。
だがなぜ彼らが上官の言うことを聞くのかと言うと、上官を強い者と認めたからである。つまり、群れのリーダーに従うのだ。
そのため、進撃して行った先で隊長がやられ、部隊丸ごと敵に寝返った、なんてことになりかねない。
守備隊であれば「攻撃に行ったはずの部隊がいつの間にか消えた」という不安はないものの、守備隊の隊長が強い敵にやられてしまうと、守備隊のはずが隊長に勝った敵の言うことを聞いて一緒に攻撃に加わるという危険がある。
そんなことになったら目も当てられない。
よく言うことを聞く兵士は、言う事を聞かせる手段を選ばないと危険なのだ。
結局、一番兵士に向いているのは規律ある集団行動ができ、オーバーキルを厭わない人間であるらしい。
そんなわけで、商店を経営するのも、もっぱら働いているのも、人間が多いのだ。
そして、リスクと値段の関係から、一番多いのは八百屋だったりする。
草食の獣人にとっては、周囲を警戒しながら野草を苦労して食べるより、人目があって安全な街の中でお金を稼ぎ、売っている野菜を買う方がはるかに安全に食事ができるのである。
そんな訳で、欲しがっている人は多いのに、一ヶ所で売ろうとするとなかなかたくさんは売れないような、例えば蹄鉄や塩、保存食と言った品を扱う商人が街の外にやってきて屋台を開くことも結構ある。